第2節 腰痛体操・マッケンジー体操〔エクササイズによる療法〕 

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ニュージーランドの理学療法士のロビンA.マッケンジー氏 により考案された腰部の伸展をメインとするエクササイズです。従来は腰痛にはむしろ禁忌とされていた腰を反る方向へ動かす体操で、現在では多くの整形外科や整体院で指導されています。特に、椎間板ヘルニアを含む椎間板損傷による腰痛の治療や姿勢不良や関節機能不全による慢性腰痛治療に効果を上げている運動療法(治療法)です。

現代人の日常生活において、背中を丸める屈曲姿勢をとることが腰に正常な彎曲を伴う姿勢をとることに比べ非常に多くなっています。歩行や立位以外のときはすべてある程度の屈曲を伴っていると言っても過言ではありません。ゆえに、通常は伸展(反る)方向の可動制限が起こります。

しかし、従来からのウィリアム体操に代表される腰痛体操では、腰部のストレッチを行う屈曲方向のエクササイズは奨励されますが、関節に負荷のかかる伸展方向の運動はむしろ禁忌とされていました。何らかの損傷により可動制限が起きた肩、肘、膝などの関節に、痛みを我慢してリハビリテーションを行なうという話は一般によく耳にして、通常の理学療法として皆さん認知されています。

一方、腰椎の椎間関節に関してはどうでしょう?多くの方が痛みを伴うと再発を恐れ「用心する」という言葉を使い、損傷部位をかばい、機能回復訓練を怠るという結果になります。故に、伸展方向の可動制限とそれに伴う痛みはいつまでたっても残ったままで、加えて屈曲状態の癖が付いた腰部は、絶えず上体の重みを腰の筋肉で支えなければならない状態をまねき、慢性的な腰痛に発展させます。

マッケンジー体操は腰椎の伸展方向の可動性を回復させ、より負荷の少ない生理的に正しい姿勢をとれるように訓練する運動療法です。

※以下の体操は、ご自身の責任において行ない下さい。起こったいかなる事象に対し、当方は一切の責任を負いません。また、椎間板損傷が疑われる方や下肢への放散痛や痺れがある方は専門家の指導のもと行う事をお勧めします。

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ステップ1
急性腰痛の場合はまずこの姿勢から行ないます。うつ伏せになることで腰椎に少し彎曲が出来ます。5分~10分間、この状態を保持します。この姿勢は、うつ伏せになることが全く困難でない方や慢性腰痛の方は省いていただいて結構です。
また、この状態をとる事自体が痛みで不可能な場合は以下の運動には進まず、お腹の下に座布団やクッションを重ねて入れ、徐々にそれを取って、うつ伏せが出来るようになる事を目標にして下さい。

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ステップ2
次に、肘を床につけて、さらに腰のを反りを大きくします。(スフィンクスの姿勢)いきなり肘を90度にするのが無理な場合は、上の方から肘を付いて徐々に90度にしていきます。5分~10分間この状態を保持します。この姿勢で腰部にさほど痛みを感じない時は、こちらを省いてステップ3の運動から始めていただいて結構です。
通常は痛みが徐々に治まっていきますが、痛みが強くなったり、お尻や足に痛みや痺れが出る場合には中止して下さい。

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ステップ3
腰椎の伸展可動域を増加させるため腕立て伏せのような反復伸展運動を行います。この時、気をつけることは、背筋を使わずリラックスした状態で腕の力だけで行うことです。腕を伸ばした後、息を吐きお腹をしっかり落とすようにしましょう。
10回を1セットで、最初の2~3回は注意して行ない、安全確認後続行して下さい。そして9回目と10回目は肘を伸ばした状態で数秒間静止して下さい。
<注意点>
マッケンジー体操では、この運動を当初は2~3時間おきに行なうことを推奨しており、寝転ぶ所がない場合は立った状態で手で腰を押し出すようにして腰を反らせる方法で代用します。症状の改善に伴い1日4セットに減らします。多くの機能不全による腰痛が1~2ヶ月で改善します。
この運動を行う時、元からあったお尻や足の痛み・痺れが減少して、背骨上(身体の中央)に痛みが移行する事がありますがこれは “中央兆候” と言われ、回復に向かう良い兆候です。但し、この運動も強い痛みが出たり、お尻や足の痛みや痺れが増加したり、今までなかったそれらの症状が出た場合はただちに中止して下さい。

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ステップ4
マッケンジー体操では伸展の運動だけでなく、下肢への症状が完全に治まったあと、可動性の少なくなった屈曲の動きを回復させるために屈曲の体操も行います。
方法は仰向けに寝て膝を抱きかかえるようにして腰部を屈曲させます。その後痛みが出ない様になれば立位で行なって下さい。また、症状が治まった後、前屈時に身体の傾きが出る方は傾く側の反対側の足を椅子などの台にのせて、立位で屈曲することで歪みを矯正します。
屈曲運動は損傷部位の回復が完了し、下肢症状がなくなってから行いましょう。くれぐれも急いで行って悪化させないようにして下さい。のんびりと行いましょう。

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ステップ5
身体に傾きが出ている場合
椎間板症の場合、多くは身体に肩と骨盤がクランク状に平行移動する傾きが現れます。傾きが出ている時はまず傾きを矯正してから伸展のエクササイズを行いましょう。
方法は傾きをまったく正反対の方向に戻すように骨盤に手を当てて押し戻します。痛みが出ますが、多くは30秒以内に鎮まり、手を離すと傾きがなくなるか減少しています。但し、これで痛みが強くなったり、下肢への放散痛や痺れが出る場合は中止して下さい。

※椎間板ヘルニアの診断を受けている方がマッケンジー体操を行なうときは専門家の指導の元で行うようにして下さい。

急性腰痛への適応

寝た状態から起き上がることが困難な急性腰痛も上記のステップ1やステップ2を行い、伸展状態を保って起き上がる事によって、症状を減少させる事と起き上がる時に負担を掛けて、さらに傷めるのを防ぐ事が出来ます。加えて、通常の急性腰痛の対処法も忘れずに行なうようにして下さい。

椎間板ヘルニアへの適応

マッケンジー体操では腰椎を伸展することにより椎間板の前面が拡げられ、後方に突出した髄核が元の位置に戻るという理論です。(しかし、椎骨前面は強靭な前縦靭帯が付着しているので伸展運動により髄核が元にもどるほど椎間板内を陰圧にするのは不可能だと思える!)

しかしながら、実際の施術現場では多くの方がマッケンジー体操で椎間板ヘルニアによる、下肢痛から解放されています。近年の研究で椎間板ヘルニアによる下肢への疼痛はヘルニア塊の物理的刺激のみによるものではなく、接触によって組織に起こる化学反応や腰部や臀部の筋のトリガーポイントの関連痛によるものではないかと言われており、これらがマッケンジー体 操で伸展機能が回復することにより解消されるのではないかと考えられます。

○ストレッチは軽く伸びて気持ちいい強さで

ストレッチングを行う部位は、主に胴体と脚をつなぐ腸腰筋(股関節のところにあります)ハムストリング(太腿の裏側)、大腿四頭筋(太腿の前側)、大殿筋(お尻)、腰背部です。ストレッチする時は、ストレッチ部位が軽く伸びていて気持ちいいと感じられる強さです。

コツは痛いと感じるところまで伸ばさないことです。痛みを感じるところまで伸ばすと、筋肉はかえって縮もうとする性質をもっています、また痛みは不快感として脳に残ります。そうすると明日はもうやりたくなくなってしまいます。

腰痛に効果的なストレッチングができているかどうかの目安は、リラックスできて気持ちよく、身体の調子も良くなってきたと感じられることです。一つの部位に対するストレッチ時間は30秒~40秒、冬場は夏場よりも時間を長めにとるとより効果的です。

○筋力を強化する

筋力強化を行う部位は、腹筋と背筋、殿筋(お尻の筋肉)、ハムストリング(太腿の裏の筋肉)です。筋力強化する時は息を吐き切る7~8秒程度、強化部位に意識を集中して行います。息を吐く理由は血圧が上がるのを防ぐ為です。うまく息が吐けない場合は、秒数を声に出しながらやってみましょう。

回数は意識を集中して力がうまくはいっていれば、5~8回程度の繰り返しで十分効果が得られます。力がうまくいれられているかどうかは、指先を筋肉に対して垂直に差し込むように触れると筋肉の硬さで力の入れ具合がわかると思います。

○腰痛体操を行う時は、次の点に注意しましょう。

  • 体調が悪い時、いつもより腰が痛い時、シビレ感が強い時はやめましょう。また、その運動を行うことで痛みがひどくなるものは直ちに中止しましょう。
  • 脱水になると筋肉が緊張し、筋肉内の疲労物資を排出しにくくなります。水分を十分にとるようにしましょう。
  • 圧迫骨折を伴う骨粗鬆症の人、骨粗鬆症がかなり進んでいると医師にいわれた人は、屈曲(背骨を丸くするような動作)の動作は避けましょう。
  • 高血圧、糖尿病、心臓病、脳血管疾患の治療している人は頭を下げる姿勢でのストレッチングや筋力強化は避けましょう。また頭をふるような運動(繰り返しの上体おこしなど)は行わないようにしましょう。
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