第27章 糖尿病と骨折 

インデックス 第1節 糖尿病の人は骨折の危険性が高い  | 第2節 骨粗鬆症とは  | 第3節 骨量減少と糖尿病の関連  | 第4節 糖尿病性腎症で骨がもろくなることも,  | 第5節 骨を丈夫に保つには  | 第6節 転ばない工夫をしましょう
  • 第1節 糖尿病の人は骨折の危険性が高い

    2節図3

    骨折は、瞬間的にその人の生活を不自由なものにしてしまいます。それまで健康そのものだった人でも、足や腰の骨を折ると、たちどころに歩けなくなってしまいます。骨折が治るまでの不便さは経験したことがない人には、なかなかわからないかもしれません。

    若い人ならすぐ治るような場合でも、高齢者では治るまでに時間が掛かり、その間からだを動かせないことで、ますます骨や筋肉が弱ってしまい、ついには寝たきりの生活になってしまうこともあります。実際に骨折は、脳卒中などとともに、寝たきりになる主要原因の一角を占めています。

    糖尿病の人は骨折しやすく、その頻度は糖尿病でない人の2~4倍といわれています。それにはインスリン作用の不足も含め、いろいろな原因が関係しています。

  • 第2節 骨粗鬆症とは

    骨の量が減って骨がもろくなり、わずかな衝撃でも簡単に骨折してしまう状態を、骨粗鬆症 と呼びます。加齢にともない誰でも骨がもろくなりますが、糖尿病の人ではそのスピードが早 く、若いときからすでに、最大骨量(ピーク時の骨の量)が少ないこともあります。

    ここで糖尿病による骨量減少の話をする前に、骨粗鬆症全般について、簡単に解説しておきましょう。

    1.骨も新陳代謝が必要な生きた組織

    まるで石のような硬い物質のように見受けられる骨も、内部は生きた細胞が集まっていて常に新陳代謝を繰り返しています。

    骨の細胞には、骨を新しく作り出す骨芽細胞、骨そのものを維持する骨細胞、骨を破壊する破骨細胞の三種類があります。古くなった骨は、破骨細胞によって破壊(吸収)され、骨の構成成分であるカルシウムやコラーゲン(蛋白質の一種)が血液中に溶け出します。そのあとに骨芽細胞が集まってきて、コラーゲンを分泌します。

    このコラーゲンに、カルシウムを主成分とする骨塩が沈着して新しい骨が作り出され、骨の強度が保たれます。このサイクルを骨代謝回転といいます。

    2節図3

    さて、骨には姿勢を支持したり、身体の内部を守る役割がありますが、同時にカルシウムを貯蓄する役目も担っています。体内のカルシウムの99%は骨に存在し、骨以外の血液や筋肉などには、残りのわずか1パーセントが含まれているに過ぎません。

    しかし、全身の細胞が正常に働くためにはカルシウムが不可欠で、血液中には常に一定量のカルシウムが保たれている必要があります。カルシウム摂取不足などから血液中のカルシウム濃度が低下すると、それを補うため破骨細胞は骨を破壊(吸収)して、血液の中へカルシウムを溶かし出します。それにより血液のカルシウム濃度は維持されますが、破壊された骨のほうは、もともとカルシウムが不足しているのですから再形成が十分に行われません。

    骨粗鬆症とは、加齢やカルシウム摂取不足などから骨代謝のバランスが崩れ、骨形成のスピードを上回る速度で骨吸収が進み、骨の内部がすき間だらけになってしまう病気です。

    2.骨粗鬆症の病状

    骨粗鬆症ではすべての骨が骨折しやすくなりますが、最も問題になるのは大腿骨頸部という足の骨の付け根の部分の骨折です。転んだり太ももをひねったときに折れやすく、全く歩けなくなり、治るまで数カ月間はベッドから離れらません。高齢者の場合、その間に認知症が進行してしまうこともあります。寝たきりになる原因として頻度の高いものです。

    <背骨のX線写真・横向き>
    2節図3
    正常な骨
    2節図3
    骨粗鬆症

    骨粗鬆症の危険因子には、高齢であること、女性(とくに閉経後)、カルシウム摂取不足、現在または若いころの運動不足、痩せている、胃腸が悪い、糖尿病、甲状腺機能亢進症などがあります。特に、女性はもともと男性に比べて骨量が少ないうえ、閉経後は骨吸収抑制作用がある女性ホルモンが急減して、骨量が急速に減ってしまいます。

    3.治療の目的と検査の必要性

    骨粗鬆症の治療の目的は、一にも二にも骨折を未然に防ぐことです。実際に骨の強度を調べるには、エックス線検査などで骨量を測定しその結果から推測します。

    骨粗鬆症は症状に現れないで進行することが多く、たとえ腰や背中の痛みなどがあったとしても、年のせいにして見過ごしてしまいがちです。しかし、骨折してから骨粗鬆症と診断されても遅いのですから、危険因子のある人は、まずは検査を受けて自分の骨の強度を知っておくことが大切です。

  • 第3節 骨量減少と糖尿病の関連

    骨量を減少させる病気やステロイド薬の長期服用などによって起こる骨粗鬆症を「二次性骨粗鬆症」といい、これは加齢や閉経により誰にでも起こり得る「原発性骨粗鬆症」と区別されます。糖尿病による骨量減少も二次性骨粗鬆症にあたります。

    二次性骨粗鬆症では、原因となっている病気を治療しないことには骨量減少が止まりません。それでは、糖尿病で骨量が減少しやすくなるメカニズムについて話を進めましょう。

    1.インスリンは骨量維持に欠かせない

    インスリンの役目は、ブドウ糖の利用を高め血糖値を下げるだけではありません。インスリンの作用が低下すると、骨代謝にさまざまな影響を与え、骨量減少が進行します。

    2.インスリン作用不足の骨代謝への影響

    2節図3
    骨吸収と骨形成のバランス
    (1)骨芽細胞の減少
    新しい骨を作り出す骨芽細胞にはインスリンを受けとる受容体があり、インスリンには骨芽細胞を増殖させる作用があります。インスリンが足りないと骨芽細胞は増えず、骨形成が低下します。実際に糖尿病の人では、検査で骨代謝マーカー(指標)であるオステオカルシンの低下が確認され、低代謝回転の骨量減少※が起きています。
    ※低代謝回転の骨量減少
    骨の形成と吸収のバランスが崩れるのには、図のようにふたつのパターンがあります。右上の図は、形成・吸収双方が低下していますが、形成低下がより高度な低代謝回転を示しています。加齢や糖尿病による骨量減少が該当します。これに対し右下の図は、形成はほぼ正常なのに吸収が亢進している高代謝回転状態で、閉経後の女性の骨量減少が該当します。
    (2)尿中カルシウムやマグネシウムが増加
    尿とともに排泄されるカルシウムが増え、体内はカルシウム不足になります。同じ理由でマグネシウムが不足すると、副甲状腺ホルモンの分泌が減って腎臓からカルシウムが排泄されやすくなり、また、骨代謝はさらに低代謝回転になります。
    (3)活性型ビタミンDの不足
    カルシウムは単独で食べても体内に取り入れられず、腸から吸収する際には活性型ビタミンDが必要です。活性型ビタミンDは、ビタミンDを材料としてインスリンの働きにより腎臓で作られています。インスリンの作用が不足している糖尿病の人では、活性型ビタミンDが足りずに、せっかく食べたカルシウムが腸から吸収されにくくなっています。
    また、活性型ビタミンDには、骨芽細胞の働きを高める作用もありますが、高血糖状態で はその作用が低下してしまいます。
    (4)正常なコラーゲンの減少
    コラーゲンは骨の中にある蛋白成分で、骨の柔軟さを保つ役目を果たしています。高血糖状態では蛋白質の糖化という現象が起きますが、それによって正常なコラーゲンが減り、骨がもろくなります。
  • 第4節 糖尿病性腎症で骨がもろくなることも,

    糖尿病の合併症の腎症が進行すると、副甲状腺機能が亢進したり、活性型ビタミンDが減少することなどにより、骨の病気が引き起こされます。これは骨粗鬆症とは少し異なりますが、やはり骨が折れやすくなる病気です。

    <1型糖尿病と2型糖尿病の相違>
    糖尿病の合併症の多くは1型、2型などの差よりも、血糖コントロールの善し悪しが病状を左右しますが、骨量減少に限っては、1型と2型の人で少し状況が異なります。まず、1型の人では絶対的なインスリン欠乏状態にあるため、骨芽細胞のインスリン受容体を介した骨代謝への影響がはっきりでます。また小児・若年期に発病することが多いことから、成長期にインスリン欠乏のために骨が十分に成長できずに、成人後の最大骨量が少なくなります。このため、加齢による骨量減少の影響が大きくなってきます。
    これに対し2型の人では、インスリンの分泌力が患者さんによってまちまちなため、骨代謝への影響の程度が人によって差があるのです。また、大抵成人後に発病しますので、最大骨量は糖尿病でない人と変わりありません。糖尿病より加齢や閉経による影響のほうが大きい場合もありますし、なかには高インスリン血症(肥満糖尿病の人に多い)で、血糖値は高くても骨量減少がない人もいます。
    <糖尿病で骨折しやすくなる理由>
    2節図3
  • 第5節 骨を丈夫に保つには

    骨粗鬆症の治療の目的は、骨量を維持し骨折を防ぐことです。検査で骨量が減っていると指摘されたら、できるだけ骨量を減らさない努力をしていきましょう。骨量が20~44歳の人の平均値の70%未満に減ると粗しょう症と診断され、治療の対象となりますが、糖尿病などの危険因子がある場合、70~80%に骨量が減った「骨粗鬆症予備軍」の状態でも、治療がすすめられます。

    1.食事療法の工夫>カルシウムをたっぷりとる

    日本人のカルシウム平均摂取量は1日500ミリグラム台で、所要量の1日600ミリグラムを満たしていません。骨量が減少している人は 600ミリグラムといわず、できるだけ多く摂るようにしてください。カルシウムは一定量以上は吸収されませんので、摂り過ぎが問題になることはありません。良く知られているように、牛乳や小魚などに沢山含まれています。

    2節図3
    2節図3
    ◆カルシウムの多い食品
    食品名1回に食べ
    る量(g)
    その目安量そのカルシ
    ウム量(mg)
    牛乳・
    乳製品
    普通牛乳2001本220
    ヨーグルト(全脂無糖)1001本240
    スキムミルク20大匙2と1/2220
    アイスクリーム(普通脂肪)1001個140
    チーズ(プロセス)201切れ126
    小魚類丸干し(まいわし)40中2尾176
    みりんぼし(かたくちいわし)201枚160
    煮干し105尾220
    しらす干し15大匙3強78
    いわし油漬け缶詰551/2缶193
    干しえび51/5355
    緑葉
    野菜類
    小松菜801/2把120
    京菜80小株1株160
    大根の葉501/2株110
    かぶの葉802株152
    大豆・
    豆製品類
    豆腐(もめん)1501/2丁129
    生揚げ1201枚288
    油揚げ252枚75
    凍り豆腐20小1個126
    納豆501/2包45
    海藻・
    乾物類
    こんぶ1010cm角76
    ひじき(乾燥)101/5カップ100
    わかめ(乾燥)51/4カップ48
    切り干しだいこん(乾燥)101/5カップ50

    2.ビタミンDとKも大切

    腸からのカルシウム吸収を増やす活性型ビタミンDの元となる、ビタミンDを多く摂るようにしましょう。また、骨形成を促進するビタミンKの摂取も大切です。ビタミンDは脂身の多い魚に多く、ビタミンKは小松菜などの緑葉野菜のほか、納豆にはとくに多く含まれています。

    3.指示エネルギー量を満たす

    血糖コントロールのために食べ過ぎないことばかりに目がいき、必要以上に食事を減らしたり、あるいは栄養バランスが良くない食事を続けているとカルシウムが不足してしまいます。主治医にいわれた指示エネルギー量は、オーバーするのはもちろん良くありませんが、満たさないのも良くありません。そしてエネルギー量だけでなく、栄養素にも気を配りながら、正しい食事療法を続けていきましょう。

    4.食物繊維とカルシウム

    食物繊維を多く摂ると糖尿病や脂質異常症(高脂血症)にはよい影響を与えますが、過度の摂取はカルシウム吸収を妨げ骨量維持にはマイナスに作用します。意識して食物繊維を多く摂るのなら、カルシウムも意識して多く摂るようにしましょう。このほか、塩分のナトリウムの摂り過ぎも、体内の浸透圧を高め尿中に排泄されるカルシウムを増やすので、控え目にしましょう。

    5.運動療法の工夫

    適度の運動は骨に刺激を与え、骨の内部の血行もよくなって、骨形成を盛んにします。運動の種類としては、筋肉に負荷がかかるウエイトトレーニングが効果的です。但し、いきなり強い負荷のかかる運動をすると骨折や関節障害の危険があり、また糖尿病治療との兼ね合いもあるので、主治医の指示を受けてください。

    なお、ビタミンDの8割は紫外線を受けて皮膚で作られます。1日30分程度日光にあたるだけで十分ですから、毎日外出する機会がある人は問題ありませんが、家の中にいることが多い高齢の方などは、なるべく屋外で運動するようにしましょう。ビタミンDが多く含まれている乾し椎茸は、1時間でも日当たりの良い場所で乾せば、含有量も増加します。

    6.骨粗鬆症の薬

    食事療法を補うために、カルシウム製剤や活性型ビタミンD、ビタミンKなどのビタミン製剤が処方されます。骨代謝を改善するホルモンも薬として用いられ、カルシトニン製剤、エストロゲン製剤などがあります。このほか、カルシトニンやエストロゲンの分泌を促すイプリフラボン製剤、破骨細胞の機能を抑えるビスフォスフォネート製剤などが治療に用いられます。なお、これらの薬の中には糖代謝に影響を与えたり、血液の凝固力を高める作用をもつ薬もあるので、血糖コントロールが悪い人や合併症がある人には処方されないものもあ  ります。

    7.糖尿病の治療

    2節図3

    骨量減少を防ぐため、糖尿病そのものの治療が重要なことは、改めていうまでもありません。血糖コントロールが悪い状態が長く続いている人ほど、骨折の危険が高くなります。また、小児・若年期に1型糖尿病を発病したのなら、十分な骨の成長のためにも、適切なインスリン療法が大切です。


  • 第6節 転ばない工夫をしましょう

    2節図3

    骨折を防ぐには、骨を丈夫にすることもさることながら、骨折の直接的な原因となる危険を避けることも大切です。少しでも重いと感じる荷物は無理して持たない、長時間起立していたり、中腰などの中途半端な姿勢をとらないなどの注意ももちろん必要ですが、なによりも骨折の一番大きな原因である転倒を防ぐようにしましょう。

    加齢とともに誰でも筋力や反射神経が低下して転びやすくなりますが、糖尿病の人は網膜症や白内障で視力が低下していたり、動脈硬化による間欠性跛行(歩くとすぐ足が痛む)や神経障害で足が変形している、立ちくらみを起こしやすい、といったことから、転倒しやすい状況にあるといえます。この辺りにも、糖尿病の人が骨折しやすい原因があると考えられます。

    階段や風呂場などには手すりやすべり止めを付ける、部屋の中でつまずかないように整理整頓する、照明は明るくしスイッチは部屋の出入り口に取り付ける、立ち上がるときはゆっくりと立つ、足にあった靴を履く、雪の日の外出は控えるなど、対策はいろいろ立てられます。

    「転ばぬ先の杖」のことわざどおり、常日ごろから骨を丈夫にすると同時に、転倒しないよう気をつけて下さい。