第24章 腎症のある人の食事 

インデックス 第1節 腎臓をいたわる食事療法を始めます  | 第2節 食事療法の進め方が変わってきます  | 第3節 腎症の食事療法のポイント  | 第4節 わからないことは積極的に相談しましょう
  • 第1節 腎臓をいたわる食事療法を始めます

    糖尿病腎症は、糖尿病の三大合併症のひとつで、腎臓の機能が少しずつ低下する病気です。腎臓は、血液中の老廃物をろ過し、尿として排泄する臓器です。腎症が進行すると、腎臓がほとんど働かない腎不全になり、器械で血液をろ過する、人工血液透析療法が必要になります。

    糖尿病腎症の治療ではその進行の程度(病期)に合わせた食事や運動療法が必要になります。薬物療法も同様です。

    ※腎症についての説明は、別章の「糖尿病による腎臓の病気」のページをご覧ください。

  • 第2節 食事療法の進め方が変わってきます

    腎症の食事療法は、次の表のように、それまでとは内容が変わってきます。

    ◆糖尿病の食事療法と糖尿病腎症の食事療法の比較

    糖尿病尿病腎症
    目的血糖コントロール血糖コントロールと腎症の進行防止
    (腎症の病期により比重が変わる)
    内容適切なエネルギー量の中で必要な栄養を過不足なく摂る糖尿病の食事療法に加え、蛋白質や塩分、カリウムの摂取を制限する
    食品交換表について食品の分類表1~表6と調味料表1・表3・表5が蛋白質量によってA~Dの区分に分かれる。治療用特殊食品・エネルギー調整食品の利用
    1単位80キロカロリーの食品80キロカロリーの食品
    医師・栄養士からの指示1日の総エネルギー量(指示エネルギー量)と単位配分指示エネルギー量と単位配分、指示蛋白質量、および塩分・カリウムの制限

    ◆蛋白質を制限します

    一番の相違点は、蛋白質の摂取を制限することです。蛋白質は、炭水化物や脂質と並び、必要不可欠な栄養素ですが、なぜその摂取が制限されるのでしょうか?体内の余分な蛋白質は、尿素などの老廃物となり、腎臓で濾過されて尿中に排泄されます。

    腎臓の機能が低下している人が蛋白質を摂り過ぎると、老廃物を排泄するための腎臓の負担が大きくなり、そのことが腎症の進行を早めてしまうのです。そこで腎症の治療は、蛋白質の摂取制限などにより、腎臓の負担を軽くして、残っている腎機能をできるだけ長く保ち、腎不全への進行を防ぐことが目的です。

    <ワンポイントアドバイス> 蛋白質の種類にも配慮
    牛肉・豚肉・鶏肉・マグロ(赤身)などの動物性蛋白質は、アラニン、アルギニン、グリシンなど腎臓内の血流を増やすアミノ酸を多く含むため、腎臓により大きな負担をかけます。そこで腎臓に負担をかけることの少ない大豆製品などの植物性蛋白質や、鶏卵、牛乳、チーズなどの動物性蛋白質を増やすことが勧められます。
    もともと動物性蛋白質と植物性蛋白質の比は6:4ぐらいにするのが良いとされています。しかし、腎症の食事療法ではこのバランスを逆にして4:6とすることも考慮します。ただし、蛋白源が偏ると必須アミノ酸(体内で合成できず、摂取した蛋白質から得なければならない)が不足することもあるので注意が必要です。

    ◆炭水化物・脂質を増やします

    単に蛋白質の摂取を減らしただけでは、指示エネルギー量を満たす事ができなくなります。そこで、蛋白質を減らした分は、炭水化物や脂質の比率を増やして補います。蛋白質は、血液や筋肉を作り出すなど、栄養素としての役割があります。

    一方、ヒトのからだはエネルギーの補給を最優先させますので、炭水化物や脂質によるエネルギーの補給が十分でないと、蛋白質が本来の目的に使われずに、エネルギー源として利用されてしまいます。

    それを防ぐため、必要な炭水化物や脂質は十分に摂らなければいけません。炭水化物と脂質を増やすことで、蛋白質は栄養素として効率的に活用され、腎臓に余計な負担をかけずにすむようになります。

    炭水化物を増やすことで血糖コントロールが乱れるようなら、薬物療法など他の方法でコントロールします。

    ◆塩分を制限し血圧をコントロール

    腎症が起きるとからだに塩分が溜まりやすくなり、その結果、血圧が上昇します。高血圧は腎症の進行を加速させる重大な原因のひとつです。このため、腎症の食事療法では、食塩の摂取も制限します。

    ◆カリウム摂取にも注意が必要

    腎症が進行すると、カリウムが尿中へ排泄されにくく、血液内のカリウム濃度が高くなります。カリウムが多過ぎると、頻脈や心不全が起きやすくなりますので、やはり摂り過ぎに注意します。

      2節図3
  • 第3節 腎症の食事療法のポイント

    腎症のための食事療法を、できるだけ簡単に日常生活に取り入れられるよう、実際的な方法を解説したものに「糖尿病腎症の食品交換表 第3版」(一般社団法人日本糖尿病学会)があります。

    これは、腎症の進行防止のため、食事療法の切り替えがより重要になる段階「第3期(顕性腎症期)」(次の表参照)に適した内容です。「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」と同じ方式で作られていますので、それまで食品交換表を使った食事療法に慣れ親しんできた人は、スムーズに腎症の食事療法に切り替えることができます。

    ここでは、「糖尿病腎症の食品交換表(以下、腎症の交換表と略します)」を使った食事療法のポイントを紹介しましょう。

    ※食品の分類や単位計算、交換の仕組みなどの基本は「糖尿病食事療法のための食品交換表第7版」と同じなので、詳しい解説は省略します。

    ①ステップ1:適切なエネルギー量と蛋白質量を知る

    まず、あなたが1日に必要なエネルギー量を医師に決めて貰います。(指示エネルギー量) これは糖尿病の食事療法の最も基本的なことで、腎症の食事療法でも変わりません。 指示エネルギー量は患者さんの体格や活動状況、腎症の進み具合等を総合的に判断し決められます。同じように、蛋白質も「1日何グラム」と指示されます。(指示蛋白質)指示エネルギー量や指示蛋白質量は、腎症の進行に合わせて、少しずつ変化します。

    ◆糖尿病腎症の病期別食事療法の目安(「厚生省糖尿病調査研究報告書」他から引用)
    病期病状1日あたりの摂取量
    総エネルギー
    (kcal/kg/日)
    たんぱく質量
    (g/kg/日)
    食塩
    (g/日)
    カリウム
    (g/日)
    第1期
    (腎症前期)
    25~30摂取エネルギー量の
    20%以下
    高血圧なら6g未満制限しない
    第2期
    (早期腎症)
    微量アルブミン尿検査が陽性。
    人によっては
    血圧が上がり始める。
    25~30摂取エネルギー量の
    20%以下
    高血圧なら6g未満制限しない
    第3期
    (顕性腎症期)
    蛋白尿検査が陽性。
    血圧が上昇。腎不全に近づくとむくみが出始める
    25~ 30
    (腎不全に近い場合は25~35)
    0.8~1.0
    (腎不全に近い場合は0.6~0.8)
    6g未満制限しない
    (高カリウム血症なら2g未満)
    第4期
    (腎不全期)
    蛋白尿、高血圧、むくみや
    貧血などの尿毒症の症状。心不全の危険性も
    25~350.6~0.86g未満1.5g未満
    第5期
    (透析療法期)
    透析に対応した食事療法

    ②ステップ2:単位の配分を知る

    次に、指示エネルギー量と指示蛋白質量を守り、蛋白質以外の栄養も過不足なく摂るために表1~表6の各表から何単位ずつ摂ればよいのかを把握します。腎症の交換表は、蛋白質の含有量によって、表1と表3がA~C、表5がA~Bの区分に分けられています。

    蛋白質量は、A→B→Cの順で、Cが一番多くなります。 例えば1 日1840キロカロリー(23単位)、蛋白質50グラムの場合、下の表の左側のように配 分します。23単位は、表1に13単位(A区分9単位、B区分4単位)、表2に1単位、表3 に2単位(A区分0.5単位、B区分1.5単位)、表4に1単位、表5のA区分に4単位、表6 に1.2単位、調味料に0.8単位というように振り分けます(これ以降、この単位配分を例に解 説していきます)。

    1日の単位配分がわかったら、次はそれを朝食、昼食、夕食、および間食に分けます。表1は、A区分を朝食に1単位、昼食と夕食に各4単位、B区分を朝食に3単位、夕食と間食に各0.5単位とします。表3、表5、表6も3食なるべく均等に配分します。表2、表4は、3食または間食として配分します。それぞれの食事の単位数に、あまり差が生じないようにしましょう。調味料は、その日の献立にあわせて使い分けます。

    単位をどのように配分すればよいかは、一般には医師や栄養士が、それぞれの患者さんの食習慣などを参考に決めて、患者さんに指示します。

      2節図3
    ◆食事指示票 1日23単位 1840kcal 蛋白質50gの場合
    (日本糖尿病学会編・著『糖尿病腎症の食品交換表 第3版』日本糖尿病協会)
    1日に必要な単位配分各食事への単位配分
    食品交換表の分類指示単位蛋白質量区分朝食昼食夕食間食
    表1139144
    430.50.5
    治療用特殊食品
    表211
    表320.50.5
    1.50.50.50.5
    表211
    表5441.51.21.3
    表21.21.2
    調味料0.80.8

    ③ステップ3:食品交換のルール

    腎症の食品交換は、糖尿病の食事療法の交換ルールに、表1、表3、表5の蛋白質量区分の制限が加わりますが、同じ表、同じ区分の食品は自由に交換できます。例えば、表3の鯵開き干し1枚(40g)は、ローストビーフ(40g)と交換できます。同じ表3のB区分の1単位だからです。しかし、C区分のたら1切れ(100g)とは、表や単位数が同じでも交換できません。

    区分を越えて交換しようとして、食品の重量を無理に調整すると、たとえ蛋白質量は調整できたとしても、エネルギー量(単位数)に過不足が生じてしまいます。区分を越えての交換は栄養士に相談してからにしましょう。また、表3には食塩や動物性脂肪が多い食品もありますので、偏りをなくし、できるだけ多くの食品を選ぶことが大切です。

      2節図3

    ④ステップ4:献立の工夫と注意点

    ◆低蛋白質食品の利用
    蛋白制限をすると、通常の食品だけでは指示エネルギー量を満たすのが難しいことがあります。そんな患者さんのために、蛋白質含量を減らしたり、蛋白質がわずかしか含まれていない食品が開発されています。腎症の交換表では、これらの低蛋白質食品のうち、主食として使える食品を表1の「治療用特殊食品」として、主食以外でエネルギー補給用に使う食品を「エネルギー調整食品」としてまとめています。
    ・治療用特殊食品
    治療用特殊食品には、通常の食品と同じ重量(単位数)で、蛋白質を半分以下に減らしたごはんやパン、めん、でんぷん製品、小麦粉などがあります。蛋白質の摂取量が少なくなるほど治療用特殊食品の使用が望ましく、8~11単位使用すれば、表1では通常の食パンやじゃがいもなどB区分の食品を使えるようになります。また表3のC区分の食品を使用できたり、表3自体への配分を多くすることもできて、変化に富んだ料理を楽しめます。
    ・エネルギー調整食品
    エネルギー調整食品には、ゼリー類や油が練り込まれた菓子、清涼飲料水、果物の缶詰、ジャム、あめなどがあります。治療用特殊食品やエネルギー調整食品は、医師や栄養士の指導を受けて、上手に食事療法に取り入れてください。
    ◆食塩やカリウムの制限
    腎症の交換表では、1単位中の食塩含量が記載されていて、特に1単位あたり食塩が1g以上の食品にマークがついています。また、1単位あたりのカリウムが300mg以上の食品にはマーク、500mg以上の食品にはマークがついています。
    食塩・カリウム制限がある人は、これらの数値や記号に注意しましょう。カリウムは水に溶けるので、野菜を水にさらす、煮ものの煮汁を捨てるなどの工夫で、ある程度減らすことができます。このほか、下の表のように、糖尿病の食事療法と異なる点がいくつかありますので、気をつけましょう。

    <ワンポイントアドバイス> 減塩のポイント

    • 漬物は控え目に
    • 汁ものの量は少なく
    • かけ醤油より付け醤油(調味料は小皿にとって)
    • 醤油をポン酢に替える(食酢や柑橘類などの酸味を利用する)
    • 新鮮な材料を使う
    • 香辛料を上手に使う
    • 油を使って料理する(油の使用はエネルギー量確保にも役立つ)
    • 加工食品を減らす(加工食品は一般に塩分が多い)
    • 焼き味、こげ味をつける
    • 料理の全体ではなく、表面に味をつける
    • うまみを利用する
    • できたてを食べる(料理は適温で)
    • 献立にめりはりをつける(食塩は一品に集中して使い、あとは無塩で)

    ◆ワンポイントアドバイス

    表1A~C区分それぞれの中で交換する
    表2カリウム制限がある場合、カリウムの多いくだものに注意
    表3A~C区分それぞれの中で交換する
    表4牛乳はカルシウム補給に役立つが、蛋白質が多いので1日120mL(1単位)までに
    表5A~B区分それぞれの中で交換する。表5の食品は少量で高いエネルギーを得られる。ドレッシング類はノンオイルタイプでないものを使ったほうが、効率よくエネルギーを確保できる
    表6たんぱく質の多い野菜(腎症の交換表では青文字で記載されています)に注意。カリウム制限がある場合は、カリウムの多い食品にも注意。海藻の加工品などは、食塩含量の多いものもある
    調味料食塩含量も確認しながら使用する

    ⑤ステップ5:献立を作ってみる

    それでは、いよいよ献立を立ててみましょう。腎症の食事では、蛋白質を減らした分のエネルギーを表1、表5で補います。そして、表1、表3、表5の区分に気をつけて献立を作りましょう。

    まずは主食の種類や配分を考え、次に主菜、副菜、果物、汁ものの順に献立を考えます。例えば、1日23単位で蛋白質50グラムの場合、次のような献立例ができあがります。

    ◆1日23単位、蛋白質50グラムの献立表

      2節図3
     
    2節図3
    朝食
     
    2節図3
    昼食
     
    2節図3
    間食



    それでは、この献立を別のメニューに交換してみましょう。夕食を洋風に変えるにはどうすれば良いでしょうか。和風メニューの構成はこのようになっています。

      2節図3
    このメニューは 合計で7.7単位
    (Ⅰ)ごはん3.5単位
    (Ⅱ)根野菜のそぼろ煮
    (さといも、かたくり粉、とりひき肉、食物油、野菜、みりん、砂糖含む)
    2.54単位
    (Ⅲ)卯の花
    (おから、食物油、野菜、砂糖含む)
    1.16単位
    (Ⅳ)フルーツ
    (バレンシアオレンジ)
    0.5単位
    これを洋風メニューにしたい場合、例えばこんなふうに変えられます
    (ⅰ)ごはん3.0単位
    (ⅱ)じゃがいものチーズ焼き
    (じゃがいも、マカロニ、まぐろ(油漬)、プロセスチーズ、バター、野菜、ケチャップ)
    3.5単位
    (ⅲ)ズッキーニのサラダ
    (野菜、ドレッシング)
    0.7単位
    (ⅳ)フルーツ
    (バレンシアオレンジ)
    0.5単位

    交換の内容を具体的にみてみましょう。

    表1は、
    • (Ⅰ)ごはんの0.5単位(25g)と(Ⅱ)根野菜のそぼろ煮のかたくり粉0.5単位(10gA区分)を
        →(ⅱ)じゃがいものチーズ焼きのじゃがいも1単位(110gA区分)に、
    • (Ⅱ)根野菜のそぼろ煮のさといも0.5単位(70gB区分)を
        →(ⅱ)じゃがいものチーズ焼きのマカロニ(干)0.5単位(10gB区分)に、
    表3は、
    • (Ⅱ)根野菜のそぼろ煮のとりひき肉0.5単位(20gB区分)を
        →(ⅱ)じゃがいものチーズ焼きのプロセスチーズ0.5単位(10gB区分)に、
    • (Ⅲ)卯の花のおから0.5単位(40gA区分)を
        →(ⅱ)じゃがいものチーズ焼きのまぐろ(油漬)0.5単位(15gA区分)に、
    表5は、
    • (Ⅱ)根野菜のそぼろ煮の食物油0.5単位(5gA区分)を
        →(ⅱ)じゃがいものチーズ焼きのバター0.5単位(5gA区分)に、
    • (Ⅲ)卯の花の食物油0.5単位(5gA区分)を
        →(ⅲ)ズッキーニのサラダのドレッシング0.5単位(10gA区分)に、
    表6は、
    • (Ⅱ)根野菜のそぼろ煮の野菜と(Ⅲ)卯の花の野菜を
        →(ⅱ)じゃがいものチーズ焼きと(ⅲ)ズッキーニのサラダの野菜の計120gに、
    調味料は、
    • (Ⅱ)根野菜のそぼろ煮のみりん0.1単位(3.5g)と砂糖0.1単位(2g)と
    • (Ⅲ)卯の花の砂糖0.1単位(2g)を
        →(ⅱ)じゃがいものチーズ焼きのトマトケチャップ0.3単位(18g)に、

    こうして洋風メニューにした場合も合計で7.7単位。これで交換できました。このようにして、一度作った献立を、同じ表の仲間、同じ区分の食品と交換しバラエティーに富んだ献立を自分で作っていくことができます。

  • 第4節 わからないことは積極的に相談しましょう

      2節図3

    腎症の食事療法は、蛋白質を減らし、その減らした量に相当するエネルギーを炭水化物や脂質に振り分けたり、病期によっては総エネルギー量を増やすこともあって、それまでの糖尿病の食事療法と内容が変わります。このため、糖尿病の食事療法をきっちり行っていた人ほど、新しい食事療法に慣れるまで戸惑う面が多いかもしれません。

    また、腎症の治療は、治癒をめざすというよりも、いかに進行を遅らせるかということが主目的ですので、食事療法を正しく進めても、腎機能を表す検査値は、よくならないこともあります。

    しかし食事療法は、腎症の進行を遅らせる有効な手段のひとつです。わからないことや具体的な料理方法などは主治医や栄養士によく聞き、食事療法の意味を理解して、腎臓をいたわる食生活を頑張って続けていきましょう。