第17章 糖尿病の検査 

インデックス 第1節 糖尿病は検査すべき病気  | 第2節 どんな検査をするのでしょう  | 第3節 血糖コントロールに関する検査  | 第4節 自分でできる検査もあります  | 第5節 こんな検査も必要です  | 第6節 定期的な検査を忘れずに
  • 第1節 糖尿病は検査すべき病気

    糖尿病は検査の病気と言われます。数ある病気の中で、なぜとくに糖尿病だけがそう言われるのでしょうか。糖尿病は自覚症状がないことが多いので、糖尿病と言われても治療しないでいる人が少なくありません。

    治療しないでいると、体の中でじわりと進行し、失明や下肢の切断にもいたりかねない多くの合併症を招くのが糖尿病です。このため、病気がどの程度進んでいるのかを定期的にチェックや検査をしていく必要があるのです。チェックを続け血糖コントロールの善し悪しを確認し 合併症の症状を早めに見付けられるようにしておけば、糖尿病は怖い病気ではありません。

    つまり、糖尿病でも検査で病状をチェックしコントロールし続ければ、健康な人と同じように過ごすことができるのです。このことから「糖尿病は検査の病気」といわれるのです。ですから、食事療法や運動療法と同じように、検査のことも医師まかせにせず、検査の意味と必要 性をよく理解しておきましょう。

  • 第2節 どんな検査をするのでしょう

    糖尿病は、膵臓で分泌されるインスリンの量が足りなかったり作用が不足して、食べた物の糖分がよく利用されず、血液中にあふれ出る病気です。ですから、血液中の糖分(ブドウ糖)血糖の値が基準値より高くなるのが第一の特徴です。検査では、この血糖値が基準値よりどのくらい高いかをみることが基本となります。

    <糖尿病と診断されるまでの検査>

    (1) 糖尿病の可能性がある人を見付ける検査
    糖尿病は自覚症状がない病気なので、健康診断で見付かることが多いものです。ふつう健康診断は空腹時に採血・採尿し検査します。糖尿病については下表のように判定します。
    なお、血糖値は食前(空腹時)か食後かで大きく異なります。尿糖も血糖値次第で陽性になったり陰性になったりします。血糖や尿糖の検査は食前か食後かで結果の解釈が異なることを理解しておいてください。
    <空腹時に採血・採尿した検査結果の見方>
    血糖値
    (mg/dL)
    結果の判定
    126 以上糖尿病域…糖尿病が強く疑われます。OGTT(ブドウ糖負荷試験を受けて下さい。
    110 以上~126 未満境界域…糖尿病の疑いがあります。できるだけ OGTT を受けてください
    100 以上~110 未満正常域(正常高値)…血糖値がやや高いので、高血圧など他の生活習慣病がある場合は、
    できるだけOGTTを受けてください
    100 未満正常域…現在、糖尿病の心配はほとんどありません
    (2) 糖尿病の可能性があるときに受ける検査
    上記の検査で糖尿病の可能性が見付かったとき、または自覚症状から糖尿病が疑われるときは、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)という検査を受けていただき、診断を確定します。
    尿糖結果の判定
    陽性糖尿病が強く疑われます。OGTTを受けてください
    陰性糖尿病の疑いを完全には否定できません(「尿糖検査」の項参照)

    ◆糖尿病を診断するための検査

    ブドウ糖負荷試験(OGTT)糖尿病が疑われる人に 75g のブドウ糖を飲んでもらい、その後の血糖値の変動から糖尿病かどうかを確定診断するための試験

    2節図3 2節図3
  • 第3節 血糖コントロールに関する検査

    糖尿病の治療は、血糖値の管理がすべての基本で最も重要です。血糖コントロール状態をより正確に把握するための、様々な検査があります。ひとつずつ具体的にみていきましょう。検査の基準値などは表にまとめました。

    2節図3

    1.尿糖検査

    まずは尿糖検査です。血液中のブドウ糖は多過ぎると尿に排泄されますから、尿を検査することで血糖の状態を間接的に知ることができます。

    ブドウ糖は体にとって大切な栄養分ですから、健康な人の場合、尿に糖があらわれることはありません。しかし、糖尿病になると血液中に使われずにいるブドウ糖が多くなり、その分が尿糖として排泄されるのです。

    尿糖検査は市販の試験紙を使って、だれでも手軽に測れるので、一番身近な検査となっています。ただ、尿糖は通常、血糖値が約170mg/dL以上にならないと検出されません。空腹時には糖尿病でも170mg/dL未満になっていることがあり、特に高齢者の場合は、腎機能の低下で、170mg/dL よりさらに高くなっても尿糖が出ないケースもあります。

    このため尿糖が出ていないことだけで、糖尿病がよくなったとか、血糖コントロールがうまくできている、などの判断はできません。

    ◆血糖コントロールに関する主な検査

    2節図3
    • *1適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標
    • *2低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標
    • *3心臓や脳の血管の病気があり、低血糖傾向の血液透析患者さんは24.0未満が目標
    • その他、尿糖や尿ケトン体は陰性、15-AGは14μg/mL以上が基準値
    •  〔日本糖尿病学会「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」他より一部改編〕

    2.血糖検査

    採血して血糖値を測る、糖尿病の検査の基本です。わかるのは血糖の瞬間値です。血糖検査でわかるのは、検査をした時点での血糖値です。この後で解説する HbA1cなどが、ある一定期間の血糖コントロール状態を反映するのに対し、血糖値は血糖レベルの瞬間値といえます。血糖値は食事や運動やストレスなどによって大きく変動します。理想的な血糖のコントロールとは、できるだけ健康な人と同じ血糖変動に近づけることです。

    血糖自己測定が効果的です。血糖値は病院に行かなくても、簡易型の測定器を使えば自分で測定できます。食事や運動の影響が一目瞭然にわかりますし、体調を崩して血糖値が乱れやすいときに対処方法を判断する目安として使えます。なお、血糖自己測定には、測定器本体のほかに、試験紙(センサー)や穿刺針などを使います。

    インスリン療法等の自己注射をしている患者さんの場合、医師が指示した測定回数に応じてこれらが保険で給付されます。自己注射をしていない患者さんは、医療機関によっては病状がよくない場合に年に一度、保険が適用されます。なお、より良い血糖コントロールのために、費用自己負担で血糖自己測定をしている患者さんもいます。いつ、どのように測り治療に生かすか、医師と相談してください。

    3.HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)検査

    血糖コントロールの善し悪しを判断する指標として、最も注目される検査です。ヘモグロビンは赤血球内のタンパク質の一種で、酸素と結合し全身の細胞に酸素を送る働きをしてい  ます。

    血糖値が高いと、血液中のブドウ糖がヘモグロビンに結合しグリコヘモグロビン(HbA1c)というものにかわります。ヘモグロビンをクロマトグラフィーで調べると、AI(A1)、AII(A0)に分かれ、このうちA1はa、b、c、d、eに分かれます。ブドウ糖が結合するのはA1cの部分です。

    HbA1c検査は、ヘモグロビンのうちグリコヘモグロビンに変わっているのがどのくらいあるか、その割合を調べる検査です。過去1~2カ月のコントロール指標です。グリコヘモグロビンは一度できるとその赤血球が死ぬまで消滅しません。そして赤血球は約4カ月の寿命ですから、HbA1c 検査はその平均年齢ともいえる、過去1~2カ月間の血糖コントロール状態を反映したものとなります。

    病院の検査で糖尿病が悪くなっているといわれるのがいやで、検査前の数日間だけ食事療法を一生懸命やる人がいますが、それは HbA1c検査ですぐにばれてしまいます。

    ・HbA1c検査が重要な理由
    HbA1c検査は血糖コントロールに関する検査の中で、一番長い間のコントロール状態をあらわす指標です。糖尿病は高血糖状態が続くことで起きる合併症が怖い病気ですから、長期間のコントロール状態がわかるということは、治療上、非常に大きな意味をもっています。アメリカで行われた調査研究では、HbA1cが1割下がると(例:10%     →9%)合併症の一つである網膜症が悪くなる危険が40%以上減るとのことです。HbA1c1%の違いが合併症の進行を大きく左右することがわかります。
    ・HbA1c値を7.0%未満を目標に/dt>
    このように、HbA1cは糖尿病治療の重要な情報源です。糖尿病といわれたら定期的にこの検査を受け、より良い血糖コントロールを続けましょう。目標は、HbA1c7.0%未満です(表参照)。
    2節図3

    4.グリコアルブミン検査

    血液中のタンパク質の主要成分のアルブミンが、どのくらいの割合でブドウ糖と結合しているかを調べる検査です。グリコアルブミンの基準値は11~16%で、これより高ければ、血糖値が高い状態が続いているということです。

    グリコアルブミン値は、タンパク質の寿命から過去約2~3週間のコントロールをあらわす指標となります。HbA1c 検査では把握できない、比較的短期間の血糖の変化をとらえることができますので、例えば低血糖、高血糖を繰り返しやすい人がコントロールの指標にしたり、薬物療法を始める際に薬の効き具合を確かめたりするときに役立ちます。

    また、HbA1cが誤差を生じやすい妊娠中や血液透析をされている患者さんでは、グリコアルブミンを目安にコントロールします。

    5.15-AG検査

    15-アンヒドログルシトール検査、15-AGといわれる検査です。健康ならほぼ一定の値を示し、尿糖の排泄に影響され減少するため、血糖コントロールの検査の中で唯一、値が高いほうがよい検査です。

    血糖コントロールに対しては、グリコアルブミンよりさらに敏感に反応し、それでいて血糖値のように食事や運動には影響されない、過去数日間の指標となります。ですから旅行や宴会シーズンなどの、短期間のコントロールの悪化も見逃しません。また、食事療法や運動療法の効果もすぐに結果にあらわれます。

    15-AGは、比較的軽度の高血糖に、より敏感に反応するという特徴があります。なお、尿糖を増やして血糖値を下げる薬(SGLT2阻害薬)を服用している場合、尿糖排泄とともに15-AGも低下するので、血糖コントロール状態の把握に適しません。

  • 第4節 自分でできる検査もあります

    糖尿病は自己管理が大切な病気です。そのため、病院に行かないときも自分でできる検査を積極的に行えば、よりコントロールがしやすくなります。尿検査では、市販の試験紙を使い、尿糖、ケトン体を手軽に調べられます。簡易型血糖測定器を用いて血糖自己測定も可能です。最も簡単なところでは、体重測定が太り過ぎを防止する意味で役立ちます。

    そして大切なのは、自分で行った検査の結果を記録し、主治医の先生に伝えることです。もちろん病院でも詳しい検査をしますが、日常生活の中で得られる検査値は、医師が治療方法を判断するのに大変参考になる情報なのです。検査値の記録には、日本糖尿病協会発行の糖尿病連携手帳や自己管理ノートが便利です。

  • 第5節 こんな検査も必要です

    1.ケトン体検査

    ケトン体は、インスリンの作用不足でブドウ糖をエネルギー源として使えないとき、からだが脂肪分をエネルギーに変換する結果、発生する物質です。尿にケトン体が出ているかどうかは試験紙で簡単に調べられます。陽性なら、からだの中でブドウ糖の利用が少なく、脂肪がエネルギー源として利用されているということです。

    更に正確に調べる場合は、血中ケトン体を測ります。ケトン体検査は、1型糖尿病ではとくに大切な検査です。また、シックデイ(感染症などの糖尿病以外の病気にかかったとき)には、インスリンの作用がいつもより低下して、ケトン体が出やすくなります。

    2.膵臓の働きを調べる検査

    2節図3

    採血による血中インスリン濃度検査や、24時間分の尿からインスリン分泌量を調べるC-ペプチド検査などがあります。

    3.合併症の検査

    糖尿病に多い合併症の網膜症、腎症、神経障害対策として、眼底検査、尿中アルブミン測定、腱反射テストなどが行われます。合併症の多くは動脈硬化などの血管系統の障害によ

  • 第6節 定期的な検査を忘れずに

    2節図3

    このように、糖尿病の治療には数々の検査が必要です。それらのすべては、より良い血糖コントロールを維持し、合併症を進行させないためのものです。各検査の意味と目標値をよく理解し、そして自分の検査値を記録し、自分でからだの状態を把握していくことが必要です。

    糖尿病は検査の病気です。忙しくて検査に行く暇がないとか、まだ大丈夫なはずだなどと勝手な理由をつけず、定期的な検査を忘れずに受け、コントロール状態を確認して、病気を進行させない努力をしましょう。

    2節図3