第11章 糖尿病になった時の対策 

インデックス 第1節 シックデイには特別な注意が必要です  | 第2節 シックデイの対処法(シックデイ・ルール)  | 第3節 シックデイのその他のポイント  | 第4節 低血糖の症状と対処法を覚えておこう  | 第5節 高齢患者さんのご家族の方へ
  • 第1節 シックデイには特別な注意が必要です

    糖尿病の患者さんが何か不意の病気にかかると、ふだんはしっかり血糖コントロールできていても、血糖値が乱れやすくなり、急性合併症が起こりやすくなります。そのため、そのような状態を「sick day(病気の日)」と呼んで、糖尿病の療養生活上、特別な注意が必要な日と位置付けています。

    1)シックデイの注意1

    2節図3
    ・血糖値が大きく乱れやすい
    ・高血糖になりやすい
    シックデイに該当する病気として、風邪や下痢、発熱、腹痛、食欲不振などのほか、外傷や骨折なども該当します。このような病気や状態は体にとってストレスとなるので、ステロイドホルモンなどのストレスホルモンが分泌されます。ストレスホルモンは急性期における体の障害の防御に役立つ面がある一方で、インスリンの働きを弱め高血糖を引き起こします。糖尿病でなければ血糖上昇に応じてインスリン分泌が増えるものの、糖尿病の患者さんではそれが十分にできません。このためシックデイには血糖値がいつもよりも高くなります。
    ・低血糖にもなりやすい
    その反対に、シックデイには食欲が低下していつものように食べられないことが少なくありません。薬物療法をしている患者さんの場合、食べる量が少ないにもかかわらずいつもどおりに薬を飲んだり注射すると、低血糖が起きてしまいます。更に、病気によって生じる脱水が腎臓の機能を低下させるので、腎臓から排泄される薬の場合その成分が体内に滞り、血糖値が余計に下がるという影響もあります。つまり、シックデイにはさまざまな要因が複雑に絡み合って、血糖値が乱高下しやすいということです。

    2)シックデイの注意2

    2節図3
    ◆危険な急性合併症が起こりやすい
    ふだんの糖尿病治療の目的は、長年の高血糖によってゆっくり進行する「慢性合併症」(網膜症や腎症、動脈硬化など)を防ぐことです。しかし合併症には、病状が時々刻々と進行する「急性合併症」というタイプもあります。ふだんはめったに起こりませんが、シックデイには以下の急性合併症が起こりやすく、対処が遅れると生命の危険も生じます。
    ・ケトアシドーシス
    注意が必要な人:1型糖尿病の患者さん、インスリン治療をしている2型糖尿病の患者さん予防のポイント:食べられなくてもインスリン注射を中断しないインスリンの作用が足りない時や、食事(炭水化物)の摂取量が少ない時、体内では脂肪がエネルギー源として使われ、その時に肝臓でケトン体という物質が作られ血液中に溜まってきます(ケトーシス)。ケトン体は酸性なのでその量が増えると血液が酸性になります(アシドーシス)。その状態を「ケトアシドーシス」といい、吐き気や腹痛が現れ、進行すると意識障害や昏睡に至ることから、緊急治療が必要です。
    ケトアシドーシスになる原因として多いのが、ふだんインスリン治療をしている患者さんがシックデイで食欲がない時に「何も食べないので血糖値は上がらないだろう」と判断してインスリン注射を自己判断で中断してしまうことです。インスリン注射は絶対中止してはいけません。食べられなくても、血糖自己測定を参考に単位数を加減して注射しましょう。
    ・高血糖高浸透圧症候群
    注意が必要な人:高齢の2型糖尿病患者さん
    予防のポイント:水分を十分補給する
    前に解説したように、シックデイには血糖値が高くなりやすくなります。高血糖状態では尿浸透圧が上昇し体内の水分が尿中に移動し、体は脱水状態になります。加えて病気による下痢や発熱も脱水を強め、また食欲が低下している場合には、食事からの水分摂取も減り、更に脱水を強めます。
    その上、脱水状態では血液が濃縮されるので血糖値がより高くなります。このような悪循環の結果、高度の脱水と著しい高血糖を来した状態を「高血糖高浸透圧症候群」といいます。全身の血液の流れが悪くなってさまざまな臓器の働きが低下し、緊急治療が必要です。
    高齢者は体内の水分量が少ないため少しの変化で脱水状態になりやすく、また、脱水状態になっても喉の渇きをあまり感じない傾向があります。熱があるときや食事を採れないときは十分に水分を補給しましょう。

    3)シックデイの注意3

    ・病気が重症化したり長引きやすい
    このような急性合併症にはならなくても、高血糖状態では体の抵抗力が落ちるので、病気が重症になりがちです。病気が治り切る前に別の感染症にかかってしまうこともあり、そうすると回復により時間がかかってしまいます。
  • 第2節 シックデイの対処法(シックデイ・ルール)

    それでは、このような非常事態を上手に乗り切り、早くいつもの快適な生活に戻るための適切な方法「sick day rule〈シックデイルール〉(病日対処法)」を紹介しましょう。

    1)シックデイ・ルール1:早めに受診する

    2節図3

    症状がごく軽い場合は1日ぐらい様子をみていても構いませんが、次のような場合には早めに受診して適切な治療を受けて下さい。

    ★こんな時はすぐに受診

    • 強い自覚症状(嘔吐、激しい下痢や腹痛、心臓の鼓動が異常に早い、息苦しいなど)が続く
    • 高熱(およそ39℃以上)
    • 高血糖(血糖値なら350mg/dL以上の時。尿糖なら強陽性が続く時)
    • 食事をほとんど採れない
    • 尿ケトン体が強陽性
    • 上記1~5に該当するほどではないが、症状が改善する気配が感じられないとき

    2)シックデイ・ルール2:安静にし、水分・炭水化物を摂取

    2節図3

    急性の病気の基本的な対応は、体を安静にし温かくすることです。それによって体力の消耗 を防ぎ、病気に対する抵抗力を保てます。更に、食欲がなくても脱水を防ぐために水分を十分補給し、ケトーシス予防のために炭水化物をなるべく口にするようにしてください。また嘔吐や下痢が続く場合には塩分などの電解質が失われやすいので、その補給も必要です。

    ★シックデイの食事の工夫

    2節図3

    消化の良い炭水化物は:重湯〈おもゆ〉、お粥、おじや、茶碗蒸し、うどん、など。

    水分や電解質の補給に:
    みそ汁、野菜スープ、果物ジュース(冷たいものや炭酸飲料以外)。
    経口補水液を適宜に:
    脱水を改善し、同時に炭水化物と電解質を補給できる経口補水液として(OS-1Rなど)が市販されています。

    3)シックデイ・ルール3:病状の把握に努める

    数時間おきに病状を自分でチェックし、快方に向かっているのか、それとも悪化していて受診を急ぐべきなのかの判断に役立てましょう。

    ★シックデイに役立つ検査

    体温:
    感染症などの重症度の推移の目安になります。
    血糖:
    シックデイは血糖値が乱れやすいので、血糖自己測定は病状把握の強い味方です。
    尿糖:
    血糖自己測定をしていない場合、尿糖測定で高血糖の程度を推測します*。
    尿ケトン体:
    ケトアシドーシスの前兆をつかめます(尿糖測定に用いるのと同じような試験紙が市販されています)。
    体重:
    急激な体重減少は、脱水が起きている可能性が疑われ、要注意です。
    * 尿糖測定は、SGLT2阻害薬を使用している場合、高血糖状態を正確に評価できません。

    4)シックデイ・ルール4:薬の加減の目安

    シックデイルールの4番目は、薬物療法をしている場合の対処法についてです。

    ・1型糖尿病の場合の対処
    1型糖尿病の場合、なにより大事なことは、たとえ食事をとれなくてもインスリン注射を絶対に中止してはいけないということです。そして、不安ならすぐに主治医に連絡をとって相談することです。血糖自己測定を数時間おきに行い、高血糖ならその程度に応じて作用時間の短いインスリン(超速効型か速効型)を数単位程度ずつ追加することを繰り返し、血糖コントロールするという方法が一般的です。
    ・2型糖尿病の場合の対処
    次の項に薬の種類ごとの目安を示します。ただしこれはあくまで目安なので、実際の対処法は主治医の指示を守ってください。また、薬を減量・中止することにより血糖値が上昇し、一時的にインスリン療法が必要になることもあるので、血糖自己測定や尿糖測定をこまめに行い、高血糖や尿糖の強陽性が持続する場合には早めに受診してください。
    スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬
    インスリン分泌を刺激して血糖値を下げるこれらの薬は、食事の量にあわせて加減します。シックデイでもいつもどおりか、いつもよりやや少ないくらい食べられるなら、いつもと同じ量を服用します。半分程度しか食べられないのなら薬の量も半分にし、半分も食べられないなら薬は中止(休薬)します。なお、ふだんこれらの薬を‘食前’に飲んでいても(速効型インスリン分泌促進薬は食直前の服用が原則)、シックデイには‘食直後’に、食べられた量にあわせて薬の量を調節して飲むのも構いません。
    DPP-4阻害薬
    食事をとれるなら服用しますが、とれないなら服用しても血糖降下作用が少ないことが予想されます。
    ビグアナイド薬
    シックデイに伴う脱水により乳酸アシドーシスという副作用が起こりやすくなる可能性があるので休薬します(特に腎障害を合併している人や高齢者)。
    SGLT2阻害薬
    シックデイに伴う脱水やケトーシスを強めるように作用するので休薬し、医師に相談してください。
    α-グルコシダーゼ阻害薬
    下痢などのおなかの症状を強める可能性があり、中止しても血糖値が極端に上がることはないので休薬します。
    チアゾリジン薬
    この薬は中止してもしばらく作用が続き血糖値に大きく影響しないので、休薬しても構いません。
    GLP-1受容体作動薬
    吐き気や腹痛など、おなかの症状がある場合は休薬します。そうでなければ継続します。
    インスリン製剤
    2型糖尿病でもふだんインスリン療法をしているのであれば、1型糖尿病と同様に、シックデイで食事がとれなくてもインスリン注射を中断してはいけません。全く食事がとれなくてもふだんの半分程度のインスリンが必要です。そして、こまめに血糖自己測定を行い測定結果に応じて数単位ずつ増減し、血糖コントロールする方法が一般的です。具体的には主治医に相談してください。
  • 第3節 シックデイのその他のポイント

    ここまで、シックデイ・ルールの原則を4つに分けてお話ししましたが、最後にその他の注意事項をいくつか挙げます。

    2節図3
    咽喉が乾いたと感じたら!やや手遅れ! そうなる前に、こまめに補給すること!
    ①夏場は特に脱水に注意を
    気候の温暖化で近年の夏は異常な高温になります。シックデイでない状態で屋内にいたとし ても脱水に注意が必要です。シックデイの場合は特に注意して、喉が渇く前にこまめに水分を補給してください。
    ②いつもと違う医療機関の受診時には
    かかりつけ医とは別の医療機関を受診する際には、次の情報を伝えてください。薬局で市販薬を購入する際も同様です。

    ★医師や薬剤師に伝えて下さい。

    • 1)ご自身が糖尿病であること
    • 2)処方されている薬の名前(薬の名前がわからなければ実物や薬手帳を持参)
    • 3)ふだんの療養経過の記録(『糖尿病連携手帳』など)を持参
  • 第4節 低血糖の症状と対処法を覚えておこう

    2節図3

    低血糖を経験したことがない患者さんが、シックデイに初めて低血糖になることもあります。初めての低血糖では、その症状が低血糖によるものだと気付くのに時間がかかります。低血糖症状がシックデイの病気自体の症状と似ていて区別がつきにくいこともあります。

    ★低血糖でよくみられる症状

    動悸/手足のふるえ/冷や汗/頭痛/手足に力が入らない/物が二重に見える/だるい/考えがまとまらない/意識がもうろうとする/呂律が回らない/昏睡 など。

    低血糖は分単位で症状が進み、ご自身で対処できなくなったり昏睡に至ることもあるので、すぐにブドウ糖または砂糖(少なくとも10g)を口にするなどの対処をしてください。詳しくは低血糖の章を参照してください。

  • 第5節 高齢患者さんのご家族の方へ

    高齢の患者さんは、脱水や高血糖高浸透圧症候群、低血糖になりやすく、また、それらの初期症状がはっきり現れず、加えて、認知機能が少し低下していて的確な判断が難しくなっていることがあります。

    ご家族の方は気配りをいつもより少しプラスして、患者さんの安全と少しでも早い回復をサポートしてください。

    ①こまめな水分補給を促す:
    喉が渇いてなくても数時間おきに飲むように勧めてください。
    ②薬を加減しているか確認:
    食事をあまり食べられないのに薬はいつもどおりきちんと飲んで低血糖になってしまう高齢患者さんも少なくありません。
    ③眠っているのか昏睡か?:
    急性合併症や低血糖は、どちらも重度になると昏睡に至ります。昏睡に陥っている患者さんは一見ぐっすりとよく眠っているようにも見えますが、一刻も早い治療が必要です。大声をかけて体をゆすっても反応しない場合には、直ちに救急車を呼んでください。