第8章 小児(子供)の糖尿病 

インデックス 第1節 1型糖尿病と2型糖尿病はここが違う病気です  | 第2節 発病の原因について  | 第3節 どんな治療をするのか:基本はインスリン療法  | 第4節 1型糖尿病の食事療法  | 第5節 何に気をつければよいか  | 第6節 シックデイの対応
  • 第1節 1型糖尿病と2型糖尿病はここが違う病気です

    ―相違点一覧―
    1型糖尿病2型糖尿病
    インスリンの分泌能力ゼロ分泌するが効き目が悪い
    発病原因と遺伝確率遺伝的原因50%
    後天的原因50%
    (ウイルス感染など)
    遺伝的原因90%
    後天的原因10%
    (肥満など)
    基本となる治療法インスリン療法食事療法
    運動療法
    補助的な治療法食事療法
    運動療法
    インスリン療法

    糖尿病は、大人の病気と考えられがちですが、子供にも起こります。そればかりか、インスリンをつくる能力が極度に低下、あるいはなくなってしまう型(1型糖尿病)は、むしろ子供に多く発病します。

    大人に多くみられる糖尿病は、インスリンの分泌のしかたが悪くなったり、あるいはインスリンの効き方が悪くなるタイプ(2型糖尿病)ですが、最近は、この型が中学生や高校生にも多く発見されています。

    ふつう小児糖尿病という場合には、乳幼児にもみられ10歳から15歳の間に発病年齢のピークがある1型糖尿病のことを指しています。

  • 第2節 発病の原因について

    以前は、小児糖尿病は遺伝性の病気であると考えられていた時代もありました。しかし、現在では、患者さんの両親や兄弟に糖尿病が多くみられるのは、2型糖尿病の場合であり、1型糖尿病で家族に糖尿病のみられるのは、むしろ少ないことが知られています。

    一つの体を二つに分けた場合と考えられる一卵性双生児で、両方とも糖尿病になるのは、40~50%です。このことは、遺伝を無視できないにしても、遺伝以外の条件が大きく発病に影響することを示しています。現在、自己免疫を起こしやすい体質などが遺伝すると考えられています。

    こういう体質をもった子供が、ウイルスに感染し、あるいは化学物質の影響を受けると、膵臓でインスリンをつくるβ細胞を攻撃する免疫細胞がつくられます。この免疫細胞が、β細胞を破壊して、インスリンをつくれなくしてしまいます。

    破壊が始まっても、最初は無症状で、時々尿糖が出るだけです。しかし、大多数のβ細胞がこわれると、インスリンが絶対的に不足し、糖尿病の症状が出てきます。β細胞の破壊が始まり、症状が出るまでには、数か月の場合もあれば数年間の場合もあり、この間は無症状であることも多いようです。

    1型糖尿病の大部分はこのような自己免疫によるものですが、なかには自己免疫の関わりが明らかでない場合もあります。

    ※自己免疫:自分の体の細胞を攻撃して破壊するような反応が起こること。

    1)1型糖尿病の症状について

    やたらに咽喉が渇き、多飲多尿になり、また、沢山食べるのに体重が減ってきます。全身がだるく、病院で検査を受け、1型糖尿病と診断されるわけです。

    しかし、この段階を見逃すと、症状はさらに進行し、食欲が低下して、昏睡状態(糖尿病昏睡)に陥ります。これは手当が遅れると、死に直結する非常に危険な状態です。近年小児糖尿病に対する関心が高くなり、早期に発見されるようになったため、糖尿病昏睡で死亡する子供の数は減っています。

    2)体内でのインスリンの働き

    私たちは、食物を食べて消化吸収し、肝臓でぶどう糖に変え、これをエネルギー源にして生きています。インスリンの最大の役目は、ぶどう糖を血液を通して体の各細胞に届けエネルギーに変えることです。

    その際、ぶどう糖を無駄なく効率良く利用するために、タイミングの良いぶどう糖の出し入れや貯蔵など、さまざまなコントロールをします。子供から大人への順調な成長はエネルギーがなければできませんから、インスリンは、一種の成長ホルモンとしての役目も果たしているともいえます。

    3)発病のメカニズム

    2節図3

    しかし、インスリンが足り無くなると、ぶどう糖が細胞の中に入れないためエネルギーが作れず、細胞は栄養不足に陥ります。一方、利用されないぶどう糖は、血液中に高濃度になって(この状態を高血糖という)、全身を循環します。

    細胞の外の水分は、少しでも血糖値を低くするため、ぶどう糖を溶かし込んだ尿を沢山作るために使われます。また細胞の中の水分も、血糖を薄めるのに奪われます。水分が不足すると、どんどん水分を飲みたくなります。

    多飲多尿などの一連の症状は、体内がこうした状態になったことを示すものです。体内では筋肉の蛋白質や皮下脂肪を分解してエネルギーを作ろうとします。体重減少は、脱水と共に、体の成分をどんどん分解している状態を示しています。

    しかし、残念ながらインスリン不足の状態では、このような分解産物を、エネルギーに変えることができません。そして、主に脂肪の分解産物からケトン体とよばれる物質が作られ、血液中に溜まり血液は酸性になります。この状態をケトアシドーシスといいます。

    ケトアシドーシスを放置すると、嘔吐が起こり、脱水症とアシドーシスがさらに悪化し昏睡状態になって死亡します。1型糖尿病は、ケトアシドーシスになりやすいのですが、2型糖尿病はケトアシドーシスになりにくい特徴があります。

    なお、インスリンが足りないと、身長の伸びが止まるなど、年齢に応じた順調な発育も妨げられます。2型糖尿病は成人に多いのですが小児にもみられます。多くは治療にインスリンを必要としませんが、反面、放置されやすく、網膜症、腎症といった慢性合併症が起きてから発見されることも、少なくないといわれています。

  • 第3節 どんな治療をするのか:基本はインスリン療法

    2節図3

    1型糖尿病は、β細胞が全面的に破壊されているため、インスリンの分泌能力は殆どゼロに近い状態です。したがって治療は、注射でインスリンを補うインスリン療法が基本で、その効果を高めるために、食事療法や運動療法を行います。

    特に、発育ざかりの小児の場合、順調な成長や発育を考慮した、心身両面からのフォローが重要です。

    (1) インスリンの特徴

    健康な人の場合、インスリンは体の状態に応じて常に分泌され続けています。私たちの体は、例えば寝ている時でも心臓・肺などは働いており、一定のエネルギーが必要です。そのようなエネルギーを作り出すためにインスリンが必要になります。このようなインスリン(基礎インスリン)以外に、例えば食事をすると、吸収された栄養物によって血糖値が上がります。

    これに反応してインスリンが分泌され、上昇した血糖はエネルギーに変えられ、あるいは栄養素として蓄えられます。このようなインスリン分泌を追加インスリン分泌と呼んでい   ます。

    (2) 注射の打ち方

    インスリンには注射後の作用時間の違いから超速効型、速効型、混合型、中間型、および持効型溶解インスリンがあります。超速効型あるいは速効型インスリンを食事前に追加インスリンとして注射し、中間型あるいは持効型溶解インスリンを基礎インスリンとして寝る前などに注射する方法が、生理的な分泌に一番近いとされています。

    このような一日4回法などのインスリン注射の治療を強化インスリン療法と呼んでいます。実際には、年齢、生活スケジュール、意欲、コントロールによって適宜変更します。

    (3) 血糖自己測定と注射量の加減

    血糖値は食事の内容や量、運動量などで毎日変わります。良いコントロールにするには、血糖値に合わせたきめ細かい調整が必要で、毎日4回を原則として血糖値を測り、その記録を参考にして注射量を加減します。自分で血糖値を測定する器機もいろいろ工夫されて います。注射量が多すぎると後で説明しますように、血糖値が下がりすぎ、低血糖という状態になります。またコントロールが悪いと色んな合併症が心配です。血糖のコントロール状態は運動量や食事によっても大きく変化します。

    最近、インスリン持続皮下注入療法(CSII)が普及してきました。この方法は小型の携帯用インスリン注入装置を使って超速効型インスリンを皮下に持続注入する方法です。これを使うと血糖の変動に対処しやすくなります。その装置や使用方法は最近改善され、かなり使いやすくなってきました。その使用の実際には、本人や家族が機器を正しく操作し、トラブルやそれを使った治療にも適切な対応ができるなど、いろいろの前提条件がありますが、このCSIIの普及によってさらに良いコントロールが期待されています。

    (4) 良いコントロールとは

    コントロール不良の状態が続くと、網膜症や腎症など糖尿病特有の合併症が出てきます。また成長期には、身長の増加も障害されます。よいコントロールとは、低血糖も多くなくまた糖尿病の合併症もあらわれず、また体の発育も正常であることが目標になります。

    そのような状態にするには、血糖値の変動を少なくし、できるだけ正常値に保たなければなりません。先ず、HbA1cを7%以下にすることです。それには日頃の、食前の血糖値を70~120mg/dL以内、食後の血糖値を180mg/dL以下に保つことが、コツです。良いコントロールを保とうとすると、低血糖がよく起こりますが、それは補食で調整します。しかし、低血糖はできるだけ少ないほうがよく、低血糖がひんぱんに起こる時は、インスリンを減量します。

    HbA1c: 過去1、2か月の血糖コントロールの平均値。
    補食: 低血糖の予防・治療のために、決められたカロリー量以外にとる炭水化物。
  • 第4節 1型糖尿病の食事療法

    子供の食事療法の場合、成人と根本的に違うのは、成長のための必要量を十分に摂ることです。その結果生ずる高血糖は、インスリンで調節します。必要量は、厚生労働省の『日本人の食事摂取基準』をもとにし、肥満度、身長の伸び方、思春期が始まった時期などをみて、加減します。とくに、身長が伸びている時の必要量は、伸びがとまった時の倍近くになることもあります。

    インスリンの消費量や血糖の変動を減らす工夫として、炭水化物を摂り過ぎないようにして脂肪、蛋白質との比率を一定にした糖尿病食にしたり、また、食事の回数を増やして、1回分の摂取量を減らすなどの方法があります。

    1)1型糖尿病の運動療法

    運動は、インスリンの効き目を高めるので、毎日、一定の時間に、一定量の運動を行ってください。ただ、激しい運動は血糖の変動を大きくし、コントロールを悪化させる原因になります。低血糖症状をよく覚えておき、軽症の間に補食をとったり、運動の前後の補食、場合によってはインスリンを加減するなど、上手に対応すれば、マラソンや水泳などもできます。

    好きな運動やクラブ活動なども、クラスの仲間と同じように積極的に参加し、学校生活を楽しみましょう。

    2)自己管理

    自己管理というのは、毎日、自分で血糖を測定し、良好な血糖コントロールを保ちながら、しかも低血糖もできるだけ防げるように、自分で注射量を加減し、食事や運動量も気をつけながら、インスリン療法を続けることをいいます。

    私たちは、毎日同じ生活をしているわけではないので、細かな変化に合わせて、血糖をコントロールするのは簡単ではありません。しかし、それを放棄すれば、制限の多い生活をするしかないのです。

    糖尿病であっても、健康な人と同じように、さまざまな可能性に挑戦し、自分の人生にしていくには、この自己管理の技術をまず身につけることです。それは、幼い子供であっても同じです。初めは、主治医や家族の手助けを受けながら、しかし、一日も早く患者さん自身が、自分のものとすることにかかっています。そこから新しい人生が、始まるのですから。

  • 第5節 何に気をつければよいか

    低血糖が起きた時の対応

    低血糖(通常、血糖値が60mg/dL以下の状態)の症状が起きたら、次の対応をすばやくとってください.

    ・症状Ⅰ:
    だるさ、ふるえ、冷汗、ものがかすむ、顔面そう白など
    対応:
    • (1)血糖測定し、低血糖を確認
    • (2)ぶどう糖錠(ジュースか砂糖でも可)をとる
    • (3)しばらく安静にし、血糖測定で確認
    ・症状Ⅱ:
    けいれん、昏睡状態など
    非常事態のため自分で対応できないので、家庭や学校の先生に、対応を頼んでおきます。     
    対応:
    • (1)グルカゴン1mgを筋肉注射
    • (2)救急車で近くの病院へ/li>
    • (3)主治医に連絡 /li>

    健康な体では、血糖が下がればすぐにインスリンの分泌が低下し、血糖を上げるホルモンが分泌されます。しかし、インスリン注射の場合には、そんな調節はできません。血糖が下がると、低血糖の症状が出てきます(右表参照)。低血糖の症状を、自分でよく覚えておき、症状があればすぐに炭水化物をとります。

  • 第6節 シックデイの対応

    シックデイとは、風邪や下痢、嘔吐、大怪我など、糖尿病以外の病気になった時のこと。通 常、血糖値が高くなり、また、よく尿ケトン体が陽性になります。1型糖尿病では、このよう な時に糖尿病昏睡を起こしやすいので、慎重に対応します。

    ふだんから、病気になった時の対応を主治医に相談しておき、いざ病気やけがといった時には、すぐ電話で指示を受けたほうがよいでしょう。