第1章 糖尿病とは「基礎編」 

インデックス 第1節 糖尿病の人口と病気の特徴  | 第2節 糖尿病の誘因  | 第3節 インスリンの作用が不足し血糖値が上昇  | 第4節 糖尿病はコントロールする病気です  | 第5節 糖尿病の症状はあまりあてになりません  | 第6節 放置すると血管や神経が冒されます  | 第7節 糖尿病のタイプ  | 第8節 糖尿病と診断される時   | 第9節 糖尿病の治療   | 第10節 治療の成績を知る指標   | 第11節 糖尿病は自己管理が大切な病気
  • 第1節 糖尿病の人口と病気の特徴

    厚生労働省の調査によると国内の糖尿病患者数は約 950万人と推定されています。ところが同じ調査で、その患者さんのうち治療を受けている人は約65%と報告されています。つまり、糖尿病であることに気付かないでいる人や、気付いていても治療をしないでいる人が、いかに多いかがわかります。

    糖尿病は自覚症状が少ないためにこのような状況となっているのです。しかし、治療しないでいると、やがて全身にさまざまな合併症の障害を起こすのがこの病気の特徴であり、恐ろしい病気なのです。

  • 第2節 糖尿病の誘因

    糖尿病は加齢のほか日常の生活習慣が誘因となって発病するので「生活習慣病」といわれて います。実際には遺伝子です。そして、糖尿病の患者数は年々増え続けています。その理由は 現代社会そのものが糖尿病を増やす生活習慣を生みやすい環境にあるからです。食べ過ぎ、運 動不足、ストレス、アルコールの飲み過ぎなど、どれをとっても現在増え続けている事柄で、 外食産業の隆盛や自動車社会の繁栄、肥満の増加、ストレス社会など、糖尿病を招きやすい条 件は沢山揃っています。

    また、これらの生活習慣にかかわる誘因と共に、糖尿病の発病には遺伝的な素因も深く関係 しているため、血縁者に糖尿病の人がいる場合には特に注意が必要です。なお、加齢や生活習 慣とは関係なく発病するタイプの糖尿病もあります。(「糖尿病のタイプ」の項参照)

    2節図1 2節図2
  • 第3節 インスリンの作用が不足し血糖値が上昇

    インスリンは膵〈すい〉臓で作り出されるホルモンで、細胞が血液の中からブドウ糖を取り込んでエネルギーとして利用するのを助ける働きをしています。インスリンの作用が不足すると、ブドウ糖を利用できなくなり、血液中のブドウ糖濃度「血糖値」が高くなります。これを高血糖といい、この状態が継続するのが糖尿病です。

    インスリンの作用不足には、膵臓のインスリンを作る出す(インスリン分泌)能力が低下してしまうことと、インスリンに対する細胞の感受性が悪くなることの二つの原因があります。

    <炭水化物をエネルギーとして利用する仕組み>

    私たちは、食べ物を消化・吸収することで、生命を維持し活動するためのエネルギーを得ています。食物中の栄養素には、炭水化物、脂質、蛋白質があり三大栄養素と呼ばれていますが、エネルギー源として最もよく使われるのが炭水化物です。

    炭水化物は、消化・吸収されブドウ糖となって肝臓へ送られます。その内の一部は、脳や筋肉で利用され、残りのブドウ糖は肝臓内にグリコーゲンとして蓄えられます。更に余った分は脂肪になります。

    身体活動で血液中のブドウ糖を消費すると、グリコーゲンが分解されて再びブドウ糖となって血液中に放出されます。このようにして、活動のためのエネルギーが常に維持され、血糖値は一定の範囲内の変動におさまっているのです。

  • 第4節 糖尿病はコントロールする病気です

    2節図3

    糖尿病による高血糖状態は、医師の指導を受け、きちんとした治療を守れば、確実によくすることができます。しかし、インスリンの作用が不足している状態は、加齢や長年の生活習慣の結果として起きたものですから、多くの場合なかなか元に戻すことはできません。つまり、治療によって一時的に血糖値が下がっても、治療を続け生活を正していなければ、血糖値は直ぐに高くなってしまいます。

    血糖値を下げてできるだけ健康な人と同じくらいに保とうとすることを「血糖をコントロールする」といいます。糖尿病の人も血糖コントロールを続けていけば、高血糖によって起こるさまざまな病気(合併症)を防ぐことができます。寿命も健康な人と変わりません。

    しかし、血糖コントロールを守らないと合併症は知らず知らずのうちに進行します。そして合併症は一度発症してしまうと一般に治療は難しく、進行を抑えることが治療の主な目的となってしまいます。気付いたときにはもう取り返しのつかない状態になっていた、という患者さんは少なくありません。

    一生油断は許されないという意味で、糖尿病は「治る」とか「治らない」といった表現をあまり用いずに、「しっかり治療をしていれば、一生治ったと同じ状態を保てる病気」と表現することが多いようです。

  • 第5節 糖尿病の症状はあまりあてになりません

    糖尿病の症状は気付きにくく、多少血糖値が高いくらいでは全く症状の無い人が殆どです。しかし、その程度の高血糖でも合併症は着実に発症・進行していきます。「症状が無いから大丈夫」なのではなく、症状があれば血糖値はかなり高くなっているということです。

    高血糖が酷くなると初めて、のどが渇く、お小水が多い、トイレが近くなる、体がかゆい、できものができやすい、傷が治りにくい、足がつる、だるい、疲れやすい、物覚えが悪い、集中しない、眠い、お腹がすく、食べても痩せる、といった症状が現れてきます。更に、血糖値が極めて高い状態では、昏睡に陥ることがあります。

  • 第6節 放置すると血管や神経が冒されます

    自覚症状がないからと糖尿病を放置していると、高血糖は全身のさなざまな臓器を障害します。特に、冒されやすいのは神経と血管を中心とした臓器で、神経障害、眼球の網膜に出血する網膜症、腎臓の機能が低下する腎症、これらの三つが起こりやすく、これを三大合併症と呼んでいます。

    ①神経障害
    全身の神経の働きが鈍り、さまざまな症状が現れます。主な症状は、足先や手先が痺れる麻痺した感じがする、痛い、足が冷たい、ほてる、力が抜ける、勃起障害(ED)、生理が乱れてくる、閉経が早い、便秘や下痢になりやすい、たちくらみがする、額や顔に汗をかきやすい、などです。
    ②網膜症
    糖尿病による網膜症は成人後の失明の主要原因の一つで、年間約3千人が糖尿病によって光を失っています。症状は、視力が落ちる、物がゆがんで見える、目の前にひもや点が見える、視野が欠けるなどですが、高度の視覚障害に至る直前まで症状がないことも少なくありません。
    ③腎症
    腎臓の働きが低下してくると、だるい、疲れる、足がむくむ、貧血になる、吐き気がする、息苦しいなどの症状が現れますが、これらの症状が現れたときには腎機能はかなり低下していて、人工透析を受けないと生命を維持できない状態も近いといえます。年間1万人以上の人々が、糖尿病による腎症が原因で人工透析を始めています。この人工透析が必要になる原因の第1位を占めています。
    ④その他
    足の壊疽〈えそ〉も合併症の一つで、足を切断しなければならないこともあります。また、動脈硬化から心筋梗塞や脳梗塞の危険性も高くなりますし、感染症にかかりやすい、虫歯歯周病や足の水虫になりやすいなど、糖尿病は全身の至るところに影響を及ぼします。

    <ここまでの話を整理しましょう>

    なぜ糖尿病を治療するのか?
    糖尿病であっても、健康な人と同じ寿命を全うし、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持するためです。
    それにはどうすれば良いか?
    合併症が起きないようにする、たとえ起きたとしても、その進行を防ぐことです。
    合併症を防ぐ方法は?
    糖尿病をしっかりコントロールしていけば良いのです。

    糖尿病の三大合併症『しめじ』

    2節図3
    ・心臓
    心疾患になりやすい、心筋梗塞や脳梗塞への特急券・・
    ・目
    糖尿病性網膜症やがて失明にも・・・
    ・腎臓
    血糖値が高く、インスリン注射や腎臓透析へ・・・

  • 第7節 糖尿病のタイプ

    ①インスリン作用不足の原因による分類
    <1型糖尿病>
    膵臓のインスリンを作り出す細胞(β細胞)が破壊されてしまい、インスリン分泌がほぼゼロになってしまうタイプです。自己免疫疾患(本来は体外からからだに侵入しようとする病原菌などを無力化するための免疫機能が自分のからだに対して作用してしまうこと)やウイルス感染などにより、突発的に発病することがほとんどです。小児や若年層に多く発病しますが、成人後や高齢者でも徐々にβ細胞が破壊されてくることがあります。
    <2型糖尿病>
    インスリン分泌が低下はしているもののゼロではなく、いくらかは分泌されているタイプです。インスリン抵抗性(細胞のインスリン感受性が低下した状態)により、作用が不足しているケースもあります。日本では圧倒的に2型糖尿病が多く、生活習慣病と呼ばれる糖尿病はこのタイプの糖尿病です。
    なお、この二つのタイプ以外に、「特定の原因によるその他の型の糖尿病」「妊娠糖尿病」があります。
    ②インスリン作用不足の程度による分類
    <生存のためインスリン治療が必要な状態>
    インスリン分泌が絶対的に不足し、体外からのインスリン補給(インスリン治療)が欠かせない状態です。
    <高血糖是正にインスリン治療が必要な状態>
    生存のためにインスリン治療が欠かせないわけではありませんが、ほかの治療法では血糖値が十分に下がらず、血糖コントロールのためにインスリン治療が必要な状態です。
    <インスリン治療が必要ない状態>
    食事療法や運動療法、飲み薬による治療で血糖コントロールが可能な状態です。2型糖尿病の多くは後者の二ついずれかに該当します。
  • 第8節 糖尿病と診断される時

    糖尿病かどうかは、高血糖が慢性的に続いているかどうかを確認して診断します。但し、血糖値は食事などの影響で大きく変化しますので、以前は血糖検査を繰り返し行って糖尿病と診断していました。しかし、最近、 HbA1c(治療の成績を知る指標)という血糖状態を過去にさかのぼって調べられる検査を組み合わせる事で、1回の検査で診断できるようになりました。

    具体的には、採血検査で下の四つのいずれかに該当した場合、その時点の血糖レベルを「糖尿病型」と判定します。そして、血糖値と HbA1cのいずれもが糖尿病型なら、糖尿病だと診断が確定します。ただ、血糖値か HbA1cのどちらか一方のみが糖尿病型の場合などでは、日を改めて再検査することもあります。

    <糖尿病型と判定される検査結果>

    • (1)随時血糖値が 200mg/dL以上
    • (2)空腹時血糖値が 126mg/dL以上
    • (3)75gブドウ糖負荷試験※で2時間値が200mg/dL以上
    • (4)HbA1cが6.5%以上(HbA1cについては「治療の成績を知る指標」の項参照)

    ※75gブドウ糖負荷試験

    2節図3

    75gのブドウ糖を飲み、時間を追いながら血糖値を調べる検査です。血糖値の変動から、糖尿病型なのか、正常型なのか、あるいはその境界型なのか、パターンが示されます。

    境界型の人は、今は大丈夫でも糖尿病を発病する可能性が高く、また、糖尿病の患者さんと同じくらい動脈硬化が進みやすいので、普段の食事や運動に気をつけるとともに、定期的に検査を受けるようにしましょう。正常型でも、空腹時血糖が100mg/dL以上、または1時間値が180mg/dL以上の場合も同様です。

    <ブドウ糖経口負荷試験>

    一般には75gのブドウ糖を飲んで、1時間後、2時間後に採血をし、その時の血糖値から病気を診断しようとする検査です


  • 第9節 糖尿病の治療

    糖尿病の治療は、合併症の発症・進行を予防するために高血糖を是正すること、つまり血糖コントロールがすべての基本となります。血糖コントロールの手段は、食事療法、運動療法、薬物療法の三つが柱となります。

    ①食事療法

    2節図3

    糖尿病なら、食事療法は絶対に必要です。食事で余分なエネルギーをとってしまうと、それを処理するのは大変だからです。適切なエネルギー摂取量に抑えるほうが、血糖コントロールをより楽に行えます。

    実際、食事が乱れていれば、ほかの治療法の効果はあまり反映されません。その意味でも、食事療法は糖尿病治療の根幹となる治療法です。2型糖尿病の場合、厳格に食事療法を守るのであれば、7割以上の患者さんがそれだけでコントロールが可能です。

    具体的には病院で栄養士から指導を受けたり、講習会に参加するなどして、栄養バランスのとれた食事の仕方を覚えるようにします。「糖尿病食事療法のための食品交換表」を利用するのが標準的な方法です。最近では、糖尿病の治療に配慮されたレトルト食品、カロリー計算された食事食材の宅配、栄養計算が簡単にできるスマートフォンのソフトなどが出ています。

    ②運動療法

    運動で体内に余分に溜まったエネルギーを消費すると血糖値は下がります。また、インスリンの細胞レベルでの働きが高まり(インスリン感受性が高くなり)、血糖コントロールがしやすくなります。

    更に、血行が良くなる、ストレスが解消される、皮下脂肪が減る、骨格筋が増える、生活の活動度が高まるなど、多くの効果を得られます。運度の種類は、日常できるものならどんな運動でもかまいませんが、できるだけ全身を動かすものが勧められます。それまであまり運動をしていなかった場合には、次第に強い運動に移るようにしてください。週末だけに集中して運動するという方法よりも、できれば毎日行できる運動を選びましょう。それには「歩くこと」が最も勧められます

    ③薬物療法

    2節図3

    食事療法と運動療法だけではコントロールがうまくできない時、薬物療法を追加します。経口血糖降下薬(飲み薬)を用いる内服療法と、インスリンなどを注射で補充する自己注射療法との、二つがあります。

    経口血糖降下薬は膵臓からのインスリン分泌を増やしたり、細胞のインスリン感受性を高めたりして、血糖値を下げます。インスリン療法は直接体外から補充したインスリンが、血糖降下を助けます。どの薬物療法をいつから始めるかは、患者さんそれぞれの糖尿病のタイプや病状、合併症の進行具合など、さまざまな要因を総合して決められます。

  • 第10節 治療の成績を知る指標

    2節図3
    HbA1cは直ぐに下がらない!

    糖尿病は自覚症状に乏しい病気なので、治療がうまくいっているかどうかは検査を受けなければわかりません。血糖コントロールの具合を確かめるためには、次のような指標が用いられます。

    <血糖値>

    血液中のブドウ糖濃度のことで、血液1デシリットルあたりのブドウ糖の量をミリグラムで表します。健康な人の早朝の空腹時の血糖値は100mg/dL以下で、食後でも140mg/dLを超えることはあまりありません。糖尿病の人も、なるべくこの値に近づけることを目標に治療します。

    <ヘモグロビンA1c(HbA1c)>

    赤血球の中にあるヘモグロビン(血色素)のうち、ブドウ糖と結合している特殊なヘモグロビン(グリコヘモグロビン)の割合をパーセントで表した指標です。過去1~2カ月間の血糖コントロールとよく関係し、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が高ければ、その時点の血糖値が正常だとしても、1~2カ月間は血糖値が高い状態が続いていたことになります。

    健康な人のHbA1cは4.6~6.2%です。糖尿病でも、低血糖(血糖値の上下動と薬の効果が噛み合わず血糖値が異常に低くなる状態)を起こさずHbA1cを7%未満に維持できれば、合併症が起きにくいことがわかっています。

    <その他の指標>

    このほかグリコアルブミンや15-アンヒドログルシトールといった指標があり、それぞれ多少意味あいは違います。また、糖尿病は高血圧や脂質異常症(高脂血症)も合併しやすいので血糖コントロールの指標以外に、血圧やコレステロール、中性脂肪なども定期的にチェックしておいたほうがよいでしょう。

  • 第11節 糖尿病は自己管理が大切な病気

    2節図3
    糖尿病対策=血糖値をコントロールすこと!

    糖尿病では中途半端な知識や治療は、逆に怖い結果につながります。しっかりした指導を受け、正しい治療を気長に続けることが大切です。そして、糖尿病は自分をいかに強く制していけるか、克己心が必要な病気といえます。自分自身のために日々の自己管理を絶やさず、意志を強くもってがんばりましょう。

    Q&A

    Q:
    尿糖が出ていると糖尿病なのでしょうか?
    A:
    糖尿病という名前から、尿に糖が出るのが糖尿病だと思い込んでいる人がいますが、これは間違いです。糖尿病でも尿糖が出ない場合もあり、尿糖が出ていても糖尿病でないこともあります。糖尿病の診断は、あくまで血糖値を中心に考えられます。だからといって、尿糖を測る意味がないわけではありません。血糖値を知る機会がなくても、簡単に自分でチェックできるという意味では尿糖検査は大切です。自分は大丈夫と思っている人は大食した1~2時間後に、尿をとって試験紙をつけてみてください。反応があるようなら要注意です。
    本当に健康に近い状態ならば、食後といえども尿糖は出ません。なお、血糖値が正常なのに尿糖が出るのは「腎性糖尿」といいます。これは心配ありません。
    Q:
    薬を使い始めると糖尿病は重症なのでしょうか?
    A:
    尿病の場合ほかの病気と違って、ひと口に重症とか軽症とかいうことはできません。一般には合併症をもつ患者さんほど重症度が高いと考えられます。薬物治療をしているからという理由だけでは重症とはいえません。飲み薬を飲んだりインスリン注射をしていても、血糖コントロールがよく、合併症がないのであれば、病気が重症だと考える必要はありません。
    ※インスリン注射はお好きでしょうか?嫌いだったら血糖値を200未満にしよう!
    ※簡単です!固形物の間食を止めましょう(糖分の無いコーヒーやお茶にします)