第35章 筋膜性疼痛症候群〔新しい痛み症状〕

インデックス 第1節 トリガーポイントを探す〔本当に痛い部分は〕  | 第2節 治療法も様々ある〔注射やマッサージ〕  | 第3節 筋膜性疼痛症候群を正しく理解しよう〔誤診も多い〕  | 第4節 最近の医学で判明〔見分ける〕  | 第5節 間違えられやすい病気〔見分け方も難しい〕

激しい運動等の過負荷により筋肉が微少損傷を受けた場合、その部分の筋肉が収縮して、一般に言う筋肉痛の症状が現れ、通常は数日から数週間で自己回復します。しかし、回復の過程で更に過負荷をかけたり、冷やしたりして血行の悪い状態にすると、この収縮が元に戻らなくなり、筋肉が拘縮状態になり痛みを発生し続けるのです。

この状態を「索状硬結(Taut Band)」や「筋硬結(Muscle Knots)」と呼び、索状硬結部位へ物理的に力を加えると強い痛みを感じる事から、この状態の部位を圧痛点 (Tender Point) と呼びます。

<歴史>

筋筋膜性疼痛症候群は1983年にアメリカの医師en:Janet G. TravellとDr.David G.Simonsが執筆した『Travell & Simons’ Myofascial Pain and Dysfunction: The Trigger Point Manual (筋筋膜性疼痛と機能障害: トリガーポイントマニュアル)』にて明確に発表された。

1990年にDr.David G. Simonsが筋筋膜性疼痛症候群の診断基準を発表します。現在では、トリガーポイントの第一人者、関西医療大学(旧関西鍼灸大学)の黒岩共一教授(鍼灸師)らの研究によりTravell & Simonsの時代には解明されていなかった部分が増補・修正されて、より高度な医療へと進化しています。

近年、結合組織(Fascia)・筋膜(Myo-Fascia)の機能に注目し疼痛治療を発展させている組織に、JMPS研究会(日本筋膜性疼痛症候群研究会)があります。医師主体の組織ではあるが、鍼灸や理学療法等幅広い技術を検証しつつ、エコーガイド下で筋膜をリリースする注射療法が開発されました。お蔭で、離島や僻地であっても、大掛りな設備がなくても貢献出来る技術です。

<症状>

体の特定部位に疼痛を発生させる。時にその痛みは歩行、座る事、立つ事など日常生活を困難にするほどの強い疼痛になる事があります。痛みの種類は人や時により異なるが、焼けるような、刺すような、うずくような痛みとして例えられている。また、時間の経過とともに痛みの種類、場所が変化する場合もあります。

すると患者さんは整形外科や形成外科や皮膚科などを受診しますが、真の原因を分からない医者は鎮痛剤や湿布薬を投与するばかり。筋肉を包む筋膜を本当に良く分かっているのは、解剖学を経験した人でしょう。医者が筋筋膜性疼痛症候群を勉強していれば幸いです。

  • 第1節 トリガーポイントを探す〔本当に痛い部分は〕

    <原因>

    複数の要因により発生すると考えられている。まず、縮んでいる筋肉への急激な過負荷、足の長さの不一致、骨格系の歪みなどによる筋肉の損傷が基本的な原因と考えられている。また悪い姿勢、長時間の同じ姿勢により筋肉に負担がかかることも筋筋膜性疼痛症候群を引き起こす原因と考えられている。

    その他、貧血、カルシウム・カリウム・鉄分、ビタミンC/B1/B6/B12の不足なども筋筋膜性疼痛症候群発症の一つの要素になっていると考えられます。但し、筋肉への過負荷等は患者自身に明確な認識が得られない場合もあり、これらの原因に対する自覚認識が無いことが筋筋膜性疼痛症候群では無いことを示すものではありません。

    <原因>

    筋筋膜性疼痛症候群の痛みのメカニズムは以下のように考えられている。筋肉に索状硬結が発生するとその部分で酸素欠乏が起きる。酸素欠乏が起きると血液中の血漿からブラジキニンなどの発痛物質が生成されて、それが知覚神経の先端にある痛みを感じるセンサーであるポリモーダル受容器に取り込まれ、痛みの電気信号に変換され神経を伝わり脳に達し、そして痛みを感じる。

    また、脳や脊髄は筋肉からの痛み信号をとらえて、無意識のうちに自律神経の一つである交感神経を働かせて、さらに索状硬結が発生している場所および周辺の筋肉の血管収縮を行わせる。その結果、再び酸素欠乏が発生し発痛物質が生成されて、痛みがさらに強くなると同時に痛みの場所、範囲も広がる。このような脳や脊髄の働きにより痛みの連鎖が発生する。

    <診断>

    Dr.David G. Simonsが発表した筋筋膜性疼痛症候群の特徴であるトリガーポイントの識別基準の日本語要約は以下のとおりです。

    ・必須基準
    • 触診可能な筋肉の場合、そこに触診可能な索状硬結がある事
    • 索状硬結に鋭い痛みを感じる圧痛点(部位)がある事
    • 圧痛点を押した時に、患者が周辺部分を含む現在の痛みは圧痛点から来ていると感じる事
    • 痛みにより体の可動範囲に制限がある事
    ・確認すべき観察事項
    • 目視可能または、触診でわかる局所的な単収縮(筋肉の収縮)が所見できるか
    • 針を圧痛点に刺すことにより、局所的な単収縮が所見できるか
    • 圧痛点を圧迫することにより、周辺筋肉で痛みや痛みでは無いが何らかの感覚を感じるか
    • 索状硬結の圧痛点で自然状態の電気活動を観測するために、筋電図を取得、観察する。
  • 第2節 治療法も様々ある〔注射やマッサージ〕

    <治療>

    一旦、強い筋筋膜性疼痛症候群を発症すると、患者自身ができる手法で短期回復は一般的に難しく以下のような治療を行う事が一般的である。

    ①西洋医学

    トリガーポイント注射と呼ばれる局部麻酔注射をトリガーポイントを含む圧痛点へ行う方法がDr.Janet G. Travellによって紹介され、それが標準的な治療方法となっている。

    この手法は局部麻酔により索状硬結を解き、血行を良くすることにより、2~3時間後に麻酔効果が無くなった後も継続的に痛みを解く事などを目的としており、一般的な神経根障害治療で行われる硬膜外ブロック注射、神経根ブロック注射とは部位も意味も全く異なる。

    最近の報告によると、局所麻酔薬を使用しなくても、注射針の刺入だけで効果が現れたり、鍼治療が効果があったケースも見られます。

    このトリガーポイントブロック注射の効果は早ければ一回で現れますが、通常は最低でも数回の治療を行います。また、長期に渡り疼痛を発生させてしまっている重症の場合は、脳の痛みに対する複雑な働きも関与して、疼痛のメカニズムが複雑化してしまっている場合があり、投薬と並行して数ヶ月に渡る治療を行う事もあるのです。

    ②東洋医学

    鍼灸、マッサージ等の東洋医学においても筋筋膜性疼痛症候群の痛みを解消、軽減した実例が多く存在します。特に、鍼については原理的に索状硬結部に直接作用させることが可能であることから効果が高いと考えられています。マッサージで大半は治りますが、地味なやり方で筋膜を伸ばして行く方法です

    <線維筋痛症との関係>

    線維筋痛症は全身に原因不明の激しい痛みが生じる病気です。筋筋膜性疼痛症候群と線維筋痛症は類似点が多くあり、線維筋痛症の診断基準の一つに圧痛点が11カ所以上に見られる事という基準があります。一方で、筋筋膜性疼痛症候群の診断基準は圧痛点が1か所以上に見られる事という基準です。筋筋膜性疼痛症候群の全身症状が線維筋痛症であると考えられます。

    <線維筋痛症との違い>

    線維筋痛症(FMS)との関連がしばしば指摘されますので比較してみます。

    筋筋膜痛症候群(MPS)線維筋痛症(FMS)
    筋骨格痛が限局している線維筋痛症は全身で複数に及ぶ
    関連痛が高頻度関連痛が低頻度
    圧痛点が限局している複数で全身性である
    トリガーポイントが有るトリガーポイントは無い
    疲労、不眠、異常感覚、
    頭痛、過敏性腸症候群、
    浮腫感覚が低頻度である
    これらが高頻度で起こる
    筋肉の使い過ぎが原因全身性の慢性疼痛である
  • 第3節 筋膜性疼痛症候群を正しく理解しよう〔誤診も多い〕

    <椎間板ヘルニアなど神経根障害との誤診に対する警告>

    筋筋膜性疼痛症候群の痛みは、他の多くの病気と誤診されることがある。例えば、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、すべり症、坐骨神経痛、椎間板症、分離症、椎間関節症、変形性関節症、変形性脊椎症、梨状筋症候群、頸肩腕症候群、腱鞘炎、半月板障害などいわゆる骨格系の異常により神経を圧迫している神経根障害の痛みと誤診される事があります。この誤診に対して複数の学者、医師から警告が出されています。

    事例
    有名な誤診事例の一つとして筋筋膜性疼痛症候群を発表したDr.Janet G. TravellはジョンF・ケネディ大統領の主治医であった。ケネディー大統領は椎間板ヘルニアと診断をされてヘルニアに対する手術をしたが、症状が改善せず、続いて脊椎固定手術をして更に症状が悪化した。その後、このDr.Janet G.がケネディー大統領をこの筋筋膜性疼痛症候群と診断 し、トリガーポイント注射などの治療を施して、症状が大幅に改善した事例がある。

    ◆筋膜性疼痛症候群

    筋膜性疼痛症候群(Myofascial Pain Syndrome:MPS)は、筋肉が原因となって痛みや痺れを引き起こす病気です。日本では筋痛症とも呼ばれることもあります。通常、我々が急激に重い物を持ったり、無理な姿勢等により繰り返し筋肉に負荷をかけると筋肉に微小損傷が発生します。いわゆる筋肉痛の状態です。

    通常、この痛みは数日程度で自己回復をします。しかし、更に繰り返し筋肉に負荷を与えたり、寒冷にさらされたりりて血行の悪い状態を作ると、その部分が痙攣状態になり短期間で自己回復できなくなります。この状態が筋膜性疼痛症候群になった状態です。

    筋膜性疼痛症候群では一般的な筋肉痛とは異なり、痛みやしびれの強さが相当激しいものになり、更に痛みやしびれの範囲が広範囲に発生します。

    <症状>

    この病気の主な症状は痛みとしびれです。

    <痛み、しびれを感じる部位>

    この病気が起きる可能性ある筋肉は全身の筋肉です。ただし、筋膜性疼痛症候群の場合は、全身で同時に痛み、しびれが発生することは基本的には無く、片肩、首、腰、片足など特定の部位、若しくはその複数の部位の組み合わせで発生をします。

    筋肉の痙攣が起きている場所によっては、広い範囲で痛み、しびれを感じます。例えば以下のような痙攣(ケイレン)の例があります。

    痙攣がある筋肉名痛み、しびれが広がる部位
    小殿筋(足の付け根付近)足の付け根から足首にかけての足全体
    上後鋸筋(背中の肩甲骨付近)肩から指先まで腕全体
    腰方形筋(腰の背骨付近)腰及びお尻の広い部分

    また、痛み、しびれを感じる部位が、時間の経過と共に移動する事があるのも、この病気の特徴の一つです。

  • 第4節 最近の医学で判明〔見分ける〕

    痛みの感じ方

    人により痛みの感じ方は異なりますが、重量物が足を潰しているような痛み、火で炙っているような痛み、ナイフが刺さっているような痛みなどに例えられます。痛みが強い場合には歩行、座る事、立つ事など日常生活を困難にするほど強い痛みになる事があります。また、痛みの感じ方も時間の経過と共に変化をする事あります。

    原因

    筋膜性疼痛症候群(MPS)になる原因は複数あると考えられています。

    筋肉の損傷

    重いものを持ったり、長時間の同じ姿勢、筋肉に負担のかかる姿勢などによる筋肉への過負荷が大きな原因です。一般的に筋肉に対する過負荷は本人が自覚できる場合とできない場合がありますので、自覚できるきっかけの有無がこの病気であるかどうかの判断には必ずしも繋がりません。

    付帯要因

    筋肉の損傷に加えて、貧血、カルシウム・カリウム・鉄分、ビタミンC/B-1/B-6/B-12不足なども筋膜性疼痛症候群発症(MPS)の一つの要素になっていると考えらています。

    診断

    筋膜性疼痛症候群(MPS)であるかどうかの診断は、筋膜性疼痛症候群の存在自体が日本ではほとんど知られていなく、レントゲン、MRI、血液検査など一般的に行われる検査では目で見える結果として現れないため、一般の医療機関では診断、治療が困難です。

    また、同様の理由により、筋膜性疼痛症候群が椎間板ヘルニアなど脊椎関係の異常や神経根を圧迫して発生している痛みと間違われる事もあります。筋膜性疼痛症候群であるかどうかを知るためには、筋膜性疼痛症候群の診断、治療を行っている医療機関で診断をしてもらう事が必要です。

    ◆自身で目安を知る事ができる診断ポイント

    押すと痛みが広がる部位(トリガーポイント、発痛点)があるか?筋膜性疼痛症候群では、筋肉の痙攣、硬直部位に物理的に力を加えると、そこから痛みが広がる点が見つかります。これをトリガーポイントや発痛点と呼びます。

    その他

    筋膜性疼痛症候群では、筋肉内の血管の血流が悪くなり痛みが発生しますので、痛みが発生している付近に血流の悪さによる、軽い「むくみ」が発生する場合があります。例えば、ふくらはぎに痛みがある場合は、その痛みのあるふくらはぎが軽くむくんでいる場合があります。

  • 第5節 間違えられやすい病気〔見分け方も難しい〕

    ◆間違えられやすい病気

    筋膜性疼痛症候群(MPS)は以下の病気として、誤った診断をされることがあります。

    • 顎関節症
    • 五十肩
    • 緊張型頭痛
    • テニス肘
    • 椎間板ヘルニア
    • 脊柱管狭窄症
    • 椎間板症
    • 腰椎すべり症
    • 変形性膝関節症
    • 変形性股関節症
    • 頸肩腕症候群
    • 腱鞘炎
    • 半月板障害 他

    また、発生した筋肉の部位により、以下のような症状が出ることがあります。

    • 非回転性めまい
    • 耳鳴り

    ◆治療

    筋膜性疼痛症候群の治療においては有効な医薬品はまだなく、治療により筋肉内の痙攣を解く治療が一般的です。

    ◆治療方法

    一般的に行われている治療には以下の治療があります。尚、これらの治療は痛みもほとんど 無く、安全性も高い治療です。

    <トリガーポイントブロック注射>
    筋肉の痙攣部位に局部麻酔注射をすることにより、筋肉の痙攣を解き、血流を改善する方法です。(一般的に痛みの治療で行われる、「硬膜外ブロック注射」「神経根ブロック注射」とは異なります)
    <トリガーポイント鍼療法>
    東洋医学の鍼治療で用いられる鍼を使用して筋肉の痙攣部位に刺激を加え、痙攣を解く方法です。

    ◆治療の期間

    通常はある程度の回数を、時間をかけて治療する必要があります。症状が強く日常生活が困難な痛みがある場合は数ヶ月にわたる入院治療を必要とする場合もあります。また、治療の開始が遅れると、脳、脊髄に痛みの信号が長期間に渡り入り続けることにより、脳、脊髄が痛みに敏感になるなど脳、脊髄の複雑な動きが関与してくるなど完治に時間がかかるようになりますので、少しでも早く治療をする事が大切です。

    ◆自分でできる治療方法

    一般的に、筋膜性疼痛症候群を発症してしまった場合、自分自身でできる治療のみにより、短期間で痛みを取る事は難しいですが、自分自身でストレッチング・マッサージ(虚血性圧迫法 他)などを行う事により、症状が改善する場合もあります。