第33章 運動障害〔動作が困難になってくる〕

インデックス 第1節 診断と治療〔筋力低下の診断〕  | 第2節 筋力低下の分類〔様々な筋力低下〕

体の全体または一部を動かすのが困難になることがあり、これを運動障害と呼びます。

<原因>

関節の運動を制限する病気や筋力低下の原因となる病気のために、動作が困難になります。動かすと痛い場合もまた、運動は制限されます。神経系の異常は、痛みや筋力低下を生じることなく運動を妨げることがあります。例えばパーキンソン病では、筋肉のこわばり、振戦、運動開始が困難な状態などが起こります。

・関節の障害
過去のけがでできた瘢痕組織による関節のこわばりが、運動の範囲や速度を制限していることがあります。正常な関節も使わないでいるとこわばります。例えば、脳卒中によって腕が麻痺した場合や、長期間つり包帯で腕をつっていた場合も、定期的に腕の曲げ伸ばしを行わないと、肩やひじの関節の組織が瘢痕を形成して固まってしまうことがあります。関節炎や急性外傷により関節に蓄積した滑液が、関節の動きを妨げることがあります。また、外傷で断裂した軟骨の一部が(一般には膝の)関節の動きを妨げることがあります。
・筋力低下
多くの人は疲れたときや体が弱ったときなどに筋力低下を訴えますが、真の筋力低下とは本人が最大限に力を入れても正常な筋収縮が起こせない状態をいいます。随意筋が正常に収縮するためには、脳が信号を出し、その信号が脊髄と神経を通って正常に機能する筋肉に伝わる必要があります。
従って、真の筋力低下は、神経系、筋肉、神経と筋肉をつなぐ接続部(神経筋接合部)などに影響を及ぼす外傷や病気が原因で起こります。脳の障害には、脳卒中、外傷、腫瘍、変性疾患(例えば、多発性硬化症は、脊髄や神経にも影響を与える)などがあります。脊髄の障害には外傷、出血、腫瘍などがあります。脊髄神経根は、破裂した椎間板の影響を受け、末梢神経は外傷や多発ニューロパチーの影響を受けます。神経筋接合部は、重症筋無力症、ボツリヌス毒素注射のような薬、有機リン酸化合物(神経ガスや多くの殺虫剤に使用)のような特定の毒物の影響を受けます。
筋力低下を起こす筋肉の病気には、筋ジストロフィーや多発筋炎などがあります。一般に不動(ギプス固定や長期間寝たきりの状態)後や高齢者に起こる筋力低下は、筋肉量の減少(筋肉減少症)や筋肉の使用不足が原因です。残る筋肉は正常に機能しますが、筋肉量は適切な量ではありません。
一般に単独の神経、関節、または筋肉が影響を受ければ、筋力低下は通常、片方の腕や脚またはその一部に限局的に起こりますが、広範囲な神経や筋肉の病気が起こった場合、筋力低下の範囲も広がります。
・痛み
筋肉、靭帯、骨、関節に痛みのある人は、意識的または無意識的に運動を制限する傾向があります。そのような場合、神経系や筋肉に動作を起こす能力があるにもかかわらず、筋力低下を起こしている印象を与えることがよくあります。
  • 第1節 診断と治療〔筋力低下の診断〕

    <診断と治療>

    医師はしばしば患者の症状と身体診察の結果に基づいて、筋力低下を診断できます。まず、患者が筋肉を正常に収縮させることができるかどうかを判定します。患者が正常に筋肉を収縮できても関節を動かすことに問題があれば、医師は患者をリラックスさせた状態でその関節を動かします(受動運動)。

    動かすときに痛みがあれば、炎症が問題である可能性があります。受動運動でほとんど痛みがないのにその動きが妨げられる場合(例えば、瘢痕組織により)関節が拘縮していることが問題と考えられます。

    受動運動により痛みも動きの妨げもない場合で、患者が最大限に努力しているのに筋力が低下している場合は、パーキンソン病またはその他の神経学的病気が運動開始を困難にしていなければ、真の筋力低下である可能性があります。真の筋力低下の原因は、患者の症状に注目しどの筋肉が冒されているか、筋肉は収縮しているか、筋の緊張状態はどうかや、ハンマーでたたく反射テストの結果を考慮することによりしばしば判定できます。

    例えば、筋力低下が主に、お尻や太腿や肩などの大きな筋肉に起こっていれば、その原因は広範囲の筋肉に損傷を与える病気でしょう。主に眼の筋肉に筋力低下(複視を生じる)があれば、その原因は神経筋接合部の病気と思われます。主に手の指、手、足に筋力低下がみられ、特に感覚も失われていれば、その原因は多くの神経を損傷する病気(多発ニューロパチー)の場合があります。

    手の指、手、足につながる神経は、体で最も長い神経なので、最も損傷を受けやすい末梢神経です。もしも筋肉が収縮していれば、その問題を起こす病気は、数カ月から数年も存在していることになります。患者の反射が減少しているかまたは遅い場合、原因は神経の損傷でしょう。反射が大きいか予想よりも速ければ、原因は脊髄または脳の損傷の可能性があります。

    医師は受動運動のテストをして筋肉の緊張を調べます。筋力低下の原因が末梢神経の病気であれば、筋肉の緊張は減少します。筋力低下の原因が脊髄や脳の病気であれば、筋肉の緊張は増大します。

    原因がまだ十分に明らかでない場合、その他の検査が役に立ちます。脳や脊髄の病気はCTやMRIのような神経画像検査をして診断します。末梢神経、筋肉、神経筋接合部への損傷が原因である筋力低下を区別するには、通常は筋電図や神経伝導試験(脳、脊髄、神経の病気の診断: 筋電図検査と神経伝導検査を参照)などの検査が有用です。特定のその他の障害(例えば、血液中のカリウムやビタミンDの濃度の低下)は血液検査により診断します。

    固まった関節は、ストレッチ運動や理学療法を行うことによって関節の柔軟性を最大にすることができます。関節可動域が瘢痕組織によって大きく制限される場合は、手術が必要になることがあります。筋力低下を解消する唯一の方法はその原因である病気を治療することです。

  • 第2節 筋力低下の分類〔様々な筋力低下〕

    <筋力低下の分類>

    基礎にある問題解説
    筋肉の病気 筋ジストロフィー 一連の遺伝性筋疾患で、筋力低下の重症度はさまざま
    感染症または炎症性疾患(急性ウイルス性筋炎、多発筋炎など) 筋肉の圧痛、痛み、筋力低下
    薬の使用が原因の広範な筋肉の損傷
    (薬剤誘発性ミオパチー)
    コルチコステロイド、スタチン類、リチウム、アルコール、クロフィブラート、コルヒチンによるミオパチー 筋力低下は、通常はお尻の筋肉から始まって、その他の筋肉に広がるときに痛みはない
    血中カリウム濃度の低値 低カリウム血性ミオパチー(特定の障害または利尿剤の使用が原因) 間欠的な全身の筋力低下
    甲状腺ホルモン値の異常 甲状腺ホルモン高値(甲状腺機能亢進症)または甲状腺ホルモン低値(甲状腺機能低下症) 甲状腺ホルモンの高値または低値は通常、手足よりも肩やお尻の筋肉に顕著な筋力低下を発現
    ビタミンDの不足 骨軟化症 腰痛とともに脚の筋力低下。まれに、体全体の痛み
    神経筋接合部の病気 重症筋無力症、クラーレ中毒、イートン・ランバート症候群、殺虫剤中毒、ボツリヌス中毒、ジフテリア 全身または多くの筋肉の筋力低下や麻痺ときに主に眼筋に影響
    単一神経の損傷
    (単ニューロパチー)
    糖尿病性ニューロパチーまたは局所の圧迫 損傷した神経の支配する領域の筋力低下や筋肉の麻痺、感覚消失
    多数の神経の損傷
    (多発ニューロパチー)
    糖尿病、ギラン・バレー症候群、葉酸欠乏、毒素、薬 損傷した神経の支配する領域の筋力低下や筋肉の麻痺、感覚消失
    脊髄神経根の損傷 頸椎や腰椎の椎間板の破裂 首の痛みと腕の筋力低下やしびれ、腰から脚へ下行する痛み(坐骨神経痛)脚の筋力低下やしびれ
    脊髄の神経細胞体の変性 筋萎縮性側索硬化症 筋肉量や筋力の減少が進行するが、感覚は消失しない
    脊髄損傷 首や背中への外傷、脊髄腫瘍、脊柱管狭窄症、多発性硬化症、横断性脊髄炎、ビタミンB12欠乏症 損傷レベルより下の腕や脚の筋力低下または麻痺、損傷レベルより下の感覚の進行的な消失、腰痛、腸、膀胱、性機能に関する問題
    脳の損傷 脳卒中、腫瘍、頭部外傷、多発性硬化症、感染症 脳の損傷部位の支配する領域の筋肉の筋力低下や麻痺(しばしば脳損傷のその他の症状を伴う)
    心理的問題 うつ病、架空の症状、ヒステリー(転換反応) 神経損傷の証拠はなく、全身の筋力低下や麻痺の訴え

    参考>関節のこわばり

    関節のこわばりとは、関節の動きが制限されたり、動かすのが困難であったりする感覚のことです。このこわばり感は、筋力低下や、痛みで関節を動かすのに消極的になることが原因ではありません。こわばり感があっても、関節可動域の全域を動かせることもあります。

    普通は、起床時やじっとしていた直後にこわばったり、こわばり感が強くなったりします。こわばりは、関節炎でよくみられる症状です。関節リウマチやその他の炎症性関節炎の患者では朝に関節がこわばることが多く、一般的に起床時にこわばりが生じ、その後1~2時間活動するうちに徐々にその感覚は薄れていきます。

    関節のこわばりの原因は患者の症状と身体診察の結果により診断できることがあります。患者を診察して、その問題が動かすことによる痛みや筋力低下ではないことを確認します。関節炎が原因であることが多いので、血液検査(例えば、リウマチ因子や抗核抗体)やX線検査を行います。

    原因となる病気を治療することにより、こわばりは軽減します。ストレッチ、理学療法、起床時に熱いシャワーを浴びるなどをすると、動作に必要な柔軟性を高めることができます。

    参考>筋骨格系の痛み

    痛みは、ほとんどの筋骨格系の障害でみられる主要な症状です。痛みは軽度から重度まで、局所から広範囲まであります。けがによる痛みはほとんどの場合、急性で短期間で治まりますが、関節リウマチのような慢性の病気では長期にわたって続くこともあります。

    <原因>

    筋骨格系の痛みは骨、関節、筋肉、腱、靭帯、滑液包、神経への損傷が原因で起こります。怪我が最もよくある原因です。怪我をしていないのに痛い場合や、痛みが数日以上持続する場合は、別の原因が考えられます。

    骨の痛みは、通常深く刺すような痛みや鈍い痛みです。一般にけがが原因で起こります。その他、より頻度の少ない原因には、骨の感染症(骨髄炎)や骨腫瘍があります。

    筋肉の痛みは、骨の痛みと比べて強さはそれほどでもありませんが、きわめて不快なこともあります。例えば、ふくらはぎの筋痙攣(痛みを伴う筋肉の収縮の持続)を「こむら返り」といい、かなり強い痛みを伴います。痛みはけがや自己免疫反応(例えば、多発筋炎や皮膚筋炎)筋肉への血流量の減少、感染症、腫瘍の浸潤などに、筋肉が冒されると生じる事があります。

    腱と靭帯の痛みは、多くの場合、骨の痛みほど強くありません。損傷のある腱や靭帯を伸ばしたり動かしたりすると、しばしば悪化します。腱の痛みの一般的な原因には、腱炎、腱滑膜炎、外側上顆炎と内側上顆炎、腱の外傷などがあります。靭帯の痛みの一般的な原因には、怪我(ねんざ)があります。

    線維筋痛症は、筋肉、腱、靭帯に痛みを生じる場合があります。痛みは通常、複数の部位に感じられ、正確に説明するのが困難です。患者には通常ほかの症状があります。

    事実上すべての関節のけがや病気では、患部が硬直し、関節炎によくみられる「うずくような痛み」が生じます。その痛みは関節を動かすと悪化し、その程度は軽度から強度まであります。状態によっては、痛みに加えて関節が腫脹することがあります。

    関節の炎症(関節炎)は、関節痛の一般的な原因です。関節炎には、関節リウマチやその他の種類の炎症性関節炎、変形性関節症、感染性関節炎、痛風や偽痛風による関節炎など、多くの種類があります。関節痛のその他の原因には、自己免疫疾患や血管炎症性疾患(例えば、全身性エリテマトーデス、リウマチ性多発筋痛、結節性多発動脈炎)、虚血性骨壊死、怪我(例えば、脱臼、ねんざ、関節内の骨の部分の骨折)などがあります。ときには関節の近くの構造の腱や滑液包に由来する痛みが、関節から来ているように感じられます。

    一部の筋骨格系の病気は、神経が圧迫されることによって痛みを生じます。それらの病気には、手根管症候群、肘部管症候群、足根管症候群などが含まれます。痛みは神経の走行する経路に沿って放散する傾向があり、焼けつくような痛みがあります。

    滑液包の痛みは、滑液包炎や線維筋痛症が原因でしょう。一般に滑液包の痛みは、滑液包を巻き込んだ運動により悪化します。腫れることがあります。ときには、筋骨格系であると思われた痛みが、実際は別の器官系の病気が原因の場合があります。例えば、肩の痛みが脾臓または胆嚢に関する病気に起因することがあります。背中の痛みは、腹部大動脈瘤が原因の場合があります。腕の痛みは心臓発作(心筋梗塞)に起因することがあります。

    さらに、筋骨格系の一部に由来するように思われる痛みが、実際には別の部分に由来している場合もあります。例えば、青年期の膝の痛みは、大腿骨頭すべり症と呼ばれる殿部の障害に起因していることがあります。

    <診断と治療>

    ときに痛みの種類が、痛みがどこから発生しているかを示唆します。例えば、痛みが動作で悪化すれば、筋骨格系の障害を示唆します。筋痙攣の痛みは、痛みの原因が筋肉の異常であることを示唆します。医師が触診したときに腫脹のある部位や圧痛のある位置(関節、靭帯、滑液包など)は、しばしば痛みの源を示します。

    しかし、これらの痛みの特徴ではたいていはその起源や原因はわかりません。従って、医師は通常はその他の症状の有無と、多くの場合には臨床検査やX線の結果に基づいて診断します。例えば、ライム病は関節痛と同心円状の発疹が特徴で、血液検査ではライム病の病原菌に対する抗体が陽性になります。

    痛風は、足の親指の付け根の関節やその他の関節が急に痛んだり、腫脹したり、赤くなったりするのが特徴であり、関節液を検査すると一般に尿酸塩の結晶がみられます。血液検査は、診察後の医師の診断を裏づけるためには有効です。血液検査だけでは診断を確定することはできません。診断を裏づける血液検査の例にはリウマチ因子や抗核抗体などの検査があり、例えば、関節リウマチと全身性エリテマトーデスなどの、関節炎の一般的な原因の多くを診断する助けとなります。通常、そのような検査は、症状から特にそういった病気が疑われるか、症状が持続的あるいはことのほか重症である場合にのみ推奨されます。

    X線は、本来は骨の画像を撮るのに用います。X線では、筋肉、腱、靭帯を写すことはできません。X線検査は通常、医師が骨折を疑う場合に実施しますが、時には骨腫瘍や感染症を疑う場合や、特定の種類の関節炎(例えば、関節リウマチや変形性関節症)の診断を確定するために実施することもあります。

    コンピュータ断層撮影(CT)スキャンは、X線検査より感受性が高いので、単純X線検査で見つかった骨折や骨の問題についてさらに詳細な画像を得るためにしばしば用いられます。単純X線検査とは異なり、磁気共鳴画像(MRI)は、軟部組織の異常、例えば筋肉、滑液包、靭帯、腱などを確認することができます。従って、主要な靭帯や腱への損傷、または関節内の重要な構造への損傷が疑われるとき、MRIを使用します。

    痛みは通常、その原因を治療することによって最も軽減されます。それに加えて、医師はアセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、痛みが激しい場合はオピオイドなどの鎮痛薬を勧めます。原因に応じて、患部を冷やす、温める、関節を固定するなど、筋骨格系の痛みを和らげるのに役立つ方法もあります。