第22章 クローン病〔内臓の臓器から出血〕

インデックス 第1節 合併症と治療〔消化器系臓器を中心〕  | 第2節 薬に関して〔大腸関係の薬〕  | 第3節 手術に関して〔限定的な手術〕

◆クローン病

クローン病(限局性腸炎あるいは肉芽腫性回腸炎や回結腸炎)は、腸壁に起こる慢性炎症で消化管のどの部位にも起こります。正確な原因はわかっていませんが、免疫システムが正常に機能していないことがクローン病を起こすと考えられます。

典型的な症状としては、慢性の下痢(血性となることもある)、痙攣性の腹痛、発熱、食欲不振、体重減少がみられます。

診断は大腸内視鏡検査(柔軟な観察用チューブによる大腸の検査)とバリウムX線検査に基づいて行います。クローン病を治癒させる方法はありません。治療では症状と炎症の緩和が目的となりますが、手術が必要となる場合もあります。

<原因>

クローン病の原因ははっきりしないものの、多くの研究者は、免疫システムの機能障害により、環境、食事、感染などの要因に対して腸が過剰に反応するためと考えています。一部の人はこの免疫システムの機能障害に対する遺伝的素因をもっています。喫煙もクローン病の発症と、周期的な再発に関連しているようです。

過去数十年間にクローン病は世界中で一般的にみられるようになりました。しかし、北方の気候の先進国に暮らす人たちの間で最もよく見られます。男女間に頻度の差はなく、家族内に起こる傾向があり、東欧またはドイツ系ユダヤ人に多くみられるようです。クローン病患者はほとんどの場合35歳になる前、普通は15~25歳で発症します。

クローン病が最もよく起こる場所は、小腸の最後の部分である回腸と大腸です。しかし、口から肛門に至る消化管のどの部分にも起こることがあり、時には肛門周囲の皮膚にまで及びます。クローン病が小腸だけに起こるのは35%、大腸だけに起こるのが20%、小腸の最後の部分と大腸にまたがるものが45%となっています。

クローン病は、正常な部分を間に挟んで腸管の数カ所に分かれて起こることがあります。クローン病が活動性の部分では、通常、多層構造になっている腸の厚みすべてが侵されます。

<症状>

クローン病の初期症状で最も多いのは出血を伴うこともある慢性の下痢、痙攣性の腹痛、発熱、食欲不振、体重減少です。これらの症状は数日間から数週間継続し、治療しなくとも治まります。しかし、たった一度の発作のみで、その後完全に回復することは極めてまれです。クローン病はほぼ必ず生涯を通じて不規則な間隔で再発します。再発は軽いことも重いこともあり、短いことも長びくこともあります。

重症の場合は激痛や脱水、血液量の減少が起こります。なぜ症状が回復したり悪化したりするのか、何が再発のきっかけになるのか、何が重症度を左右するのかはわかっていません。炎症の再発は腸の同じ領域に生じる傾向にありますが、患部を手術で切除した後には隣接する部位に広がることもあります。

小児では、腹痛や下痢などの胃腸症状はしばしば主要な症状ではなく、胃腸症状がまったく現れないことさえあります。代わりに、成長遅延、関節の炎症、発熱、貧血による脱力と疲労などが主な症状となることがあります。

  • 第1節 合併症と治療〔消化器系臓器を中心〕

    <合併症>

    炎症の合併症として、腸閉塞を起こす瘢痕形成、潰瘍が腸壁に深く穿孔し、くぼみに感染による膿がたまる状態(膿瘍)、腸と他の器官の間の異常な通路(瘻[ろう])の形成などがよく見られます。瘻が腸の異なった2つの部位をつなぐことがあります。また、瘻は腸と膀胱をつないだり、特に肛門周辺では、腸と皮膚表面をつないでしまうこともあります。

    小腸の瘻はよくみられますが、大きな穿孔はまれです。大腸が広範囲にクローン病に侵された場合、直腸出血がよく起こります。何年も後に大腸癌が生じるリスクが大きく高まります。クローン病にかかった人の約3分の1では、肛門周囲に症状が現れ、特に肛門粘膜の内側の瘻と裂肛がよくみられます。

    クローン病により、体の他の部分に合併症が生じることもあります。胆石、栄養素の吸収不足、尿路感染症、腎結石、臓器へのアミロイドタンパク質の沈着(アミロイドーシス)などです。クローン病で胃腸症状が再発すると、関節の炎症(関節炎)、白眼の部分の炎症(上強膜炎)、口のびらん(アフタ性口内炎)、腕や脚の皮膚の結節の炎症(結節性紅斑)、皮膚が紫がかって膿がたまる壊疽性膿皮症が起こることもあります。

    クローン病の消化器症状が再発していない時期でも、腸の疾患とまったく関係なく、脊椎の炎症(強直性脊椎炎)、股関節の炎症(仙腸骨炎)、眼の内部の炎症(ぶどう膜炎)、胆管の炎症(原発性硬化性胆管炎)が起こります。

    <診断>

    痙攣性の腹痛と下痢が繰り返して起こる場合、特に家族にクローン病患者がいる場合や以前に肛門周囲に症状があった場合に、クローン病を疑います。関節、眼、皮膚の炎症も診断の手がかりになります。触診では下腹部にしこりや盛り上がりに触れることがあり、特に右側にそれがよくみられます。

    クローン病を確定できる特異的な検査はありませんが、血液検査では貧血、白血球数の異常増加、血液中のタンパク質であるアルブミンの減少、またC反応性タンパク(CRP)濃度の増加などの炎症を示す他の徴候がみられます。

    身体診察と血液検査が済んだら、通常はまず大腸内視鏡検査(柔軟な観察用チューブを用いた大腸の検査)と生検(組織サンプルの切除による顕微鏡検査)を行います。クローン病が生じているのが小腸のみの場合は、大腸内視鏡を結腸全体を通過させ、炎症が最もよく生じる小腸の最後の部分まで進めない限り、病気は発見できません。

    しかし、クローン病は普通、バリウムを飲んでから行う造影X線検査でほぼ常に発見できます。バリウム注腸後にX線画像を撮影すると、大腸のクローン病に特徴的な像が明らかとなります。CT(コンピュータ断層撮影)検査は、クローン病と潰瘍性大腸炎を判別するのに有用な変化を映し出し、膿瘍や瘻などの消化管壁の外側に起こる合併症を突き止めるのに、最も適した方法です。小腸を調べる別の方法に、無線カプセル内視鏡検査があります。

  • 第2節 薬に関して〔大腸関係の薬〕

    <予後(経過の見通し)と治療>

    普通はクローン病に罹患しても寿命が縮まることはありません。しかし、長期に渡るクローン病により消化管に癌が生じ、それによって死亡する場合があります。クローン病を治癒する方法はありませんが、さまざまな治療法で炎症を和らげ、症状を軽減することができます。

    ・下痢止め薬
    痙攣痛や下痢を緩和するこの種の薬には、ジフェノキシレート(diphenoxylate)、ロペラミド、脱臭アヘンチンキ、コデインなどの抗コリン作用を持つ薬(神経系の特定の経路をブロックする薬)があります。これらは経口薬で、できれば食前に服用します。メチルセルロースやオオバコ種子製剤の服用も便を硬くして肛門の炎症を防ぐのに役立ちます。
    ・抗炎症薬
    スルファサラジンとその関連薬剤、メサラジン、オルサラジン(olsalazine)、バルサラジド(balsalazide)などは、炎症を軽減します。これらの薬は、特に大腸の症状を抑え、炎症を軽減します。メサラジンは再発予防に効果があります。しかし、これらの薬は、重症の再発例の緩和にはあまり効果がありません。
    プレドニゾロンなどのコルチコステロイド薬を経口投与すると、発熱と下痢が劇的に軽減し、腹痛と圧痛が緩和され、食欲や体調が改善します。しかし、ステロイド療法を長期的に続けると、まず間違いなく副作用が起こります。多くの場合、最初に重い炎症と症状を緩和するために高用量を服用します。
    その後用量を減らし、できるだけ早期に薬の投与を中止します。新しいコルチコステロイド薬のブデソニドは、副作用はプレドニゾロンより少ないですが、プレドニゾロンほど迅速に効果を発揮しないことがあり、また一般に6~9カ月後以降の再発を防止できません。(日本ではブデソニドの吸入薬は使われていますが、内服薬は未承認です)
    症状が重くなった場合は、入院の上、コルチコステロイド薬を静脈投与します。最初は患者は絶食して輸液で体液を回復、維持します(水分補給)。直腸に大量の出血がみられる場合は輸血が必要となります。慢性の貧血がある場合、鉄のサプリメントを経口または静脈投与することもあります。
    ・免疫抑制薬
    アザチオプリンやメルカプトプリンなどの薬は、免疫システムの作用を調節するもので他の薬に反応しないクローン病に効果があり、特に長期間の寛解(症状が改善された状態)を保つのに有効です。
    免疫抑制薬は全身状態を大きく改善し、コルチコステロイド薬の必要量を減らし、瘻が治ることもよくあります。しかし、免疫抑制薬は臨床的な利益が現れるまでに1~3カ月かかり、重度の副作用が起こることもあります。そのため、医師はアレルギー反応や膵臓の炎症(膵炎)、白血球数の減少を注意深く監視します。
    アザチオプリンとメルカプトプリンを代謝する酵素の一つの変異を検出する遺伝子検査と、代謝物の濃度を直接測定する血液検査を行うことで、薬の安全かつ有効な用量を確かめるのに役立ちます。
    メトトレキサートは、1週間に1回注射または経口で投与するもので、コルチコステロイド薬やアザチオプリン、メルカプトプリンに反応しなかったり、これらの薬の使用に耐えられない場合にしばしば有益です。
    高用量のシクロスポリンは瘻を治すのに役立ちますが、長期間安全に使用することができません。インフリキシマブは、モノクローナル抗体からつくられた薬で、免疫システムの作用を変える薬の1つです。インフリキシマブの静脈内投与は、他の薬に反応しなかった中等度から重度のクローン病の治療、瘻のある患者の治療、病状管理が難しい場合に治療に対する反応を維持するために使えます。
    しかし、1回の注入で有効な期間が短いため、次の注入までの間に別の治療が必要となります。そのような治療法としては、アザチオプリン、メルカプトプリン、メトトレキサートなどの他の免疫抑制薬があります。インフリキシマブは比較的新しい薬なので、長期間使用した場合の有効性と副作用についてはまだすべてわかっていません。しかし、既に生じていてコントロールされていない細菌感染症を悪化させたり、結核を再活性化させたり、ある種の癌のリスクを高める可能性があります。
    アダリムマブはインフリキシマブに関連した薬で、免疫システムの調節を目的としたものです。アダリムマブは、インフリキシマブに耐えられなかったり、反応しなくなった患者で特に有効です。
    腸の炎症を軽減する主な薬薬品名と副作用など
    <アミノサリチル酸系 >
    スルファサラジン
    吐き気、頭痛、めまい、疲労、発熱、発疹、回復可能な男性の不妊症。
    まれに:肝臓の炎症(肝炎)、膵臓の炎症(膵炎)、肺の炎症(肺炎)、溶血性、貧血、腹痛、めまい、疲労は用量に応じて生じる。
    肝炎と膵炎は用量と関係なく生じる。
    バルサラジド(balsalazide)やメサラジンやオルサラジン(olsalazine)
    発熱と発疹。
    まれに:膵炎、心膜の炎症(心膜炎)、肺炎。
    オルサラジン(olsalazine)で水様性下痢。
    スルファサラジンでみられる副作用の大半は他のどのアミノサリチル酸系でもみら れるが、頻度ははるかに少ない
    <コルチコステロイド薬>
    プレドニゾロン
    糖尿病、高血圧、白内障、骨粗しょう症(骨密度の低下)、皮膚が薄くなる、精神的症状、急性精神病、気分の変動、感染症、にきび、過剰な体毛(多毛症)、月経 異常、胃炎、消化性潰瘍疾患。
    備考)糖尿病と高血圧は他の危険因子を持つ人に起こりやすい。
    ブデソニド
    糖尿病、高血圧、白内障、骨粗しょう症。
    ブデソニドはプレドニゾロンと同じ副作用を起こすが、程度は軽い。
    <免疫抑制薬>
    アザチオプリンやメルカプトプリン
    食欲不振、吐き気、嘔吐、感染症、癌、アレルギー反応、膵炎、白血球数の減少、骨髄抑制、肝機能障害。
    通常、用量に応じて生じる副作用は骨髄抑制と肝機能障害。
    一定間隔での血液のモニタリングが必要。
    シクロスポリン
    高血圧、吐き気、嘔吐、下痢、腎不全、ふるえ、感染症、けいれん発作、神経障害、リンパ腫(リンパ系の癌)の発生。
    使用が長期化するにつれ副作用が生じやすくなる。
    メトトレキサート
    吐き気、嘔吐、腹部不快感、頭痛、発疹、口のただれ、疲労感、肝臓の瘢痕形成、 肝硬変、白血球数の減少、感染症。
    肝毒性は用量依存性と考えられる。
    妊娠中に流産や先天異常を起こすため、妊娠中の女性には処方しない。
    インフリキシマブ
    注入反応とは、注入中にすぐに生じる副作用(発熱、悪寒、じんま疹、血圧低下、呼吸困難など)のことをいう。
    治療を開始する前に結核のスクリーニング検査を行うことが必要。
    アダリムマブ
    注射部位の痛みやかゆみ、頭痛、感染症、癌、過敏性反応。
    副作用はインフリキシマブと似ているが、アダリムマブは注入反応を起こさない。
    過敏性反応では、発疹、じんま疹、そう痒症、皮疹などが生じる。

    <広域スペクトル抗生物質>

    様々な細菌類に有効な抗生物質がよく処方されます。メトロニダゾールは、肛門周囲の膿瘍や瘻の治療に最もよく使われる薬です。メトロニダゾールは下痢や腹部の痙攣痛など、クローン病の非感染性の症状を軽減するのにも役立ちます。しかし、長期間使用すると神経に損傷が起こり、腕や脚の皮膚にチクチクする感覚が生じます。

    この副作用は、服用を中止すると止まりますが、服用を中止するとクローン病がよく再発します。シプロフロキサシンやレボフロキサシンなどの抗生物質がメトロニダゾールの代用として、あるいは併用して用いられます。非吸収性抗生物質のリファキシミン(rifaximin)も活動性のクローン病の治療に使われます。

    <食事療法>

    それぞれの栄養素の分量を正確に測った調整流動食を使うと、腸の閉塞状態や瘻が少なくとも短期間改善します。小児では、特に夜間に経管栄養により投与した場合、食事療法をしない場合に比べて、成長を促すのに有用です。この食事療法は術前に、または、手術に加えて実施されます。ときには高濃度の栄養剤を静脈投与し、クローン病に典型的な栄養素の吸収不足を補います。

  • 第3節 手術に関して〔限定的な手術〕

    <手術>

    クローン病の患者の多くで、疾患経過のいずれかの時点で手術が必要となります。腸が閉塞したり、膿瘍や瘻が治癒しない場合は、手術が必要になります。腸の病巣部を切除すると長期にわたって症状が改善されますが、治癒するわけではありません。

    手術後に数種類の薬による治療を始めることで緩和できるものの、残った腸を再接合した部分にクローン病が再発する傾向があります。最終的には、半数近くの人に再手術が必要となります。そのため、手術を行うのは、特定の合併症があるか、薬物療法で効果がなかった場合に限られます。それでも、手術を受けた患者の大部分が、手術前よりも生活の質が改善したと考えています。