第21章 全身性エリトマトードス〔リウマチ性と勘違いし易い〕

インデックス 第1節 全身性エリテマトーデス(SLE)とは  | 第2節 この病気の患者さんはどのくらいいるか  | 第3節 この病気はどのような人に多いのか  | 第4節 この病気の原因は分かっているのか  | 第5節 この病気は遺伝するのですか  | 第6節 この病気ではどのような症状がおきるか  | 第7節 この病気にはどのような治療法があるか  | 第8節 この病気はどういう経過をたどるのか

◆全身性エリテマトーデスの症状

2節図3

全身性エリテマトーデスの症状は、主に皮膚や関節に現れてきます。皮膚症状に関しては、蝶型紅斑という特徴的な発疹が顔面に生じます。これは文字通り、蝶のような形をした発疹です。関節症状は全身に出現します。具体的には、手指の関節に始まり、肘や膝、それから股関節などにも炎症が現れます。この関節炎には、痛みが伴います。

そして、関節炎の発症部位は、日々変化していくのも全身性エリテマトーデスの特徴であるとも言えます。その他、日光過敏症や口内炎、それから脱毛などの症状が見られることもあります。全身症状としては、発熱や倦怠感などが挙げられます。

◆全身性エリテマトーデスの原因

全身性エリテマトーデスの原因は今現在、解明されていません。ただ、自己免疫疾患の一種であることは、ほぼ確定しています。これは、自分の免疫機構がウイルスなどの外敵ではなく自分自身を攻撃してしまう病気です。その結果として、関節などに炎症が起こってしまいます。

では、そうした免疫の異常を引き起こす誘因というのは、一体どのようなものなのでしょうか。それは、紫外線やウイルス感染、それから事故などに遭って大きなケガをした際にも、全身性エリテマトーデスが誘発されることがあります。その他、妊娠や出産を経験した人や、ある特定の薬剤を使用することによっても、この病気が誘発されることがあります。それから、遺伝的素因もある程度存在すると考えられています。

◆全身性エリテマトーデスの治療

全身性エリテマトーデスの治療は、薬物療法がメインとなります。特に、この病気に対しては、副腎皮質ステロイド剤が非常に効果的であると言えます。副腎皮質ステロイド剤を使用する量に関しては、全身性エリテマトーデスの進行度に応じて変えていきます。

副腎皮質ステロイド剤の具体的な薬剤には、プレドニゾロンというものがあります。そしてかなり重症度の高い症例では、このプレドニゾロンを1日あたり50mg程度服用します。一方、重症度が低い症例では、15mg程度服用します。もし、この副腎皮質ステロイド剤を用いても症状が改善されない場合は、免疫抑制剤に切り替えます。具体的には、アザチオプリンやタクロリムスを使用して、治療を進めていきます。

  • 第1節 全身性エリテマトーデス(SLE)とは

    この病気は、英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと略して呼ばれます。systemicとは全身のという意味で、この病気が全身のさまざまな場所、臓器に、多彩な症状を引き起こすということを指しています。lupus erythematosus とは、皮膚に出来る発疹が、狼に噛まれた痕のような赤い紅斑であることから、こう名付けられました。(lupus ラテン語で狼の意味)。発熱、全身倦怠感などの炎症を思わせる症状と、関節、皮膚、そして腎臓、肺、中枢神経などの内臓のさまざまな症状が、一度に、あるいは経過とともに起こってきます。

    その原因は、今のところわかっていませんが、免疫の異常が病気の成り立ちに重要な役割を果たしています。

  • 第2節 この病気の患者さんはどのくらいいるか

    ◆頻度

    日本全国に約6~10万人程の患者さんがいると考えられています。2013年にSLEとして難病の申請をしている方は、61,528人です。しかし、申請をしていない方、医療機関を受診していない方などを含めると、この2倍位の人がこの病気をもっていると推定されています。

    ◆疫学

    たくさんの人種が生活しているアメリカ合衆国での調査によると、この病気は、白色人種には比較的少なく、アフリカ系アメリカ人などの有色人種に多いといわれています。ある特定の地域での発生も報告されています。

    日本では地域差などは見られません。また、輸血によって病気が起こったという報告もなく特別な環境が病気の発症に関係しているという証拠は見つかっていません。

  • 第3節 この病気はどのような人に多いのか

    ◆男女比

    2節図3

    平均すると男女比は1:9ほどで、圧倒的に女性に多い病気です。なかでも生理が始まってから終わるまでの期間に多く、子供、老人では、逆に男と女の差が少なくなります。

    ◆発症年齢

    すべての年齢に発症します。子供を産むことの出来る年齢、特に20~40歳の女性に多いとされています。最近、発症年齢がやや高齢化してきています。


  • 第4節 この病気の原因は分かっているのか

    ◆原因

    多くの研究が世界的に行われていますが、残念ながら今のところはその原因は分かっていません。ただ、自分自身の体を免疫系が攻撃してしまう病気です。本来なら、免疫とは細菌やウイルスなどから自分自身を守ってくれる大切な役割をしているのですが、この病気にかかると免疫系が自分の体を攻撃するようになり、全身にさまざまな炎症を引き起こします。

    患者さん自身には細菌やウイルスに対する免疫はあります。ただ、免疫に対する治療で免疫系全体が抑制されてしまうと、感染に罹りやすくなってしまいます。

    ◆誘因

    何かのきっかけによって、病気が起こったり、あるいは病状が悪化したりすることがあります。そのきっかけになるもの(誘因)がいくつか知られています。紫外線(海水浴、日光浴、スキーなど)、風邪などのウイルス感染、怪我、外科手術、妊娠・出産、ある種の薬剤などが知られています。

    ◆病態

    自分自身の体に対して免疫が反応しているかは、血液中の抗体を調べることによって判断できます。この病気の患者さんのほぼ全員(98~99%)が、血液中に抗核抗体という自己抗体をもっています。自分自身の細胞の中にある核の成分と反応してしまう抗体です。

    この抗体が、自分の細胞の核の物質と反応し、免疫複合体(抗原と抗体が反応してできる多分子結合体)という物質を作って、全身の皮膚、関節、血管、腎臓などに沈着して病気が引き起こされるのが主な病態と考えられています。このほか、免疫を司るリンパ球が直接、自分の細胞、組織を攻撃することもあると考えられています。

  • 第5節 この病気は遺伝するのですか

    この病気のお母さんから生まれる子供の発症頻度、この病気を持っているお母さんから、どの位の頻度でこの病気の子供が生まれるか等、詳しい統計は難しく、きちんとした成績もありません。しかし、その頻度は低いながらも一般の人の発症頻度よりも高いと考えられています。

    ◆一卵性双生児

    遺伝子が同じと考えられる一卵性双生児ではどの位の割合でこの病気が起こるのでしょうか。いくつかの報告により頻度は異なりますが、25~60%程度とされています。遺伝子が同じでも全員が同じ病気になるわけではありません。ですからいわゆる遺伝病ではありません。即ち、残りの40~75%は、何らかの環境要因や偶然の要素が考えられています。

    ◆多発家系

    この病気を含め自分自身の体に対する免疫が起こる病気(膠原病や自己免疫疾患)が、親族に多く見られる家系があります。それが、どのような遺伝子と関係しているのか、世界中で研究が行われています。

    最近の研究で、全身性エリテマトーデスには50以上の遺伝子が関与していることが分かってきつつあります。そして、その中のいくつかは、別の自己免疫疾患にも関係する遺伝子であることが分かっています。

    これらのいくつかは、それぞれの個人の中で免疫系が活発に働く体質に関係していることが分かりつつあります。それを持っている人は、むしろ感染症には強いなど、良い働きをしている場合も多いと考えられています。

  • 第6節 この病気ではどのような症状がおきるか

    一般的に、全身症状、皮膚や関節症状が殆どの患者さんに見られます。これに、さまざまな内臓、血管の病気が加わります。しかし、これらの症状の組み合わせは患者さん毎に異なります。内臓の症状が全くない軽症のタイプもあります。

    ◆全身症状

    発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振など

    ◆関節症状

    手や指が腫れて痛い関節炎を起こします。肘、膝などの大きな関節や手の指など、日によって場所が変わる移動性の関節炎が見られることもあります。

    ◆皮膚症状

    もっとも有名なのは、頬に出来る赤い発疹で、蝶が羽を広げている形をしているので、蝶型紅斑(バタフライラッシュ)と呼ばれています。 皮膚を触ると、発疹が重なりあい、少し盛り上がっているのが特徴です。同じ、頬に出来るものでも、盛り上がりのない、ハケで薄紅色の絵の具をぬったような紅斑も見られます。

    また、一つ一つが丸く、ディスク状(レコード盤様)のディスコイド疹も、この病気に特徴的で顔面、耳介、頭部、関節背面などによくみられます。

    ◆日光感敏症

    強い紫外線にあたった後に、皮膚に赤い発疹、水膨れ、あるいは熱が出る人がいます。このような症状は、日光過敏症といい、この病気でよく見られます。この症状が、病気の始まりであることも少なくありません。しかし、この病気以外にも、日光過敏症を起こす病気がいくつかありますので、それらとの区別が必要です。

    ◆口内炎

    多くは、口の奥、頬にあたる部位や上顎側に出来る粘膜面がへこんだもので、痛みが無く自分で気付かないことがしばしばですが、時に痛みを伴うこともあります。

    ◆脱毛

    朝起きたときに、枕にこれまでなかったほどたくさん髪の毛がつくようになります。また、円形脱毛のように、部分的に髪の毛が抜けたり、全体の髪の量が減ったりすることもあります。また、髪が痛みやすく、髪の毛が途中から折れてしまう人もいます。上で述べたディスコイド疹が頭部に見られると、その部分の脱毛が治らないことが多いので、積極的に治療をする必要があります。

    ◆臓器障害

    様々なものが知られています。すべての症状が起こるわけではなく、一人一人によって、出てくる症状、障害される臓器の数が違います。全く臓器障害のない、軽症の人もいます。特に腎臓(ループス腎炎と呼ばれることがあります)、神経精神症状、心病変、肺病変、消化器病変、血液異常などは生命に関わる重要な障害になることがありますから、きちんとした診断と治療が必要です。

  • 第7節 この病気にはどのような治療法があるか

    ◆副腎皮質ステロイド

    自分自身に対する免疫を抑えるため、免疫抑制効果のあるくすりを使います。なかでも、副腎皮質ステロイドは、現在のところ無くてはならない薬として知られています。病気の重症度によって治療に必要とされる薬の量が違います。

    この副腎皮質ステロイドは、腎臓の上にある副腎皮質という場所から出ているホルモンを化学的に作ったもので、代表的なものはプレドニゾロンです。一日5mg相当のホルモンが体内から出ていますので、5mgのプレドニゾロンを飲むということは、自分自身が毎日作っている量と同じ量を補うことになります。

    一般的に、重症の方では、一日60~80mgを必要としますし、逆に軽症の人では15mg程度で十分なこともあります。最初2週間から1ヵ月間この量を続け、徐々に減らして 5~10mg前後を維持療法として長期に飲み続けることが多いです。

    ただし、このステロイドの使い方は、専門医としてトレーニングを受けた施設により、それぞれの経験に基づいて多少の違いがあり、医師間で同じでないことがあります。

    ◆ステロイドパルス療法

    副腎皮質ステロイドを、点滴で大量に使用する方法です。口から飲むよりより早く、かつ効果も高いとされており、重症度のかなり高い患者さんに使われます。一般的には3日間の使用ですので、この間の副作用も比較的少ないとされています。その後は口からの服用に切り替えます。

    ◆免疫抑制薬

    副腎皮質ステロイドが効果不十分か、副作用が強い場合に、免疫抑制薬を使うことがあります。薬剤をさす正式名(一般名)アザチオプリン(商品名イムラン、アザニンなど)、シクロフォスファミド(エンドキサンなど)、タクロリムス(プログラフ)、サイクロスポリンA(ネオーラル)、ミゾリビン(ブレジニン)などです。2015年からミコフェノール酸モフェチ ル(セルセプト)の適応拡大が認められました。

    シクロフォスファミドと同等で、卵巣の機能を障害する副作用が少ないことから有用性が期待されますが、催奇形性があるので妊娠前にきちんと中止することが重要です。また、世界的に用いられている標準的治療等のヒドロキシクロロキン(プラケニル)が2015年に我が国でも承認されました。皮膚症状や倦怠感などの全身症状での軽減に効果が認められています。

    ◆抗凝固療法

    血栓を作りやすい抗リン脂質抗体症候群を合併している方では、小児用バッファリン、ワーファリンなどによって、血栓の予防が行われます。

    ◆支持療法、対症療法

    腎不全のときの透析療法など、その病状に合わせて治療が行われます。また血行障害の強い方では、血管拡張薬などが使われます。

  • 第8節 この病気はどういう経過をたどるのか

    ◆病型、重症度によって異なる

    臓器障害の広がりや重さによって、病気の重症度が異なります。関節炎や皮膚症状だけの人は、薬剤によるコントロールも難しくなく、健康な方とほとんど変わらない普通の生活が出来ることが期待されます。一方、腎臓障害、中枢神経病変、心臓病変、肺病変、血管炎などの臓器障害がある場合には、多種類の薬剤を大量に長期にわたって使わなければならないことがあります。

    したがって、一口に全身性エリテマトーデスといっても、その病気の広がりと重症度によって、その後の経過は大きく異なります。しかし、そのコントロールの仕方は年々改善され、数十年もこの病気と付き合っている患者さんも増えてきました。そのため、高齢化に伴って起こってくる生活習慣病(動脈硬化、糖尿病、高血圧など)などに対する対策も必要です。

    また、免疫を抑える薬剤を使いますから、もともと持っていた細菌やウイルスに対する免疫応答も抑えられてしまうことで、感染症にかかりやすくなります。普通の健常人ではあまりかからない弱い病原体によっても病気が引き起こされてしまう、日和見感染といわれる感染症対策も重要になってきています。

    ◆薬剤反応性、予後

    現時点では、副腎皮質ステロイドがこの病気の治療には不可欠の薬として知られています。この薬が使われていなかった1950年代に比べ、病気のコントロールは飛躍的に進歩しました。この頃には、発症して5年以上生存する人は50%程とされていましたが、現在では95%以上にまで改善しています。しかし、病型によって、ステロイドの効きやすいものと効きにくいもの があります。

    免疫抑制薬が使われるようになって病気のコントロールはさらに良好になってきています。しかし、治療の結果抑えられた免疫システムにより感染症が起こりやすく、これが生命予後に大きな影響を与えています。そして、これらの欠点が少ない、より理想的な薬の開発が多くの国で行われています。