第16章 うつ病〔気分障害は殆ど該当する病〕

インデックス 第1節 睡眠障害が鍵〔うつ病の防止対策〕  | 第2節 時間の認識〔体内時計を正常に保つ〕  | 第3節 時間と体温〔太陽に合わせる生活様式〕  | 第4節 夜型生活を避ける〔体温と体内時計〕  | 第5節 うつ病と体温〔体温を良く観察〕

いま増え続けている「うつ」って、どんな病気なのでしょうか。うつ病の患者数は百万人を超えています。患者数は1996年から2008年での 2.4倍になっています。厚生労働省の調査によると、うつ病や躁うつ病などの患者数は更に増える傾向です。気分障害で受診する人は、年々増えていますが、躁うつ病の割合は非常に少ないので、うつ病患者だけでも百万人を超えていることは間違いないそうです。

うつ病は、とくに日本ではかなり悪化してからでないと受診しない傾向もあるため、実際の患者数は、もっと多い可能性があります。女性の患者は男性の 1.7倍と多くなっています。年齢別では男性が30~50歳代で多いのに対し、女性では60~70歳代で最も多くなっています。

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<うつ病・躁うつ病の総患者数の推移>

<うつの病態>気分障害の殆どは「うつ病」

気分障害は、長い期間にわたり過度のゆううつ感、過度の爽快感などが続く感情障害です。一般的には憂鬱感と爽快感の両方が繰り返す「双極性障害」(躁うつ病)と、憂鬱感だけが持続する「うつ病」がそれにあたります。躁うつ病は少なく、大多数はうつ病で占められます。

<気づかれにくいが、つらい症状>

うつ病は、気分が沈んだり、何事にも興味が持てないような状態が続く病気で、誰にでも起こる可能性があります。まわりの人には気づかれにくい病気ですが、本人にはつらい症状を伴い、長期化すると仕事を続けられなくなったり、自殺の原因になることもあります。

親しい人が死んだり、引越し、出産、人とのトラブル、病気などがきっかけで起こることもありますが、特にきっかけのない場合もあります。

<うつ病の代表的な症状>

  • よく眠ったのに、朝起きたとき疲れが取れていない。
  • 早朝に目が覚めて、その後はうつらうつらしている。
  • 目が覚めているのに、だるくて床から出られない。
  • 昼間は気分がすぐれず、何ごとも楽しめない。
  • 食欲がない。
  • 集中できない。
  • 第1節 睡眠障害が鍵〔うつ病の防止対策〕

    <うつを見抜く>

    真面目で、責任感が強く、頑張るタイプが、うつ病になり易いのです。どのような性格の人でも発症する可能性はありますが、真面目で、責任感が強く、頑張るタイプに多い傾向があります。他人のせいにせず、自分ひとりで解決しようとする人は、ストレスを溜め込み易いからだといわれています。このような人は、弱音を吐かず、つらくても表に出さないことが多いため、なかなか他人からは病気がわかりません。しかし、だからこそまわりの人が気づいてあげる必要があるともいえるのです。

    <睡眠障害は重要な「うつ」のサイン>

    不眠は、うつ病の必発症状だといわれます。とくに多いのは、朝早く目覚めてしまい、そのあと眠れない「早朝覚醒」です。朝までうつらうつらして疲れがとれず、昼間に気持ちの落ち込みやだるさが続くようなら、専門医に診断してもらう必要があります。

    しかし、最近みられる軽症うつ病や初期のうつ病の場合、寝つきが悪い、何回も目覚めるなど、いろいろなタイプの睡眠障害がともないます。とくに若い人たちに夜型生活をする人が増加するなかで、体内時計の変調による睡眠障害がある人のうつ病が注目されています。

    <寝る前にリラックスする方法>

    ・音楽とお風呂の楽しみ方

    睡眠障害にならないためには、早寝・早起きをして朝日をしっかり浴びることが大切です。良い眠りを得るためには寝る前にリラックスする方法を工夫してください。静かなクラシック音楽を聴くという人もいます。若い人のなかには、曲調の変化が少ない、リズムが一定のロックがいいという人もいます。自分が一番リラックスできる音楽ならいいのだと思います。

    寝る直前に熱いお風呂に入ると、かえって目がさめて寝つきが悪くなることがあります。寝つきをよくするには、ちょっとだるくなるような40℃前後のぬるめのお湯がお勧めです。また「早く寝なければ」とあせらず、眠くなってから床に就いたほうがよく眠れるものです。

    ・早起きが早寝を実現させる

    人間の生活リズムは、朝日を浴びてから14~16時間で眠くなるのです。早寝を実現するには発想を転換して、まず「早起き」から始めることが大切です。不眠の人の場合、早起きするのは大変ですが、そこをなんとか踏ん張って、少しずつでも早く起きるようにします。体内時計には、起きて朝の光を感じた時刻から14~16時間くらいで眠くなるようなプログラムが組み込まれています。従って、早起きをすれば、自然に寝付きも安定してくるのです。

    <朝の光で体内時計を正常化>

    若いうちは積極的に朝日に当たるのがお勧めです。仕事や勉強の都合で、早く眠れない日もあると思います。しかし、眠る時間が遅くなったとしても、翌朝は頑張って早起きします。このとき、できれば日光を部屋に採り入れて浴びるようにします。多少の無理をしてでも、一定の時間に起きて日光を浴びると、体内時計の働きで寝付きが良くなってくるものです。

    ただ年をとると体内時計のサイクルが少し変わってきて、早い時間から眠くなったり、朝早く目が覚めたりという形がでてきます。そういう人は、むしろ早く日光を浴び過ぎないように注意します。ただ、家の中の光くらいなら、あまり気にする必要はありません。

  • 第2節 時間の認識〔体内時計を正常に保つ〕

    <適度な運動を取り入れる>

    運動嫌いな日々が続いていませんか。毎日できる運動がお勧めです。運動をすると、熟睡感が高まるという効果があります。たまに激しい運動をするより、運動を習慣づけることのほうが大切です。その為に、毎日の生活の中で、午後または夕方にできる軽い運動がいいでしょう。

    • 会社の帰りに、ひとつ前のバス停で降りて歩く。
    • 買い物を車でせず、徒歩か自転車でする。
    • しまい込んでいたトレーニング機器にもう一度トライする。
    • ストレッチを始めてみる。

    <時差ボケとうつ>

    太陽の光を活用して対策を取ります。概日リズム睡眠障害は、夜勤(交代勤務性睡眠障害)や航空機などによる時差がある地域への急速な移動(時差症候群)でも起こることがあり、しばしば、うつ状態のような心身の不調を引き起こします。これは体内時計の昼と夜のリズムがジェット機での移動で到着地の昼と夜に合わなくなるためです。

    着いた場所の夜が日本の昼間の時間帯にあたると、ぐっすり眠れなくなります。逆に、昼間には眠気が出てきます。時差ぼけを早く解消して体を順応させるには、次のような対策:

    • 日本の時間から考えて早寝をしなければならないときは、日本時間の午前中の時間帯に光を浴びるようにします。
    • 日本の時間から考えて遅寝をしなければならないときは、日本時間の夕方から夜の時間帯に光を浴びるようにします。
    • 時差ボケは、年をとるほど起こり易くなるので、中年以降の人は、ゆとりをもった旅行のスケジュールが大切です。

    <ヒト体内時計の周期は24時間より長い>

    光を浴びないと、体内時計は24時間周期にならないのです。体内時計は体温や睡眠、ホルモンの分泌などをコントロールし、1日のリズムを作っています。これを「概日リズム」といいます。ヒトの体内時計は1日24時間のリズムに合っているようにみえますが、実は24.5~25時間のサイクルであることが分かっています。

    実験でヒトを自然の光が入る部屋で生活させると、きちんと24時間ごとの概日リズムを維持しますが(グラフの青地部分)、外光を遮断し、時計やテレビなど時間の手がかりになるものを取り除いた状態で生活させると、睡眠時刻が毎日1時間ずつ遅れ、1日を約25時間のリズムで過ごすことが観察されます(グラフの赤地部分)。

    2節図3 2節図3
  • 第3節 時間と体温〔太陽に合わせる生活様式〕

    1日にほぼ1時間ずつ遅れる体内時計を正しい時刻に合わせるために、光は重要な役割を果たしています。もしヒトが外の光を浴びない生活をしていたら、ヒトの体内時計は、24時間に修正されることはないため、日の出、日の入りを基準にした毎日の生活サイクルを維持することはできないのです。

    • 光が入らないところでは人間は1日を約25時間として生活する
    • 朝の光を浴びないと体温のリズムを正しく保てない
    • 朝の光だけが体内時計を正確に合わせる

    自然の光がヒトの体内時計を24時間に修正することは分かりました。では、体内時計が修正されるのは、1日の内でいつなのでしょう? 実験で25時間の概日リズムを示しているヒトに、朝日に近い強い人工光をあてると、光をあてた時刻に応じて、次に眠りにつくタイミングが変わります。「朝」の時間帯に光をあてると、入眠のタイミングが早まり、24時間周期に近づきます。反対に「夜」の時間帯に光をあてると、入眠のタイミングは遅くなります。

    2節図3

    このことから、日常生活のなかでは、朝の光が毎日約1時間ずつ体内時計を早めることにより、概日リズムを24時間に合わせているのだと考えられます。朝の光を浴びる機会のない夜型生活の人は体内時計を合わせる機会がないので、睡眠障害を起こしやすくなってしまいます。

    ヒトの体温は、夜になると就寝前から下がり始め、安らかな睡眠に入る準備をします。逆に朝の体温は、夜明けより前に最低となりますが、起床時間の約2時間前から上昇をはじめ、しっかりと朝の活動に備えます。

    光を浴びることで体内時計を合わせることが可能な時間帯は、普通は夜明け前に出現する最低体温の直後から数時間に限られることがわかっています。

    この時間帯は、通常は夜明けから朝日といえる日差しがある間になります。日が高くなってから、いくら日光を浴びても、体内時計を正常に合わせることはできません。

    <夜型生活が「うつ」と関連>

    体温リズムの変調をともなうタイプの睡眠障害があります。朝の光を浴びる機会のない夜型生活の人がなりやすいのは、眠っている時間帯が慢性的に遅れる概日リズム睡眠障害です。普通の生活をしている人は、夜明け前に最低体温となり、その直後数時間の間に起床して朝日を浴びますから、体内時計を正常に合わせることができます。

    しかし遅寝・遅起きの人は、最低体温となってからもずっと寝ていて、日が高くなってから起きだすので、体内時計を正常に合わせることができません。そのため体温の変動リズムも遅れるようになり、最低体温が夜明けごろになる場合もあります。起きて活動するためには、少し体温を高めておく必要がありますから、努力して早起きしようとしても眠くて起きられません。すると起床するのがさらに遅れていくため、どうしても夜型の生活から抜け出すことができなくなってしまいます。

  • 第4節 夜型生活を避ける〔体温と体内時計〕

    <夜型生活と体温・体内時計>

    概日リズム睡眠障害は「うつ」の大きな誘因です。このような概日リズム睡眠障害になると「うつ」などの気分障害が多くみられるようになります。交代勤務の人たちに「うつ」のような症状がみられることは以前から指摘されていましたが、今は生活全般の24時間化が進んでおり、夜中にテレビを観たり、夜遅くまで携帯電話やパソコンを使う習慣も一般化しています。うつ病患者数が増え続けている現状とこのような生活習慣の変化は無関係ではなさそうです。

    <体温が高くなる「うつ」の患者>

    夜の体温も高いため、睡眠で身体が回復しないのです。うつ病の患者では、深部体温が高くなっていることが分かっています。特に、本来は体温を下げて身体を休める夜の時間帯に体温が下がらなくなっているのが特徴です。身体が本当の意味での休息モードに入れないので、うつ病の人はうまく休むことができず、回復感のない睡眠になってしまうことが考えられます。

    2節図3
  • 第5節 うつ病と体温〔体温を良く観察〕

    <うつ病を治療すると体温が下がる>

    このグラフは1日の体温の動きを示しています。赤い実線で示されたように、うつ病では夜間の深部体温が、黒い点線で示された健康成人と比べ全体に高くなっています。特に、夜間睡眠中の体温の下がりかたが悪く、充分に身体を休めることができなくなっていることが考えられます。うつ病では、健康成人と比べ、昼間と夜間の体温差、つまり体温のメリハリが全体になくなっています。うつ病の治療後は青い実線で示すように、夜間に深部体温が下がるようになり、点線で示した健常人の体温とほとんど同じパターンになることがわかります。

    2節図3

    ※うつ病の人を励ますな!

    良かれと思って素人判断で励ましたり、元気を出せよ、等は絶対に言わないで下さい。それは益々、症状を悪化させて酷い場合には自殺に追い込むことがあります。