第14章 人工透析〔血液を浄化する代行機能〕

インデックス 第1節 長時間透析が必要〔ゆっくり確実に浄化〕  | 第2節 透析合併症の勘違い〔透析不足は合併症へ〕  | 第3節 長時間透析で薬を減らす〔薬に頼らず透析〕  | 第4節 透析と食事〔食生活の注意点〕  | 第5節 リンとカリウム〔美味しい食品は危険が一杯〕  | 第6節 食事の献立で計算〔摂取量は自分で管理〕  | 第7節 リンとカルシウム〔バランス良い食事〕  | 第8節 在宅自己透析〔自分でゆっくりと透析〕

<透析について>

かつて透析は延命治療でした。しかし今では30年、40年以上も透析を受けながら過ごす方が増えています。これからの人生、透析のことをよく知って、よりよい生活を送りたいものです。そこで、透析医療の最新の情報を分かりやすく説明します。

透析とは、腎臓病の進行により腎臓の働きが著しく低下し、体内の余分な水分や成分、老廃物などを、体外に出すことが出来なくなった患者さんのための治療法です。

・日本における透析の現状

日本は世界の中でも最も透析の普及率が高い国です。現在、透析療法を受けている患者さんの数は約30万人で、その数は年々増加しています。増加の原因の背景には、患者さんが高齢化していることと、糖尿病が原因の腎不全(腎臓が機能しなくなること)が増えていることが考えられます。透析療法には「血液透析」と「腹膜透析」がありますが、現在の日本では、96%以上が血液透析です。

<長時間透析の必要性>

日本で行われている血液透析では、週3日で1回4時間というのが標準的時間です。これはどのように決まったのでしょうか。一昔前、尿毒症は 100%死ぬ病気でした。人工腎臓が開発されましたが、今から考えるととても幼稚な透析機器で研究と治療が同時に進行していました。その後の臨床結果で、どのくらい透析をすれば良いかが分かってきました。それが週3回6時間でした。

しかし、これは命に関わらない最低のラインで厳密な食事療法が不可欠でした。その後、透析の膜や機械がよくなって、週3回6時間の透析量を週3回5時間でできるようになり、更に最近では週3回4時間でできるようになりました。つまり週3回4時間というのは、30年以上も前の危うさを抱えたままなのです。もちろん膜が良く成り、色々な事が進歩はしています。でも30年前の基準が今も変わっていないというのは問題です。

<透析時間と生命予後>

今の透析室では、あちらこちらに血圧が下がり処置している人がいるのが普通です。高血圧で血圧の薬を飲んでいる人でも、透析中に血圧が下がるので昇圧剤を処置したりしています。塩分制限が一番大事といいながら、足がつったり、ショックになると、塩分を注射したりします。まったく矛盾する治療をしなくてはならない状況で、なんとか日常を過ごしているのです。

腎臓は1日24時間、1週間では 168時間働いていて、その代わりを週12時間の透析でする、というのは無理があります。まず尿が出なくなっているのですから、水分を抜かなくてはなりません。そして、尿毒素を除去する。それからリンやカリウムなどの電解質のバランスをとることも必要です。これらを効率よく短時間で行おうとすると、人間の身体はついていけないので、長時間になってしまいます。

特に水分の除去ということでは、昔は若い方が多かったので、時間除水が少し多くても大丈夫でした。ところが最近は、年配の方や糖尿病や動脈硬化の強い方も増えています。若い人と同じような速度で除水すると、直ぐに血管内で脱水を起こし、血圧が下がったり、足の筋肉が痙攣を起こしたりします。除水はゆっくり行わなければなりません。

  • 第1節 長時間透析が必要〔ゆっくり確実に浄化〕

    透析中にいろいろな処置を行ったとしても、血圧が下がって動けなくなったり、家に帰ってからも暫く横になって休まなければならないなど、様々な好ましくない症状が生じます。これらの症状はゆっくり透析をすれば、防ぐことができるのです。

    同じ透析量でも時間をかければ楽ですし、家に帰って寝るくらいだったら、透析時間を少し延ばせば送迎をして貰わなくても、元気に歩いて買い物もして帰れます。送迎に頼らず自力で通院すれば日常生活に必要な筋力もつくので、毎日の生活も楽になるはずです。

    透析時間は長いほうが身体に優しいのです。透析時間を短くして回数を多くする、たとえば隔日透析はどうなのでしょうか?実は、透析を受けている方が亡くなるのは月曜日か火曜日だと言われています。土日と2日空きがあるわけですから、危険が増すのは当然です。そこで2日も空かないようにするのが隔日透析です。

    実は大切なのは、透析の回数や長さではなく、どのくらいの透析を行ったか、透析量なのです。今、日本では週3回6時間以上の透析のことを長時間透析と呼ぶようになってきていますが、7時間、8時間とさらに長時間の人も増えています。同時に透析の回数を増やす人も増えています。在宅透析を導入して、寝ている間に透析をするとか、短時間でも毎日透析するのも良い改善案だと思われます。

    <長時間透析や隔日透析での問題>

    ひとつは4時間の透析でも苦しいのに、これ以上の透析は無理だと考えている方が大勢います。4時間だと血圧が下がるけど、3時間半までは何ともないから、3時間半にしてくれ!という人がいます。

    でも「4時間が辛いなら、せめて30分延ばして下さい」が正しいのです。「騙されたと思って3ヵ月やってみてください」。3ヵ月たつと身体が楽になりますから、今度は自分の方から「透析時間を延ばしたい」といってくるでしょう。

    もうひとつの問題は、長時間透析に対応できない透析施設がまだ多いということです。医療者側は、どんな透析を提供することが利用者のクォリティ・オブ・ライフに貢献するのかを、じっくりと検討することが必要でしょう。しかし、何といっても長時間透析の最大の問題点は拘束時間が長いことです。透析を受けている方の QOLの最たることは、透析時間を短くすることだと思います。

    しかし、透析中に命に関わるようなことが起こってはいけません。長年透析を続けることで合併症が起こるような医療をやっていてもいけません。実は「透析の合併症」といいますけど正しくは「透析不足による合併症」なんです。「透析不足による合併症」ならば、充分に透析をすると合併症は起こらないのです。

    透析を受けている方のなかには、さまざまな合併症に苦しまれている方がいます。「腎臓が働いていないんだから、仕方がない」と、諦めてはいませんか?透析を受けている方が元気で生き生きとした毎日を送ることが出来るように透析医療は日々進歩しています。合併症について最新の情報を説明します。

  • 第2節 透析合併症の勘違い〔透析不足は合併症へ〕

    どんな合併症が起こるかいうのは、どんな透析をしているかによります。しかし、透析の合併症というのは誤りで、正しくは「透析不足による合併症」と言えます。腎臓の肩代わりがきちんと行われていないという事ですから、十分な透析を受けていれば、合併症の心配は少なくなります。

    未だまだ長時間透析が普及しておらず、透析不足による合併症は減っていないのが現状です。透析中におこる身体の変化も合併症の一つです。血圧の低下や、足のつり、吐き気や頭痛などがありますが、これらは除水や尿毒素を抜くことで一時的に身体のバランスが崩れることでおこります。また、長年透析を続けているうちに見られるようになる合併症もあります。顔の色が黒くなるとか、痒み、足がイライラする、神経痛や低血圧、頭がすっきりしない、眠れないぴくつきがあるなど、いろいろな症状があげられます。

    透析では、尿で排泄されない水分や尿毒素を除去したり、リンやカリウムなどの電解質のバランスをとったりするわけですが、透析不足が長く続くと、身体に異常が出てくるのです。つまり、これらの症状は、時間を掛けてゆっくりと十分な透析をおこなうことで、かなり防ぐことができます。

    <透析不足からおこる合併症>

    合併症をひきおこす一番の悪者といえば、ちょっと前まではリンでした。ここ20年くらいの透析膜の改良で透析効率が良くなり、食事制限が緩くなりました。良く食べるようになって、リンによる合併症が増えたのです。骨がもろくなり、風邪をひいて咳をしただけで肋骨が折れた人や、血管にカルシウムが沈着して血流が悪くなり、足を切断した人もいました。

    十分に透析をすれば、リンはかなり除去することが可能です。しかし、週3回4時間の透析では、リンの値はどうしても高くなってしまいます。そのためリンが多く含まれる蛋白質を制限しなければならず、それを続けた結果として、最近では一番の合併症は栄養障害だといわれています。

    <透析合併症は透析の不足>

    時間をかけてゆっくりと透析をすれば、透析中に具合が悪くなることはありません。透析が終わってもすぐに行動することができます。そのうえ充分に尿毒素を除去できるので、長年続けても合併症は殆ど起こりません。

    長時間透析をしている人は皆、「認知機能とか頭の回転が良くなり、とても良く仕事ができるようになる」と言います。それと「夜よく眠れるようになった」という人も多いです。大切なのは、その人その人に合わせて危険なことが何も起こらない透析状態をつくることです。一人ひとりで条件を変えることが必要となります。そうすれば無症状に透析ができるのですから透析中に他のことをすることが可能です。

    苦痛もなく、危険もない透析なら、日常生活の中でしなくてはいけないこと、仕事や趣味などをしながら、透析をすることが可能になります。オーバーナイト透析をする施設も出てきていますから、寝ている間に透析をすることだって可能です。寝ている時間を使うと、昼間フルに仕事ができますし、忘年会に参加するなどということも夢ではありません。

  • 第3節 長時間透析で薬を減らす〔薬に頼らず透析〕

    <透析の基準>合併症をおこさない透析量

    現在、透析量を決める基準を何にするかが問題となっています。たとえば透析量を決めるための基準にクレアチニンの値があります。クレアチニンというのは運動するときのエネルギー源ですから、よく食べてよく運動し筋肉量が多い人は高く、小食であまり運動をせず小柄な人は低いのです。

    クレアチニンが低いからといって、尿が出なければ毒素は一杯です。最近の統計調査でクレアチニンが高いほど生命予後が良いという結果も出ていますから、クレアチニンを基準に透析量を決めるのはおかしいでしょう。  透析量の基準にはさまざまな案があります。

    色々な合併症の症状、痒みや貧血、高血圧などを基準にするのがよいと思われます。食欲がない、元気がない、眠れないといった尿毒症の症状があれば、それは透析が不足していると思って間違いありません。合併症がおきているかどうか一番良く分かるのはデータではなく、顔色とか元気さとかなのです。

    合併症がでないような十分な透析をおこなっていれば、透析は全然危ないものじゃないと思います。もっと大変な病気もあるのに、透析を受けている方の生命予後が健常人の半分というのは残念です。充分透析すればリセットされて、生命予後もいいというのは、データでも証明されています。

    <クレアチン>

    筋肉に含まれるクレアチンという物質が、筋肉を動かしたときに分解されてできる物質のこと。クレアチニンは腎臓より尿中に排泄されるため、クレアチニンの血中濃度が腎機能の指標として使われています。

    <長時間透析で薬を減少>

    長時間透析をする場合に飲まなければならない薬はどんなものか。殆どの薬が透析不足の症状を取り除くために服用している薬です。従って、透析不足を解消すれば薬は減ります。先ず透析中ですが、何の薬も使わずに無症状の透析ができるようになります。透析中に血圧が下がるなどということはありません。

    更に、長時間透析を続けていると身体の中に毒素が残りませんから、様々な合併症も改善し必要に応じて薬を飲めばよいだけになります。たとえばリンの吸着剤なら、週3回4時間の透析をしている人なら毎食後ですし、長時間透析をしている人でも、土日で2日空くときはもちろん、自分の体調に合わせて飲んだほうがよいでしょう。家族と食事に行ってステーキを食べたなんていうときには、飲まなくてはなりません。

    透析にも色々なやり方があります。どんな透析を受けるかは、自分の生活スタイルに合わせて選択していけばよいのです。希望があればぜひ主治医に相談してみてください。たとえば、腹膜透析はゆっくりした透析で、寝ている間でも、昼間でも、透析をしながら普通に生活できるので、選択する人が増えています。

    しかし残念なことに腹膜の透析能力は少なく、残腎機能がなくなると合併症を持つ危険があります。だから腎機能が残っている初期の段階では腹膜透析を導入し、残存腎機能が落ちてきたら血液透析と併用し、そのあいだにトレーニングして在宅血液透析に移行していくというのがよいと思えます。

  • 第4節 透析と食事〔食生活の注意点〕

    <栄養障害の生命予後との影響>

    栄養障害の原因としては、「食べなければデータが良い」ために、長期にわたり食べる量を減らした食生活を続けたり、塩分や水分を制限した味気ない食事のせいで食欲がなくなり、食事の量が少なくなってしまったりすることがあげられます。  

    30年以上も透析をしてきて、食事の量が少なく管理がうまくいっていた人の中には、痩せていて、合併症を沢山持っている方がいます。皮肉なことですが、食事管理が良くできている人ほど、長期になると栄養障害になり、免疫力も低い身体になってしまいます。それではクォリティ・オブ・ライフ(QOL)がよいとはいえませんし、生命予後にも大きく影響します。

    <リンの管理と栄養の管理>

    身体を作るのに不可欠な蛋白質を、リンの値が上がるばっかりに抑えなくてはならないと言うのは大きな矛盾です。牛乳はダメですよ、卵はダメですよといった、普通だったら身体を作るために良いといわれているものが、全部ダメと言われます。

    蛋白質を制限しなくてはならないような食事制限というのは、他の病気にはありません。実は、長年透析をしている人の中で、いつも食べ過ぎてしまい、仕方がないから透析時間を延長したという人たちが、今でもとても元気なのです。しっかり食べて、透析の量が多かった人は予後が良いのです。

    やはり蛋白質はあまり制限せず摂取しなければなりません。しかも食事というのは、生命を保つというだけでなく、いろいろな面でも生きる糧ですから、せめて家族と同じくらいのものが食べられなければいけない。食事療法と透析の関係は「しっかり食べて、充分透析」です。食べても、透析の時間を延ばしたり、回数を増やして、しっかり透析をすれば良いのです。

    しかし、どうしても短時間で透析したい、週3回4時間が良いという人もいます。何かの都合で長時間透析の時間が取れないときや、また外食でリンが高いものを食べ過ぎたなどというときは、リンを除去する薬を使います。

    <食事療法>

    透析は1日24時間、週 168時間働いている腎臓の肩代わりをしています。しかし、週3回の1回4時間という標準的な透析は、いのちを維持するための最低限の措置で、透析を行いながら元気に長生きするためには、きちんとした食事を摂ることが大切です。そこで透析を受けている方の食事療法、栄養管理について以下に説明します。

    <栄養不足に注意>

    エネルギー源の蛋白質の重要性について考えましょう。透析をしながら元気に長生きするためには、長めの透析が必要だと上述しました。しかし、透析を受けている方に最も多い合併症は栄養障害ですから、標準的な透析を続けるにしても、長めの透析を行うにしても、大切なことはきちんとした食事療法を行い、栄養管理をしながら、エネルギー源の蛋白質を補給することです。

    腎臓病は他の病気と異なり蛋白質が悪者にされて栄養指導が行われます。なぜかと言えば、透析を受けている方が蛋白質を多く摂ると、リンや尿素窒素などの値が上がり、不利益の方が多くなるからです。しかし、筋肉をつくったり、免疫力を上げたりするのに必要なのは蛋白質ですから、腎臓病の方が元気に長生きするためには、透析をしっかり行って毒素を抜きながら蛋白質を摂ることが必要なのです。

    <必要な蛋白質の量>

    その蛋白質はどれくらい摂ればいいのか。1日の目安を計算するには、日本腎臓学会が言う「腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン」より計算します。日本腎臓学会が推奨している、標準的な透析を行っている方が、食事で摂るべき1日の総エネルギー量は、体重1キロ当たり30〜35Kcalです。蛋白質は体重1キロ当たり1.0〜1.2gです。

    蛋白質からつくられるアミノ酸が、透析によって抜けることを心配する方が時々いますが、きちんと透析を行い、しっかり食べて蛋白質を補給すれば、アミノ酸の抜けを気にする必要はありません。また、連日オーバーナイトで透析を行っている方はともかく、一般の透析を受けている方ではサプリメントでアミノ酸を補う必要もありません。

    <合併症を予防する食事>

    循環器の合併症には、塩分水と水分の管理が大切です。透析を受けている方の死亡原因の内で40%強が心不全、脳梗塞、心筋梗塞などの循環器系疾患で占められます。その原因となる高血圧を防ぐためには、塩分の過剰摂取に気をつけなければなりません。

    ガイドラインで示されている塩分の1日の摂取量は、ドライウエイト(主治医が決めた透析終了後の目標とすべき体重)の1キロ当たり0.15グラム、一般的な体重の人なら約6グラムです。塩分を摂り過ぎると、咽喉が渇いて水分を摂りすぎ、体重が増えることにつながります。ただ単に「水分を摂り過ぎないで」と言っても、塩分を抑えなければ、咽喉が渇いて水が欲しくなります。

    ですから「水を制限しなさいね」と言うよりも「塩分をコントロールして下さい」と言うのが正しいでしょう。ちなみに1日に摂る食事外の水分は、ドライウエイト1キロ当たり15mlなのです。但し、ガイドラインの1日6グラムという塩分の量は、かなり厳しい数値です。

    それは1回の透析で、どれくらいのナトリウム濃度でどの程度の水を抜くかで決まります。標準的な透析の場合、透析日が1日空く場合は少し緩めに、2日空く場合は「少し頑張って塩分控えて下さい」と言うべきです。

    <リンとカルシウムのコントロール>

    循環器の合併症には、塩分と水分の管理が大切です。カルシウムは、細胞の機能維持に不可欠な成分で、体内のカルシウムの99%が骨と歯に含まれています。リンも細胞の構成成分として、また活動エネルギーの運び屋として欠かせない成分で、85%が骨と歯に含まれています。

    昔から、腎臓病の患者さんが骨折することは良くありましたが、それは体内のリンとカルシウムのバランスがコントロール出来なくなるのが原因でした。本来、血液中のカルシウムは、副甲状腺ホルモンによって調節され、カルシウムの数値が正常に戻れば、ホルモンは分泌されませんが、腎疾患による二次性副甲状腺機能亢進症になると、リンやカルシウムの数値が高くても、骨からさらにカルシウムを取り出すよう指令が出て、骨がもろくなります。

    すると、いろんな部分にカルシウム沈着が起きます。ですから、透析を受けている方にとって、リンとカルシウムのコントロールが極めて大事なのです。

  • 第5節 リンとカリウム〔美味しい食品は危険が一杯〕

    2節図3

    <カリウムの摂取を少なく>

    透析を受けている方の合併症のひとつに高カリウム血症があります。高カリウム血症になると、急に心臓が止まったり不整脈が出たりして、命を失うこともあります。

    高カリウム血症の原因は、カリウム含有量の多い食物の摂取です。カリウムはイモを含む野菜や果物に多く含まれています。従って、一般的に、透析を導入する際には、栄養士が「果物は控えめにし、野菜は茹でて、茹で汁は捨てて、そのまま食べて下さい」などと指導します。

    ガイドラインで示されたカリウムの1日の摂取量は 1.5gです。しかし、野菜を茹でて食べたり、果物を摂らなかったりしていたら、ビタミンCなどのビタミン類は摂りようがありません。

    そこで、そういう食事の場合にはビタミン類をサプリメントで補充することもよいでしょう。最近、さまざまなドライフルーツが出回っていますが、透析を受けている方にとってあれほど恐ろしい食品はありません。もともとカリウムが多い果物がドライにしてあるわけですから、まさに「カリウムの宝庫」なのです。

    いずれにしても、カリウムの摂取を抑えるには、カリウムを多く含有するイモ類、野菜類、果物、海草類、豆類などの摂取を少なくすることです。

    <リンの管理>

    以前は、透析を長期間行うと骨がもろくなり、風邪をひいて酷い咳をした際に肋骨が折れて動けなくなるというケースがありました。そこで透析には、骨の問題がつきまとうと認識されていました。しかし、最近では骨の問題よりも、リンの過剰な摂取によって引き起こされる血管や心臓弁膜へのカルシウム沈着が、生命予後を悪くしていることが問題視されています。

    従って、気をつけなければいけないのは、まずリンです。リンの過剰な摂取は、血管の動脈硬化や石灰化をもたらし、副甲状腺機能や骨の代謝に悪影響を及ぼします。一般的な透析を受けている方の1日のリン摂取量は、700〜800㎎と考えられます。リンは多くの食品に含まれており、特に蛋白質を含む美味しい食品に多く含まれています。美味しい食事はリン多し。

    カルシウムを多く含む乳製品も、蛋白質やリンを多く含有しています。しかも、透析により除去できるリンの量は限定されていますから、どうしても透析を受けている方はリンの摂取が過剰になり易いのです。リンの摂取を抑えるには、リンの含有が比較的少ない蛋白質を摂ることです。最近は、炭酸ランタンというリンの吸着剤があり、リンを多く含む蛋白質を摂っても炭酸ランタンを飲めば、リンは吸着されてそのまま排出することができます。数年前までは、副甲状腺摘出術の症例は年間50〜60例ありましたが、このお薬のおかげでそれは殆どなくなりました。

  • 第6節 食事の献立で計算〔摂取量は自分で管理〕

    <病院内食事と病院外食事>

    通院患者さん向けに昼食と夕食を提供する病院では、1週間献立表と月間献立表を貼り出している所も多いです。1ヵ月の間にできるだけメニューが重複しないように配慮し、例えば、同じハンバーグでも、ある日はきのこハンバーグ、別の日は煮込みハンバーグと、バラエティを持たせています。また、1週間献立表には、その日の献立に含まれるエネルギーkcal、蛋白質g、塩分g、カリウム㎎、リン㎎の数値が書かれていて、日々、バランスの取れた食事療法ができるよう管理されています。

    <通院患者さんの献立表(例)>

    病院外の食事において注意する点は何でしょう?最近は手軽にコンビニ弁当で済ませる方も多くなっています。コンビニ弁当で注意して欲しいところは、塩分とリンが多く含まれている点です。また、デパ地下のお総菜も人気がありますが、できれば最初から調味料が掛っている惣菜ではなく、自分で醤油やソースを加減できる品物を買うようにして下さい。

    いずれにしても透析を受けている方は、きちんと透析を行うのと並行して、しっかりと栄養管理を行うことが大切です。日常的に栄養に気を配り、食事の内容をチェックする習慣をつけておけば、次の血液検査でリンの値がどれくらいか、自分で予測がつくようになります。そういう食生活ができれば、週に1回程度、家族と一緒に外食を楽しんでも大丈夫だと思います。

    2節図3
  • 第7節 リンとカルシウム〔バランス良い食事〕

    <骨の健康>

    腎臓は、身体の中のリンとカルシウムのバランスに、大きな役割を果たしています。その異常は骨の健康を損ない、さらに動脈硬化を進め心不全の危険を高めるなど、生命予後に大きく影響します。骨の健康を維持するために、透析を受けている方は何に注意すべきか?

    <骨の異常>

    2節図3

    骨がもろくなってしまうのはどうしてでしょうか?また、二次性副甲状腺機能亢進症はどうして起こるのでしょうか?腎不全など腎臓病の患者さんが骨折し易くなるのは、カルシウムを腸から血液中に吸収する役割を果たす活性型ビタミンDを腎臓で作ることができなくなるのが原因です。カルシウムを腸内から吸収する役目がビタミンDなのです。

    血液中のカルシウムの値が低下すると、副甲状腺ホルモンが分泌されて、骨を溶かしてカルシウムを取り出し、血液中に補おうとしますから、骨がもろくなってしまうのです。加えて、腎不全になると、血液中のリンを尿中に排泄できなくなり、その結果、血液中のリンの値が上昇します。

    リンとカルシウムが骨以外の場所に沈着するのを防ぐために、身体が血液中のカルシウム値を下げるように調節をし、カルシウムの値は低下します。そうすると、ここでもまた副甲状腺ホルモンが分泌されて、骨から分解したカルシウムを血液中に補おうとしますから、骨がますますもろくなります。

    この骨の異常を防ぐには、腸からのカルシウム吸収を活性化し、血液中のカルシウム値を上げるために、活性型ビタミンDを薬で補う必要があります。干し椎茸は食べる前に1時間ほど日光に 晒せば、ビタミンDが数倍に増えます。

    <石灰化>

    2節図3

    異所性石灰化という言葉をしばしば耳にします。体内のリンやカルシウムは、殆どが骨や歯に含まれています。しかし、血液中のリン、カルシウムの値が高くなると、血液中に溶けきれなくなり、関節の周辺や筋肉、皮膚、眼(結膜)、血管、肺などの臓器に沈着して、硬い骨のようになります。

    このように骨や歯以外の異所にリンやカルシウムがたまることを、異所性石灰化と言います。

    皮膚や筋肉、眼に石灰化が生じると、皮膚が痒い、筋肉や関節が痛い、眼が充血して痛むといった症状出ます。昔は肺の石灰化も多く、結核と間違えられるケースもありました。

    やっかいなのは血管の石灰化です。血管に石灰化が起きると血管が詰まりやすくなり、動脈硬化を引き起こします。そして、それが悪化すると、心筋梗塞、脳血管障害、手足の壊疽といった生命に影響する深刻な事態となる可能性もあります。

    最近は、血管や心臓の弁膜以外のカルシウム沈着は、十分な透析を行えば、除去できるようになりました。しかし血管と心臓弁膜のカルシウム沈着は、きれいに取る方法が今はありません。心不全など心臓の合併症や血管系の疾患には注意してください。

    2節図3
    P:Ca=1:3 これがバランスです


    <リンとカルシウムのバランス>

    リン、カルシウムのバランスが崩れると、どんな症状が出るでしょう?カルシウムが高くなると、痒みがひどくなるほかに、イライラするとか、眠れないといった症状が出ることがあります。しかし、一番心配するのは、不整脈、高血圧、動脈硬化など、カルシウム沈着を原因とする循環器系の疾患です。

    逆に、カルシウムが低くなると、主に末梢神経の刺激による筋収縮によって生じるテタニーと呼ばれる痙攣が起き、手足が痺れたり、つるという症状が現れます。リンの値が高いときは高カルシウムのときより酷い痒みや痛みが出ることがあります。ただ、リンの場合、よほど数値が高くならない限り、自覚症状は何もありません。それだけに、気がついたときには大変なことになっているケースがあります。リンの数値が高ければ高いほど、生命予後は悪くなりますから、リンを多く含むタンパク質などの摂取には注意が必要です。

    リンとカルシウムを調節するには、十分な透析、食事療法、薬による調節など、いろんな方法があります。特に、食事療法もそうですが、生活習慣を改善して欲しいものです。

    <リンの吸着薬の歴史>

    骨を健康に保つには、またカルシウム沈着を防ぐためには、リンとカルシウムのコントロールが大切です。リンは多くの食品に含まれており、特に美味しい蛋白質に多く含まれていますから、リンの蓄積を避けるには、リンをあまり含まない蛋白質の摂取が必要です。

    但し、蛋白質不足による栄養失調には気をつけてください。また、リン吸着薬を使ってコントロールすることも必要だと考えられ、ます。リン吸着薬は摂取し過ぎたリンを除去するための薬です。1970年代からリンの吸着薬はありましたが、最近ではリンの吸着力の強い炭酸ランタンといった非カルシウム系のリン吸着薬でコントロールするようにされます。

    この炭酸ランタンのおかげで副甲状腺摘出術の症例は殆どなくなっています。また、腸からのカルシウム吸収を促し、骨の代謝を良くするために、活性型ビタミンDの内服製剤や注射剤も使いますが、血液中のカルシウム上昇に注意する必要があります。医師と相談しながら、慢性腎臓病に対する食事療法基準などを参考に、リンとカルシウムの摂取量をコントロールすることが大切です。

  • 第8節 在宅自己透析〔自分でゆっくりと透析〕

    リンやカルシウムをコントロールし、骨を健康に保つためには、十分な透析を行うことも必要ですが、最近は在宅血液透析といって、自宅で自分で透析を行う人が増えています。施設で何の問題もなく透析を行っている方であれば、例えば透析の針を刺すとき簡単で痛くない穿刺方法の練習などを少しトレーニングをすれば、在宅血液透析ができます。

    在宅血液透析は夜、眠っている間に行うことができますから、長時間透析が可能ですし、日常生活において、透析に時間を取られるという感覚もなくなります。在宅血液透析は、皆さんが主体的に透析を行うことができ「自分の命を自分で守ることができる、ありがたい方法だ」と言われる方もいらっしゃいます。透析の時間を長くして、ゆっくり透析を行えば、生命予後は明らかに改善されることがわかっていますから、在宅血液透析もお勧めです。実際、在宅血液透析は増える方向にあります。