第5章 心臓病(虚血性心疾患 心筋梗塞 急性心筋梗塞)〔時間との戦い〕

インデックス 第1節 心筋梗塞などの諸症状と診断〔個人差があるので注意〕  | 第2節 心筋梗塞などの治療法〔医学と機器との進歩〕  | 第3節 心臓突然死〔市民による救命補助〕  | 第4節 電気的ショックAED〔操作は簡単です〕  | 第5節 緊急医療のシステム〔全国津々浦々へ拡大〕  | 第6節 冠動脈形成術について〔神の手と称される技法〕  | 第7節 人工心肺非使用冠動脈バイパス手術〔バイパス手術とは〕  | 第8節 オフパイプバイパス〔人工心肺との併用〕  | 第9節 超音波検査(エコー検査)〔画像で鮮明に判明〕  | 第10節 タイプA行動パターン〔狭心症になりやすい〕  | 第11節 放射線検査〔進歩した核医学の応用〕  | 第12節 心臓カテーテル検査〔一般的な常識として〕  | 第13節 狭心症について〔心臓の最初の注意病〕

虚血性心疾患は、冠動脈の動脈硬化やけいれんによって心筋への血流が不十分となり、虚血が引き起こされた病気の総称で、大きく「狭心症」と「心筋梗塞」に分けられます。狭心症は胸痛や胸部圧迫などの狭心症症状を伴い心筋が壊死に陥っていない段階を呼びます。

狭心症の症状を伴わず、また心筋が壊死に陥っていない場合は、無痛性心筋虚血と呼んで狭心症とは区別します。心筋が壊死に陥った場合は心筋梗塞となります。虚血性心疾患は高齢社会の到来で患者数が増大している疾患です。病状が急変しうること、胸痛以外にも息切れや上腹部痛が主訴のことがあり、しばしば見落とされること、適切に処置すれば救命しうることなどから、臨床的にも極めて重要な疾患です。

心筋梗塞は冠動脈の閉塞によって心筋が壊死に陥った状態です。急性心筋梗塞と陳旧性心筋梗塞に分類され、急性心筋梗塞は心原性ショックや致死性不整脈などの原因となり、陳旧性心筋梗塞は、慢性心不全の原因として重要です。

冠動脈の閉塞は、動脈硬化による狭窄(きょうさく)が進行して最終的に閉塞が生ずるためと、かつては考えられていました。しかし、急性心筋梗塞は、狭窄の程度が軽い冠動脈硬化部が突然閉塞するためであることがわかってきました。冠動脈硬化病変(プラークという)にコレステロールの蓄積が進むと、プラーク内の組織が破壊され、不安定になり最終的に破綻します。破綻したプラークでは血栓形成が起こり冠動脈は閉塞します。

冠動脈の閉塞部位によって、心筋梗塞が生ずる部位も異なります。右冠動脈(RCA)の閉塞では、下壁ないし後壁の梗塞、さらに右心室の梗塞(右室梗塞)も起こることがあります。左冠動脈前下行枝(LAD)の閉塞では、前壁や前壁中隔梗塞が起こります。LADが大きく心尖部から下壁まで回り込んでいると、閉塞によって下壁梗塞も生じ左冠動脈回旋枝(LCX)の閉塞では、側壁梗塞や後壁ないし下壁梗塞が起きます。

2節図3
  • 第1節 心筋梗塞などの諸症状と診断〔個人差があるので注意〕

    急性心筋梗塞は、胸痛を主訴に受診することが多くみられます。似た症状で発症するのは、大動脈解離です。大動脈解離によって冠動脈入口部が狭窄して急性心筋梗塞を発症することもあります。両疾患は治療法が大きく異なるので、注意が必要です。疼痛を訴える部位の問診や血圧の左右差などに気をつけることが大事です。

    不安定狭心症から急性心筋梗塞に移行することが多いのが特徴です。しかし、前駆症状がなくて突然発症する急性心筋梗塞も多くみられます。

    ※大動脈解離のイメージ図(動脈の壁が裂けて隙間に血液が流れるので激痛)

    2節図3

    1)胸痛

    胸骨部に激烈な痛みを感じ、冷汗(脂汗)、強い不安感、死の恐怖感を伴うことが多く、胸痛の持続は30分以上、時に数時間に及ぶ。左肩や左上肢に放散痛が出現することもあります。一方、、糖尿病患者や高齢者では痛みを伴わない心筋梗塞もあり、定期検査の心電図検査から陳旧性心筋梗塞を指摘される患者も多くみられます。

    2節図3

    2)不整脈による症状

    脈の結滞や動悸を感じます。心室頻拍や心室細動を起こすと意識消失発作をきたし、更に心停止に至ります。急性期では心電図の連続モニターを行います。

    3)心不全による症状

    身体所見としては、呼吸困難感、起座呼吸、血圧低下、チアノーゼ、四肢冷感、呼吸促迫、乏尿などに注意します。とくに心原性ショックの状態に素早く気づき、適切に対応することが重要となります。急性心筋梗塞では、多くの場合、血圧は低下します。血圧が低下すると、尿量の減少、心不全の悪化など悪循環を招きます。

    急性心筋梗塞における心不全の重症度の判定にはキリップ分類が用いられます。CCUではスワンガンツカテーテルを挿入し、血行動態に基づいて重症度の評価と治療方針を決定します。

    ◆診断

    心電図所見と血清中の逸脱酵素値によって診断を確定することになります。

    1)心電図

    診断上、もっとも重要な検査で、異常Q波、R波の減高、ST上昇、T波陰転などの所見が診断に重要です。また心電図誘導のどの部位に所見がみられるかによって梗塞部位を診断します。これらの変化を1枚の心電図から判断することは困難な場合も多いため、できるだけ以前の心電図と比較することが心電図診断の基本となります。

    心室壁を貫くような心筋梗塞では、異常Q波が出現します。虚血の程度が軽く、心内膜側に梗塞が限局する心内膜下梗塞では、異常Q波が出現せずにST低下やT波の陰転化のみがみられることが多いのが特徴です。

    2)胸部X線

    心陰影の拡大、肺のうっ血、肺動脈拡張、胸水の出現に注意します。入院時は異常がなくとも、数日後に心不全を生ずることがあるので、注意して観察します。

    3)心エコー

    梗塞部位で心筋収縮が低下します。梗塞範囲が広いと収縮期に収縮せずに突出し、心室瘤状になることがあります。心筋梗塞を繰り返すと壁運動が次第に低下し、より広範囲で収縮異常がみられ、また、収縮異常をきたした心室内には血栓が形成されることがあります。

    4) 生化学検査

    心筋細胞が壊死に陥ると種々の酵素やタンパクが血中に出現します。これらを血中で測定することにより、急性心筋梗塞を診断し重症度を推定することができます。最も臨床現場でよく利用されているCK(クレアチンキナーゼ)は、発症後24時間で最高値に達し、4~5日後に正常化します。

    一般に、CK値が正常範囲を超えて上昇している場合、全CK値のうちCK-MBが5%を超えていれば心筋障害が疑われます。GOTはCKよりやや遅れて最高となり、4~5日後には正常化します。但し、心原性ショックによって肝障害が生じると、肝臓由来のGOTが上昇します。LDHは遅れて上昇し、2~4日後に最高となり7~10日後に正常化になります。但し、これらの変化は梗塞の大きさで異なり、小範囲の梗塞では正常化も早いのが特徴です。

    5)その他の臨床検査所見

    急性心筋梗塞の発症後、最も早く異常値を示すのが白血球増多で、発症後2~3時間で上昇します。また、心筋細胞の細胞質に存在するミオグロビンもCKより早期に上昇します。

    ◆原因

    原因として最も多いのが冠動脈の動脈硬化があげられます。その他にも、大動脈炎症候群による冠動脈入口部の狭窄、川崎病による冠動脈瘤、大動脈解離による閉塞、心房細動による血栓塞栓症なども原因となります。また、冠動脈の痙攣(れん縮)によって、一時的に冠動脈に狭窄が生じる狭心症があり、冠れん縮性狭心症といいます。れん縮により心筋梗塞が発症することもあります。

    冠動脈硬化の危険因子として、糖尿病、血清脂質異常(高コレステロール、高LDLコレステロール、低HDLコレステロール)、加齢、高血圧、喫煙などがあげられます。

    例えば血清中のLDLコレステロール値が高いと、血管壁内で酸化LDLとして沈着し、炎症反応を引き起こしたり増悪させます。さらに流血中の単球細胞が内皮細胞に接着して血管内に侵入し、コレステロールエステルを蓄えてマクロファージに変化します。マクロファージは増殖因子や細胞外マトリックス分解酵素を分泌するため、平滑筋細胞の増殖や動脈硬化巣の不安定化を引き起こす。

    このようなコレステロール学説は動脈硬化の成り立ちを部分的には説明できますが、血中コレステロールが高くない症例でも、多数の冠動脈硬化症を発症することは日常経験されます。このことはコレステロール以外の要因、とくに加齢、高血圧、糖尿病、喫煙などが重要な危険因子であることを示していますが、これらの因子がどのようにして冠動脈硬化を促進するかは不明です。(喫煙は活性酸素の発生から傷つくのでしょう)

    冠動脈危険因子をいくつ有するかは臨床的に重要で、多いほど虚血性心疾患の発症頻度が高まります。従って、予防医学の立場からは危険因子をできるだけ除いて、動脈硬化の進展を予防する必要があります。

    2節図3
  • 第2節 心筋梗塞などの治療法〔医学と機器との進歩〕

    ◆治療

    1)急性期の治療

    急性心筋梗塞の死亡率は低下してきましたが、病院に搬送される前に死亡される患者さんは依然多くあります。心室細動に対しては、救命用の除細動器が必要です。公共の場に除細動器が用意され、国民の教育が徹底している国もありますが、日本では対応が未だ遅れています。

    心筋梗塞発症後はできるだけ迅速にCCU(Coronary Care Unit)へ収容しますが、当面の処置として酸素投与と血管の確保を行い、同時に①鎮痛・鎮静、②不整脈対策、③心不全・ショック対策を行います。鎮痛・鎮静には塩酸モルヒネ (5mg)を静注、または筋注します。不整脈予防にはリドカイン50~100mgを静注後、1~2mg/分で点滴静注します。心不全、ショックに対しては、ドーパミン、ドブタミン、さらにはノルアドレナリンを投与します。

    2)CCUでの治療

    CCUでは、心電図、動脈圧モニター、スワンガンツカテーテルによる圧モニター、心拍出量モニター、酸素飽和度モニター、体外ペーシングが可能な電気的除細動器、人工呼吸器、ペースメーカー、大動脈内バルーンパンピング(IABP)装置、経皮的心肺補助装置(PCPS)、体外限外濾過装置(ECUM)、持続的血液浄化装置(CHDF)、補助人工心臓などを備えています。

    専門的トレーニングを受けた医師、看護師が24時間体制でケアを行うのが特徴です。特に、心不全、心原性ショック、致死性不整脈に対する対応に適しています。発症12時間以内の急性心筋梗塞であれば、原則として再潅流(かんりゅう)療法を行います。冠動脈造影検査が可能な施設では、緊急CAGを行い、責任冠動脈病変に対してPTCAで拡張します。

    この場合、ウロキナーゼや組織プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)による血栓溶解療法に引き続いて、残存狭窄に対しPTCAを行う場合と、最初からPTCAを行う場合があります。このt-PAの投与で後遺症が残らずに血栓溶解出来ますが、発症から3時間以内であれB有効です。

    前者をレスキューPTCA、後者をプライマリPTCA(またはダイレクトPTCA)といいます。プライマリPTCAは、血栓溶解療法の禁忌となる脳血管障害の既往症例でも実施できて良好です。緊急PTCAの際にステントを留置することはかつて禁忌とされていましたが、最近は抗血小板薬の使用により血栓形成の発生率が低下したこともあり、積極的に行われるようになりました。これをプライマリステント留置術(冠動脈形成術)とも呼ばれます。

    3)一般療法と薬物療法

    第1~2病日はベッド上での絶対安静となります。また、24時間は絶食とし、徐々に粥食から普通食に移行し、数日間はカテーテルによる導尿を行います。最近は、発症早期にアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)を投与すると、心筋の拡張や心不全が予防され、予後を改善すると言われています。

    少量のACE阻害薬からはじめます。血圧が低下することがあるので、投与後は血圧低下にに注意しなければなりません。血圧は100~120mmHg、酸素飽和度は90%以上で維持します。

    4)不整脈に対する治療

    24時間心電図モニターで不整脈を監視します。とくに突然発生しうる心室細動に注意します。心室細動に対してはまず胸部を強く叩打し、心室細動が持続すれば直流除細動器で電気的除細動を行うことになります。

    心室細動の予防として、心室性期外収縮が出現していればリドカイン50~ 100mgを静注、更に、1~2mg/分で点滴投与を行います。連発あるいは多源性の心室性期外収縮、R on T型期外収縮などは更に注意を必要とします。

    心室頻拍に対しては、リドカインで消失しなければ電気的除細動を行います。下壁梗塞では洞結節の抑制や房室ブロックによる徐脈がしばしば生じますが、軽症の場合は硫酸アトロピンで回復します。回復しない場合は一時的にペースメーカーを挿入します。

    要は、術後の48時間程度の絶対安静が必要です。クシャミや力む動作も危険です。心臓すらも停止させる強力な不整脈の発生を抑え対処するために、24時間心電図モニター監視します。

    5)心不全に対する治療

    心不全治療には、理学所見、胸部X線、動脈血ガス分析(または酸素飽和度モニター)、スワンガンツカテーテルによる血行動態のデータなどを基に方針を立てます。特にスワンガンツカテーテルから得られる心拍出量と肺動脈毛細管楔入圧(または肺動脈拡張期圧)を指標とするフォレスター分類がしばしば用いられます。

    フォレスター分類は、急性心筋梗塞の治療方針を立てる上で極めて有用です。

    • Ⅰ型は心不全に対する治療は不要
    • Ⅱ型は肺鬱血がありますが心拍出量は正常なので、利尿薬や血管拡張薬で心臓の負荷(前負荷)を取り除
    • Ⅲ型は肺鬱血はありませんが、心拍出量が低下しているため循環血液量を増やす輸液
    • Ⅳ型は肺鬱血と心拍出量低下が認められるため、カテコールアミン、血管拡張薬、利 尿薬を投与

    重症の場合は、大動脈内バルーンパンピング法(IABP)、経皮的心肺補助装置(PCPS)、持続的血液浄化装置(CHDF)を使用します。

    下壁梗塞の合併症として右室梗塞があります。心電図上、右胸部誘導でSTの上昇がみられます。右室梗塞では血圧低下と心拍出量低下が著しいので輸液を積極的に行う必要があります。

    <予後>

    心筋梗塞の予後は、梗塞範囲におおよそ規定されますが、梗塞範囲が広ければ、心原性ショック、心不全、致死性不整脈を生じやすくなります。心筋梗塞は突然重症化したり、突然死する可能性があるため、適切な処置や注意深い観察だけでなく、患者さんおよび家族への病状説明や検査や治療方針に関するインフォームド・コンセントが極めて重要です。

    冠動脈の閉塞後、心筋壊死は2~3週間持続します。この間は、壊死と線維化が同時進行しており組織が不安定な状態になります。急性心筋梗塞には合併症が生じることが多く、心不全や不整脈以外にも、左心室破裂、心室中隔穿孔、房室ブロック、左心室瘤、心室内血栓、血栓塞栓症、乳頭筋不全による僧帽弁閉鎖不全などが起こります。

    <リハビリテーションの進め方>

    心不全や不整脈などの合併症が起こらなかった場合は、積極的にリハビリテーションを進めます。CKが最高値を過ぎたら受動的半座位、摂食、自力座位と徐々に運動量を上げ、2~3日後にはステップダウン病棟、さらに一般病棟へ移り、2~3週間後の退院を目指します。尚リハビリを行っている間は心電図をモニターし、不整脈や虚血性のST変化に注意します。

  • 第3節 心臓突然死〔市民による救命補助〕

    2002年11月21日、高円宮殿下がスカッシュというスポーツをされている最中に突然倒れ、救急隊員や医師らによる救命の努力もむなしく、亡くなられました。47歳というお若い年齢でした。それまでお元気に活躍されておられたので、まさに青天の霹靂でした。死因は「心室細動」と発表されました。

    殆どの心臓突然死が、この心室細動という不整脈によって起こります。そして心室細動を引き起こす病気には、心筋梗塞や心筋症、あるいは遺伝性疾患などがあります。あらかじめそのような病気の存在がわかっていれば、何とか予防手段がとれる可能性があります。

    それでも心筋梗塞は何の前兆もなしに、いきなり発症し、その数分後に心室細動が出現することがあります。まったく健康な少年が、野球のボールを胸に受けただけで心室細動になって命を落とすこともあります。そうなると日頃から食事に気を遣い、健康診断を受ける、といった予防法を守っているだけでは限界があるといえます

    突然死を回避するには「予防」という考え方だけでなく、突然死になりかけた人を救う、いわゆる「蘇生」というアプローチもあります。蘇生法というと、心臓マッサージが有名で、確かに救急車が到着するまでの間、これを行うと助かる可能性が高まります。

    しかし、心臓マッサージそのものは突然死を生き返らせるという真の蘇生法ではなく、ある意味で救急隊員が来るまでの時間稼ぎに過ぎません。実は真の蘇生法、それも素人でもできる方法というものがあるのです。それを行うには、心室細動の特徴をもう少し詳しく知る必要があります。

    心室細動は不整脈の一種で、心臓が突然に痙攣を起こしてしまい、本来の役割である全身へ血液を送る仕事が出来なくなってしまうものです。一瞬の間に心停止の状態になるのですが、死が訪れるには数分の余裕があります。実はこの心室細動という不整脈は、胸の上から電気ショックを加えると、かなりの確率で元のリズムに戻ります。

    元のリズムに戻れば、全身も生き返る可能性があるのです。一瞬の臨死体験で済むのです。戻るかどうかは、心室細動が起こってから電気ショックを加えるまでの時間が勝負です。1分遅れると、助かる可能性が10%ずつ下がるといわれます。10分を超えると、ほとんど助からないことになります。

    <救命方法>

    これまで日本では、この電気ショックを加える器械を救急車に積み、医者の代わりに救急救命士という資格を持った人が、現場に駆けつけてそれを使うのが一般的な救命方法でした。ところが、この方法では、100人中3人しか助かりません。倒れたのを目撃し、119番に通報するまでの時間、救急車が到着するまでの時間、器械を準備するまでの時間を合わせると、簡単に10分を超えてしまうのです。

    つまり、救命のプロに頼っているだけでは限界があるのです。本当に助けるのであれば、倒れてから5分以内、できれば3分以内に電気ショックをかけないと駄目なのです。医者も救急救命士もいない現場で、一体どうしたらそんなことができるのでしょうか。

    答えは簡単です。現場にいる人、目撃した人が電気ショックを掛ければよいのです。それしか方法がありません。技術進歩のおかげで、今日では小型で、持ち運びができ、しかも使い勝手の簡単な電気ショックの器械があります。(AEDは自動的に音声で応答して指示します)

  • 第4節 電気的ショックAED〔操作は簡単です〕

    湿布のようなものを2枚、患者の胸に貼ると、あとは器械が、電気ショックが必要な不整脈なのかどうかを自動的に診断してくれます。ショックが必要であればそのように音声で教えてくれるので、最後にボタンを押せば、それでショックが掛かります。それだけで人の命が救えるのです。たとえ機械音痴の人でも、この「押しボタン式心臓救命装置」(自動体外式除細動器)なら、十分に使いこなすことができます。あとはこの器械を人の集まりそうな空港、駅、 デパート、競技場、フィットネスセンター、あるいは会社やアパート、自宅などに置いておけばよいのです。

    欧米ではこの器械のことをAED(Automated External Defibrillator)と呼びます。先進国アメリカでは、AEDを旅客機や連邦政府ビルに配置することが法律で決められています。ニューヨーク州では学校にAEDを必ず1台は置いておくことが義務づけられています。欧米ではAEDのお陰で、またそれを積極的に使う市民のお陰で、多くの人の命が助かっています。

    ◆市民が救える唯一の心臓病

    日本ではどういうわけかAEDに対する理解が遅れていましたが、2001年暮れ、国際線の旅客機に初めてAEDが搭載され、客室乗務員が使えるようになりました。そして2004年、ついに厚生労働省が、このAEDを一般人が購入しても、使用しても法律上問題ないとの見解を示しました。

    それを契機に急速にいろいろな場所への配備が進んでいます。現場のAEDの活用により、すでに10名以上の心停止例が救命されています。これからもAEDの有用性を理解し、使える人が増えていかなければなりません。

    心臓突然死は市民が救える唯一の心臓病といってよいかもしれません。このAED「押しボタン式心臓救命装置」さえあれば、心室細動は死を約束した不整脈ではなく、治せる不整脈とみなすべきです。医者や救急救命士に頼っているだけでは駄目です。市民が動かなければ救えないのです。心臓突然死の主治医は市民だということを忘れないで下さい。

    ◆心室細動

    不整脈で最も怖い心室細動は、多数の無秩序な電気刺激により心室が調整を失って、非常に速くふるえ、収縮しなくなる不整脈で、致死的な障害です。

    • 心室細動は数秒のうちに失神を起こし、迅速に治療しなければ死亡に至ります。
    • 心停止の原因の確定には、心電図検査が有用です。
    • 2~3分以内に心肺蘇生を開始し、その後、正常な洞調律を回復するために、除細動を行って胸部に電気ショックを送る必要があります。

    心室細動では、心室は単に細かくふるえるだけで収縮しません。心臓から血液が送り出されなくなるため、心室細動は一種の心停止といえます。心室細動は、即座に治療しなければ死に至ります。心室細動の最も一般的な原因は心臓発作を生じる冠動脈疾患による心筋への血流不足です。このほか、以下のような原因があります:

    • 冠動脈疾患などの疾患を原因とするショック(きわめて低い血圧)
    • 電気ショック
    • 溺水
    • 低カリウム血症(血液中のカリウム濃度が非常に低い状態)
    • 心臓の電流に影響を及ぼす薬(ナトリウムまたはカリウム・チャネル遮断薬など

    ◆症状と診断

    心室細動が起こると数秒のうちに意識がなくなります。治療しなければ、通常は痙攣を起こし酸素が脳へ行かなくなるため、約5分後には不可逆的な脳障害が生じて、まもなく死亡します。突然、虚脱状態になり、顔が極端に青白くなって、瞳孔が拡大し、脈や心拍、血圧を測定できなくなると、心停止と診断されます。心電図検査によって、心停止の原因は、心室細動であることが確認されます。

    ◆治療

    心室細動は、きわめて緊急に治療する必要があります。心肺蘇生術(CPR)はできる限り早く、2~3分のうちには開始しなければなりません。続いて、胸部に電気ショックを送る除細動機器(AED)を入手でき次第行う必要があります。正常な洞調律を維持するために、抗不整脈薬を投与します。

    心臓発作後の2~3時間以内に心室細動が起こった場合、患者にショックや心不全がみられなければ、ただちに除細動を行えば正常洞調律への回復率は95%で、予後も良好です。ショックや心不全は、心室に重大な損傷があることを意味します。それらがみられる場合は、ただちに除細動を行っても正常洞調律への回復率はわずかに30%で、蘇生された患者の70%が機能を回復することなく死亡しています。

    心室細動からの回復に成功し生存していても、再び発作を起こす危険性があります。心室細動の原因が治療可能な病気である場合は、その病気を治療します。そうでない場合は、除細動器を外科的に植え込み、再発したら電気ショックを与えて正常洞調律に修正できるようにします。また、再発予防のために薬を投与します。

    2節図3 2節図3
  • 第5節 緊急医療のシステム〔全国津々浦々へ拡大〕

    <救急医療システム>

    119番通報すると、地区の消防で情報を統括しているセンターにつながります。そこから最寄りの消防署に出場指令が出されます。最近では、この通報の段階で重症あるいは救出が困難と判断された場合には、ポンプ車も同時に出場させるP(PUMP:ポンプ車)~A(AMBULANCE:救急車)連携も行われています。119番通報では、火災か救急車かを先に説明して下さい。

    救急隊は現場で傷病者の観察を行い、その結果から重症度・緊急度を判断し必要な応急処置を行います。各都道府県に救急医療システムが出来上がっています

    救急隊は判断した重症度や緊急度に沿って救急医療機関を選定します。重症度や緊急度が低い場合にはかかりつけ医に搬送するという選択肢もあるため、傷病者やその家族にかかりつけ医や搬送希望の医療機関を聞くこともあります。しかし、重症度や緊急度が高いと判断された場合には、一刻も早く適切な医療機関への搬送が必要となります。

    一般に3次救急対応の特徴のような重症度や緊急度が高い場合には、3次救急対応と判断され、近くの救命救急センター(あるいは地域の基幹病院)に搬送されることになります。事前に容態を確認して、緊急手術の準備確認の上で救命緊急センターへ運びます。

    <メディカルコントロール体制>

    最近、救急救命士の処置範囲が拡大される方向です。このもとになるのがメディカルコントロールMCという考え方です。これは、プレホスピタルケアの医学的な質を保証するために行われるもので、以下の2つがその基本です。現在もMC体制が全国で拡大中です。

    1)オンラインメディカルコントロール
    救急隊が、現場からいつでも迅速に救急医に指示、指導および助言を要請できる。
    2)オフラインメディカルコントロール
    • 実施した救急活動の医学的判断および処置の適正性について、医師による事後検証を行いその結果を再教育に活用する。
    • 救急救命士の資格取得後の再教育として、医療機関において定期的に病院実習を行う。

    <救急医療の標準化>

    昨今、救急の診療や教育が標準化するためのコース(講習会)が全国で展開されています。いずれも少人数制で実技中心のコースで、まず全身をA(気道)、B(呼吸)、C(循環)の順に評価し、それぞれに必要に応じた処置を行うというところからはじまります。これらは、アメリカのものを導入、あるいは参考にして日本版として作成されたものです。アメリカでは他にも幾つものコースがあり医療機関に勤務する際には必須とされているものもあるようです。

    1)ACLS(Advanced Cardiovascular Life Support):
    アメリカ心臓協会の心肺蘇生、徐脈・頻脈、急性冠症候群、急性脳卒中などについてのコースです。日本では日本救急医学会が上記のうち心肺蘇生の心停止に関する部分をICLSを認定コースとして行っています。
    2)JPTEC(Japan Prehospital Trauma Evaluation and Care)、JATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care):
    いずれも日本救急医学会が認定している外傷のコースです。前者は救急隊が現場で行うもの
  • 第6節 冠動脈形成術について〔神の手と称される技法〕

    ◆PCI:経皮的冠動脈インターベンション

    PTCA(経皮的冠動脈形成術)という治療は、スイスのアンドレアス・グルンツィッヒによって1977年に開始されました。現在では安全で有効な狭心症の治療法として、世界中の国々で多くの患者さんがPTCAを受けています。わが国では年間10万例以上の患者さんに行われています。

    P:Percutaneous経皮的、T:Transluminal経管的、C:Coronary冠動脈、A:Angioplasty形成術ということを意味しています。最近ではPTCAというよりPCI(経皮的冠動脈インターベンション)P:Percutaneous経皮的、C:Coronary冠動脈、I:Intervention介入、が多くなっています。

    わが国で風船療法という名前で知られているバルーン形成術は、冠動脈内腔が狭くなった部分、または閉塞している部分を、先端にバルーン(風船)のついた細い管(バルーン・カテーテル)などを使って広げる治療のことです。これは動脈の狭くなった部分に、バルーン・カテーテルを到達させます。そこでバルーンを膨らませると、その圧力により血管の壁面を外側に押し広げることができ、その結果、内腔が広がります。

    バルーン形成術には、いくつかの問題点が残されていました。それは再狭窄、急性冠閉塞、そしてバルーン形成術が不適病変の存在です。再狭窄とは拡張した部分が、3~6カ月後に内膜組織の増殖で再び内腔狭窄をきたすものです。急性冠閉塞とは、狭窄部分を拡張した直後に逆に病変部の閉塞を引き起こしてしまうことです。

    これは拡張した部位が損傷を起こし、そこに血栓ができることで生じます。急性心筋梗塞という重大な合併症にもつながる問題です。バルーン形成術不適病変は、たとえ経験のある術者が行っても良い結果が期待できません。

    これらがバルーン形成術の問題点でした。しかし、これらの問題点を克服する目的で様々な新しい道具が開発されました。これら新しい道具の原理は以下の2つに大別されます。

    • 冠動脈を内側から支える道具
    • 冠動脈硬化組織を血管内から除去する道具/li>

    前者はステントといわれ、網目、構造や材質の違いにより数多く開発されています。後者はDCA(directional coronary atherectomy;ディーシーエイ)とRotablator(ロータブレーター)が存在します。

    ステントは、血管の内側を筒状の金網で支える方法です。ステントは金属(ステンレス)の金網状チューブです。材質の殆どはデザインの違いにより10種類近くも使用されています。ステントを用いることにより、再狭窄を減らすことができます。

    DCAはカテーテルの先端にハウジングがあり、この中にカッターが収納されています。ハウジングには窓が開いており、対側にはバルーンがあります。このバルーンを拡張させることによって窓が動脈硬化組織に押しつけられます。ここでカッターを前進させることにより動脈硬化組織の切除を行う方法です。器具が硬く太いこと術者の技量により結果に差異があります。しかし、左主幹部にかかる左前下行枝の付け根の狭窄などに対してはDCAは良い方法です。

    ロータブレーターは先端部分が高速度で回転し(歯医者さんのドリルみたいです)、硬く固まった動脈硬化組織を電動ドリルのように削り取っていくものです。この先端部は正常血管壁には損傷を与えず硬い病変部のみを削るようにできています。バルーン拡張を含めた多くの方法が石灰化を伴う硬い病変に対しては効果がないのに対して、ロータブレーターは高度に石灰化した病変に対しても有効であるのが最大の特徴です。

    今では拡張効果が確実であるとの理由で約80%以上の患者さんがステントを挿入されています。アテレクトミー(DCA)が必要な例は5%以下です。

    <PCIの適応>

    PCIは成功率(98%以上)と合併症の低下(0.5%以下)から主要冠動脈枝のある狭窄に起因するほとんどすべての狭心症が適応となりますが、三枝病変例(左前下行枝、回旋枝、右冠動脈枝すべてに狭窄がある)、左主幹部例では冠動脈バイパス術に適応があります。

    <PCIの実際>

    通常の血管内冠動脈形成術(PTCA)では、前日に循環器病棟に入院し、手術後の1泊目は冠状動脈集中治療室(CCU)、翌1泊は循環器病棟の一般病室に入院します。最大限の安全性を配慮して、心臓外科医チームを待機させています。

    治療前日は、治療についての説明や、治療に必要な処置が行われます。翌日の治療のために内服薬の変更や食事と飲水の制限などがあります。また、前日の夜は翌日の治療に備えて十分な休息が必要です。不安や緊張のために眠れない様子ならば安定剤を服用して貰います。

    心臓カテーテル検査室とは、X線検査室と手術室を組み合わせたような清潔な部屋です。冠動脈造影検査と同じ要領で局所麻酔し、カテーテルは足の付け根や肘の動脈(それぞれ大腿動脈、上腕動脈)から挿入します。手首の動脈(橈骨動脈)からのカテーテル挿入が楽です。

    術後の安静度からいえば、橈骨動脈→上腕動脈→大腿動脈の順で安静度が軽くなっています。治療終了後は、CCU(循環器集中治療室)に戻ります。CCUに戻ってからは、心電図モニターによって注意深く観察されます。3時間後にカテーテルを血管の中に出し入れする鞘を抜きます。鞘を抜いた足の付け根が張ってきた場合は、皮下血腫ができていることがあります。

    尿によって造影剤は体から排泄されますので、飲水の許可が出たら気分の悪くない限り、多めに飲水をします。尿の管が(尿カテーテル)入っていない場合は、排尿はベッド上で行います。このような動作で助けが必要な場合は、看護師の介護があります。

    治療終了後は、2~3時間のベッド上安静が必要です。鞘を入れてCCUに帰ってきた場合には、鞘を抜いた後もしばらくの間(通常翌朝まで)安静が必要になります。PTCAが終了すれば早ければ2日後には退院が許可されます(一部の施設では、3泊4日コースをとっていますが、橈骨動脈、上腕動脈アプローチでは2泊3日コースをとる施設もあります)。

    退院後も内服治療は続きます。薬は決められた量を決められた時間に服用することが求められます。薬物療法(内服治療)は、自宅に戻ってからの大事な治療になります。自分の判断で勝手に中止しない事が重要です。大手術をしたわけですから薬の飲み方も守って下さい。

    ステントを入れた場合は、約1カ月間血液を固まりにくくする薬(チクロピジンあるいはクロピドグレル)を内服します。その場合、歯ぐきから出血してしまうこともあります。その場合は、すぐに主治医に申し出て下さい。また、この薬はまれに肝障害が発生しますので(退院後1カ月以内)、外来受診時に採血が必要となります。

    退院後の回復の具合を確認するためにも、定期的な診察が必要になります。そのためにも、医師の指示に従って退院後の検診は定期的に行いましょう。また、検診日でなくても胸の痛みなどの症状を感じたら早急に受診することが重要です。

  • 第7節 人工心肺非使用冠動脈バイパス手術〔バイパス手術とは〕

    <再狭窄の問題>

    術後6カ月以内にバルーン風船療法では約30%、ステントでは10%程度の再狭窄が生じます。その場合には、再PTCAが行われています。その成功率はほぼ 100%です。ステントに免疫抑制剤、もしくは抗癌剤を付着させ再狭窄に結びつく新しい組織の増殖を防ぐ薬剤溶出性ステント(DES:drug eluting stent)では、再狭窄率は5%以下になります。DES挿入時ではチクロピジンあるいはクロピドグレルの服用は中断しません。

    ◆人工心肺非使用冠動脈バイパス手術(OPCAB)

    心臓の手術のなかで最も多いのが狭心症や心筋梗塞に対する冠動脈バイパス手術です。日本では毎年2万人ぐらいの人が手術を受けています。冠動脈バイパス手術は、狭窄したり閉塞した血管に新しい血液の道を作る手術で、1960年代にはじまり、主に心臓を止めた状態で手術を行ってきました。心臓が動かないため血管吻合(つなぎ合わせること)もまったく動かない状態で行うことが可能でした。

    一方、心臓が働かない間、体は人工心肺というポンプにより維持されていました。1990年代になり、低侵襲性、とくに人工心肺による体への負担や合併症を軽減することを目的として、人工心肺非使用冠動脈バイパス手術(オフポンプバイパス:OPCAB)が注目されました。これは心臓を動いたままの状態で、心臓の表面にある冠動脈にバイパスを行う方法で、体の血流の維持は自分の心臓により行われます。当初は、動いている心臓で1~2mmの細い血管を吻合し、 しかも、吻合する血管からの出血のため無血視野が得られないなど技術的に難しい点が多くありました。

    また、心臓を持ち上げたり、血管を一時的に閉塞しているときに心臓の具合が悪くなるなどの問題もあり、人工心肺に対するリスクの高い人や、吻合が比較的容易な部位の冠動脈に対するバイパスなどに適応が限定されていました。しかし、ここ数年で、術中の管理を含め、心臓を安全に持ち上げる方法や使用する器具がめざましく発達したため、オフポンプバイパスは特殊な手術ではなくなり標準的な方法となりつつあります。まだ、技術的に難しい面も残ってい ますが、現在では心停止下の手術とほとんど同様のことが可能となりました。

    <オフポンプバイパスの利点>

    オフポンプバイパスを行う理由は、患者さんの体に対する負担が軽いことと、手術時の合併症を減らすことにあります。その利点は次の3点です。オフポンプバイパスでは以上の点を回避できます。

    ・心臓を止めない
    心臓を止めて手術を行う場合、心臓の力を低下させる原因となるとともに、心筋に浮腫をきたします。とくに心臓の力が弱っている場合には心臓を止めることが負担となります。
    ・人工心肺を使用しない
    人工心肺中はポンプによる血流が非生理的であるとともに、人工心肺充填液などにより血液が希釈されます。これらは、末梢循環不全や、全身のむくみを起こす原因となります。また、血小板や凝固因子が減少し出血傾向が起こりやすくなります。通常の人であれば、それらが大きな問題とはなりませんが、高齢者や心臓以外にも病気があり予備力のない人では、人工心肺が負担となります。
    ・上行大動脈に操作を加えない
    従来の手術では、上行大動脈に血液を送るための管を入れたり、心臓を止めるための上行大動脈遮断が必要でした。その部位の動脈壁の性状が悪い場合には、そこから全身に塞栓症の原因となる壁内のきたない動脈硬化片(コレステロール等)を撒き散らす恐れがあります。これらが細い血管に詰まれば脳梗塞や腎機能障害などの原因となり後遺症を残す結果となります。
  • 第8節 オフパイプバイパス〔人工心肺との併用〕

    <オフポンプバイパスの適応と限界>

    上行弓部大動脈の性状が悪い場合。担癌患者。他臓器障害合併例:腎機能低下、呼吸機能低下、脳血管障害。血液凝固異常。高齢者などではオフポンプバイパスが望ましく、良い適応です。一方、限界はなくなりつつありますが、吻合が技術的に難しい場合や、吻合のために心臓を持ち上げたり、吻合する血管を閉塞している時に具合が悪くなったりする場合はリスクが高くなります。

    この場合、人工心肺のリスクも考慮し、人工心肺を使用すべきか判断する必要があります。難しい例としては冠動脈が筋肉に埋もれていて表面から見えない場合、心臓の裏側の奥深い血管にバイパスする場合、心臓が拡大し心臓の力が落ちている場合、不安定狭心症、急性心筋梗塞、再手術などです。もちろん、心臓や上行弓部の大動脈に手術適応のある他の病気を持っている場合(心室瘤、弁膜症、先天性心疾患、上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤など)は、人工心肺を使用した手術が必要です。

    <オフポンプバイパスの実際>

    手術は従来と同じように胸の骨(胸骨)の中央を切開し行います。心臓を露出したならば、いかに安全に心臓を持ち上げ、吻合する血管を縫いやすい位置へ持ってくるかが重要です。これには、特殊な器具を使用します。血管吻合をする部位だけを動かないように固定するスタビライザー、あふれてくる血液を炭酸ガスにより吹き飛ばす炭酸ガスブロワー、心臓の裏の血管を吻合するために心臓をさかさまに持ち上げる吸引のカップなどがそれにあたります。

    これらの器具の改良にはここ数年目覚ましいものがあります。また、冠動脈吻合時は吻合部位の前後に糸をかけ遮断しますが、これにより抹消側には一時的に血液が流れなくなり、場合によっては具合が悪くなります。これを予防するために、細いシャントチューブの挿入などで対処します。

    <オフポンプバイパスにより何が変わったか>

    人工心肺を使用することに比べ術中の水分貯留が少なく、体温も冷やさないため末梢循環不全の程度も軽くなりました。また、術後の出血も少なく、早期の麻酔よりの覚醒、早期人工呼吸器離脱が可能です。使用する強心剤の量や利尿剤の量も少なくてすみ、病棟でも早期離床が可能です。若年者ではあまり差がありませんが、高齢者では人工心肺を使用した場合に比べ、在院日数などの短縮が得られます。手術費用も人工心肺使用の冠動脈バイパス手術に比べ安く なります。

    <標準治療となりえるか>

    OPCABは現在、急速に普及してきています。日本全体では冠動脈バイパス手術のうちの50%にこのオフポンプバイパスが行われていますが、標準術式としてほぼすべての患者さんに行っている施設も多くなりつつあります。あくまで人工心肺を使用し、心臓を止めた状態での冠動脈バイパス手術と同じ結果が得られることが原則です。技術的にもまだ難しい点も残っており、冠動脈バイパス手術での、十分な経験と技術があって成り立つ手術です。器具などの改良は日進月歩であり、多くの改良がなされています。経費も少なく在院日数も短いため経済的でもあり、全体としても標準術式として定着する日も近いと思います。

    <予後>

    最新の日本胸部外科学会のレジストリーでは日本全体でのオフポンプバイパスによる入院死亡率は 1.4%で、従来の人工心肺を使用したバイパス手術とほぼ同様でした。従来の冠動脈バイパス手術と同様の質の血管吻合を行うのであれば、遠隔期の開存率や狭心症を回避できる可能性も同じと考えられます。

  • 第9節 超音波検査(エコー検査)〔画像で鮮明に判明〕

    超音波検査は、文字通り音を用いた検査法です。人間の耳に聞こえる音は、個人差があるものの周波数がおよそ1秒間に1万2000サイクルまでです。これ以上の周波数となると人間の耳に音としては聞こえなくなるため「超」音波の名前があります。

    超音波は周波数により温熱効果をもつなど治療として用いられることがあります。つまり、生体にとって何らかの物理作用をもたらします。

    一方、診断に用いられる超音波は周波数が100万から1000万サイクルあるいはこれ以上のものが用いられます。この周波数となると生体に及ぼす作用が軽減しますが、全くないわけではありません。そこで欧米やわが国では、胎児への影響をゼロとするため、超音波の出力を極力抑えるよう法的規制がかけられています。胎児にとって安全であれば、もちろん小児や大人にとっても安全な検査法といえます。

    人間の耳に聞こえる音は壁などの境界面に当たると反射して方向が変えられます。山に向かって大声を出すとこだまとして音が返ってくることでこの反射が実感されます。超音波でも同じ現象がみられ、体内に発射された超音波は臓器や血管あるいは細胞同士の境界面で反射を起こします。この反射を身体に当てた超音波を発射する探触子(プローベ)で感知して画像化しているのが現在の超音波検査法です。

    正式には超音波反射法と呼ばれます。「こだま」は英語ではエコーですので、超音波検査がエコー検査とも呼ばれるのはこのためです。

    <対象となる臓器>

    対象臓器はそれこそ頭のてっぺんからつま先まであり、体の表面、深部を問わず、超音波検査の対象となります。ただ、臓器によって超音波の得意不得意があります。一般に骨と胃腸内や肺内のガスではほとんどの音が反射されてしまうため、その奥にある臓器たとえば胸部食道などでは情報が得られません。

    超音波検査の最大の欠点ですが、逆にこの特徴を生かして反射する対象の性質を判断する事ができます。胆石や尿管結石などでは超音波がすべて反射されてしまい、結石より奥に進まないため裏側に影ができ、結石との診断が確定します。

    体表では耳下腺、甲状腺、乳腺などが対象となります。深部臓器では、胸部では心臓、乳房が、腹部では肝臓、胆嚢、膵臓、脾臓、腎臓、膀胱、前立腺、陰嚢、子宮、卵巣、大動脈などほぼすべての臓器が対象となり、胃や腸など消化管の疾患にも応用されています。四肢では、筋肉や下肢の血管が対象となっています。

    <適応となる疾患>

    適応となる疾患は多岐にわたります。1つは、ガンや良性腫瘍など各臓器にできるしこりを見つけ出し、更にしこりが悪性か良性かをある程度区別することができます。たとえば肝硬変や慢性肝炎の患者さんでは高率に肝臓癌が発生しますが、癌が発生したかどうかを調べるには定期的な超音波検査が行われています。次に、胆嚢、腎臓、尿管、膀胱では結石の診断が極めて高率にできます。腹腔内臓器の炎症性疾患の診断にも威力を発揮します。

    肝硬変や急性肝炎、急性胆嚢炎、急性膵炎や慢性膵炎、急性胃炎、急性虫垂炎、急性腸炎などの診断に有効です。このほか、腸閉塞、腹水や胸水の診断や結石にも役立てられています。心臓では、各種弁膜疾患、心筋梗塞などが診断されますし、リアルタイムに動きがわかりますので、心臓の収縮力をみることで心臓の機能が評価でき、心疾患が疑われる人や心不全の診断には超音波検査が必須です。

    <超音波検査の実際>

    超音波検査はプラスチックでできた手のひらサイズの探触子を、体に音が入りやすいようにゼリーを塗った皮膚にあてて行われます。苦痛度としては、冬などはゼリーが温められていないと、その冷たさにびっくりするほどですし、プラスチックでできた探触子は固いので、「グリグリと押しつけられて痛かった」との声も時に耳にします。これ以外は、体に対する害はなく、何度でも繰り返して検査を受けることができます。

    腹部とくに上腹部の検査では、食事をするとガスが胃の中に入り、超音波がその背面に届きにくくなりますので、検査前の1回の食事を食べない空腹時に検査が行われます。また下腹部の検査では膀胱に尿がたまっていると見やすくなるため、尿を出さずに我慢しておく必要があります。膀胱に尿がたまっていればいるほど見やすいのでそれだけ辛く、また「尿をもらさないか?」と心配になることもあるでしょうが、できるだけ我慢していただきます。

    他検査との違いは、超音波検査では体や臓器の断面像が得られることです。そこで同じ断面像が得られるX線CTとよく対比されます。超音波のよい点は、繰り返し行っても害のないこと、装置がCTと比べ小さいためベッドサイドでも行えること、いろいろな断層面を駆使して多方向から観察できることなどがあげられます。

    また特別な造影剤を使用しなくても血液の流れが簡単にわかることも特徴の1つです。一方ガスや骨がじゃまをしてみえる範囲に制限があり、死角となる部分が存在します。また視野が小さいため、細切れの画像をつなぎ合わせて全体像を把握しなくてはならず、検査結果が検査者の技量で大きく左右されてしまう点は、超音波検査の劣る点です。

    <超音波検査の応用>

    血流診断:音にはドップラー現象が知られています。救急車など音を発生しているものが近づいてくるときには、実際の音より高く聞こえ、遠ざかるときには逆に低くなります。これを周波数偏位といい、動きが速ければ速いほど大きくなる為、偏位の程度で速度を逆算できます。

    超音波が赤血球に反射すると血液の流れによる周波数偏位が起こり、その程度で血液の流速が判定できます。この技術を応用して、血流の速度と方向を赤や青のカラーで表示する手法が開発され心臓や血管の血流診断に用いられます。

    最近では超音波造影剤が開発され、臓器や腫瘍の血流そのものをドップラー法を用いなくとも観察できるようになりました。造影剤は内部に空気を含んだ赤血球より小さな粒でできていて、超音波がガスの表面で強く反射する性質を利用しています。生理食塩水にこれを浮遊させて静脈注射により各臓器に分布させます。一定の時間が過ぎるとこれらの粒は代謝されて吸収されますので、体に対する害はありません。

  • 第10節 タイプA行動パターン〔狭心症になりやすい〕

    虚血性心疾患とは、心筋の虚血によって生じる症候群であり、狭心症と心筋梗塞および無症候性心筋虚血があります。その病態は、冠動脈の粥状硬化であり、血管の器質的狭窄、血栓形成あるいはれん縮によって、心筋への血流不全をきたすことによるものと考えられています。

    虚血性心疾患の危険因子としては、大規模な疫学的研究によって、高血圧症、高脂血症(特に高コレステロール血症)、喫煙、肥満、糖尿病、高尿酸血症などが明らかにされ、更に近年になって情動ストレスとタイプA行動パターンが注目を集めてきています。

    これらはいずれも冠動脈硬化を促進する要因であり、その多くは食行動、喫煙・飲酒習慣、運動不足などの不適切な生活習慣によるものです。最近では「生活習慣病」という呼称が定着しつつありますが、虚血性心疾患はまさしく生活習慣の歪みによる病気の代表的なものです。

    タイプA行動パターンとは、性格的には競争的、野心的、精力的であり、行動は機敏、性急で常に時間に追われて、多くの仕事に巻き込まれており、身体面では高血圧症や高脂血症が多いという特徴をもつものをいいます。

    欧米ではこれらタイプAの人々には、これと正反対のタイプBの人に比べ、より高率に虚血性心疾患が発症し、その相対的危険率は約2倍であったことが報告され注目を集めました。日本でも、狭心症や心筋梗塞患者にはやはりタイプA行動パターンが多いことが指摘され、日本人用のタイプA判定法の開発が試みられています。その結果、「敵意」「攻撃性」はあまり表出されず、性急さや仕事中毒といわれるような過剰適応が日本人的なタイプAと考えられます。や仕事中毒といわれるような過剰適応が日本人的なタイプAと考えられています。

    <症状>

    狭心症は、一過性の虚血による胸痛(多くは数分~15分以内)をきたすもの、心筋梗塞は冠動脈の閉塞による心筋壊死を起こすもの、無症候性心筋虚血は無症状であるが心電図上、虚血性変化を伴うものです。

    狭心症には、運動や労作時に心筋への酸素供給不全によって生じる労作性狭心症と、安静時に冠動脈のれん縮によって起こる安静狭心症に分類されています。また、労作よりもストレスや強い情動変化によって誘発されるものを情動性狭心症と呼ぶこともあります。狭心症の症状は、胸部の絞扼感(しめつけられるような痛み)が特徴的で暫くすると治まります。

    心筋梗塞の胸痛は激しいもので、すぐに救急病院に行って治療を受けないと、心不全や致死的な不整脈を起こし、生死にかかわります。

    診断は、特徴的な胸痛の症状と心電図検査により殆どの場合、確定することが可能です。心筋梗塞の場合は、特徴的な心電図変化と心筋壊死による逸脱酵素の血中濃度を測定することによって確定します。また、冠動脈造影法によって冠動脈の狭窄や閉塞部位を確認することも可能です。

    狭心症や心筋梗塞の治療は、内科的治療が優先しますが、場合によって外科的治療が必要です。同時に、冠動脈硬化を促進するような危険因子を減らしていくような生活様式の修正が重要な意味を持っています。

    タイプA行動パターンの人は、常に何かと競争していて、多くの仕事を抱え込み、時間に追われて行動しています。そして、自らストレスの多い生活を選び、ストレスを多く受けているにも拘らず、そのことをあまり自覚せずに過ごす傾向があります。また、ストレスに対する反応の仕方も、交感神経系優位の反応が現れ易く、血圧が上がる、脈拍が増える、など循環器系に負荷がかかり易いと考えられています。

    欧米では、こうした心筋梗塞のタイプA患者に行動修正する大規模な治療研究を行い、タイプAの行動変容と心筋梗塞の再発予防に効果があったことを報告しています。日本でもタイプAの行動修正カウンセリングを行った成績が報告されていますが、その内容は:

    • タイプAであることを気づかせる
    • 行動修正への動機づけ
    • 性急さの軽減
    • 仕事の過重負荷を減らす
    • 自律訓練法などのリラックス法

    から構成されています。こうした行動修正がどのくらい心筋梗塞の予防に効果があるかは、今後の研究成果を待たねばなりません。行動科学的な新たな取り組みで注目を集めています。

    <生活上の注意/予防>

     最近の日本人の生活はすっかり欧米型になってしまいましたが、それとともに心臓病(特に 心筋梗塞)が増加するという副作用を招きました。心臓病の予防には、危険因子を減らすよう なライフスタイルが最も効果的です。また、日頃からストレスを溜め込まないように、ストレ ス解消に心掛けましょう。

     虚血性心疾患の危険因子は、高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満、ストレスなどです。 栄養や塩分の摂り過ぎに注意して、適度な運動を心掛けることが大切です。どんな最新治療も 差し迫った危機を回避するための1つの手段に過ぎません。最良の治療は動脈硬化の予防で、 危険因子の除去と毎日の運動です。

    • 早朝の食事前の散歩や運動
    • 暖かい場所から寒い場所への移動(入浴時の脱衣所での温度変化など)
    • 喫煙習慣(悪玉コレステロールを増加、血圧を高揚、動脈血管を収縮)
    • 肥満、高脂血症(悪玉コレステロール)、高血圧症(90-140)、糖尿病境界値
    • 重度のストレス

    ◆周囲の心無さ!気配りが仇に!

    心臓カテーテル検査、RI検査などで循環器科で検査結果の総合判定で正常な心臓であっても、人の精神的なストレス、内面の反応とは怖いものである。周囲100人が『心臓大丈夫ですか?』と言い続けたら、完全に心臓は異常になるそうです。従って、本人が一番気にしている事を、敢て友人顔して『(心臓は)大丈夫ですか?』と親切ぼかしに言うのは、それこそ嫌がらせになってしまう。

  • 第11節 放射線検査〔進歩した核医学の応用〕

    <放射線検査>

    放射線検査とは、放射線を用いて人体内部の形態や機能を映像化し、診断を行う検査のことです。大きく、X線を用いる検査と、放射性同位元素(ラジオアイソトープ:RI)を用いる検査に分けることができます。

    この2つの検査は、放射性同位元素の管理上の問題から、病院内の別々の場所で行われています。X線検査には、通常、検診などで行われている胸部撮影などの単純X線撮影、胃の透視に代表されるバリウムなどの造影剤を用いた造影X線検査、この中には血管の走行や性状を診るための血管撮影も含まれます。また、コンピュータ処理を行うことで体の輪切りの写真(断層画像)を撮影するX線CT検査があります。

    放射性同位元素を用いた検査は、別名「核医学検査」とも呼ばれています。体内に投与されたRIから直接ないし間接的に発せられるγ(ガンマ)線を検出し、画像化するものです。脳血流検査、心筋負荷検査、骨シンチグラフィーなど特定の臓器の機能をみる検査の他に、現在では、癌の検査法として注目を集めているPET(ペット)検査などがあります。

    このように放射線検査には沢山の種類があります。これらのどの検査を行うかは、病気の種類や病状によっても異なります。中には、体に負担のかかる検査もありますし、体質的な原因によって造影剤が利用できない場合もあります。専門の先生とよく相談し、適切な検査スケジュールを組んでいくことが大切です。

    ◆ラジオアイソトープ(RI)検査

    心臓カテーテル検査に次いで、今回はRI検査の説明です。RI(放射性同位元素)による検査とは、微量の放射線を出す同位元素を静脈注射(消化器系なら飲むことも)して動的な変化を鮮明に画像として捉え、診察するものです。微量の放射線なので殆ど人体への影響は無い。但し、個人差で吐き気を催したり、気持ちが悪くなる場合もあります。

    心電図、MRI、超音波、X線撮影など様々な医療診察機器は進んでいるが、RI検査ではより鮮明に断層撮影などが出きる点で広く採用されはじめている。外来で簡単にできる検査の方法です。

    • 心筋シンチグラフィック検査
    • 脳血流シンチグラフィック検査
    • 消化器シンチグラフィック検査などに使用されている。

    アイソトープ静脈注射、心電図測定、血圧測定、RI機器撮影がセットで約9万円弱です。健保本人負担は2割であるから18千円ほど。

  • 第12節 心臓カテーテル検査〔一般的な常識として〕

    ◆心臓カテーテル検査は何の為に行うか?

    心臓カテーテルでは心臓に病気が有るか無いかが解かりますし、病気の進行の予測まで可能です。最適な治療を決める上で、とても有用な手段です。ただし、2泊3日の検査入院ですから、比較的大掛かりな検査で、検査の意義を良く理解して家族と検討して下さい。

    ◆カテーテル検査の安全性は?

    重篤な(つまり生死に関わる)合併症はゼロではありません。1万人当たりで 0.1%発生しています。それでも検査は大変に有益な方法なので、勧められます。納得出来なければ、心臓カテーテル施行寸前でも中止を宣言できるので、良く検討して家族と共に承諾書を提出して下さい。麻酔は針を刺す手首または太腿の場所だけの局部麻酔です。0.1%の例としては:

    • 強度の動脈硬化症で血管が脆い
    • 動脈硬化症で血管がループしている
    • コレステロールが酷くて飛び散る
    • その他

    医師、補助医師、看護師、心電図技師、放射線技師などのスタッフでチーム編成して対応するため、万一の事態にも備えられます。

    ◆お年寄りも受けられるでしょうか?

    心臓カテーテル検査に体力は要りません。重要なことは、検査を受ける利益を理解することが大事です。造影剤を投与するので腎臓が悪い方は受診できないこともあります。医師と相談して下さい。

    ◆検査に必要な日数は?

    原則として2泊3日です。主に下記の手順です。原則、投薬は通常通りに服用いたします。禁止なのは、ワーファリン系やテノーミン系です。

    1日目入院:
    血圧測定、採血4本、止血時間測定、心電図までは外来で実施してからそのあと入院手続き。入院時に身長、体重、体温、脈拍、負荷心電図、心臓超音波エコー、X線胸部写真、夕食後に点滴針で明日の準備です。
    2日目検査:
    朝から禁食、精神安定剤(ホリゾン)1錠、点滴1袋、手首に麻酔テープ貼り。点滴のままカテーテル検査室へ。右脚の付け根か 右肘か 右手首か どこかの動脈から検査する。最近は右手首の事例が多い。(理由は後述を参照)止血したままベッドへ戻り、点滴が完了すれば針を抜く。小水は術後は明朝6時まで総量を測定する。止血ベルトは約4H後に外す。
    3日目退院:
    X線胸部写真の判断次第でCTスキャン撮影あり。朝から禁食し、点滴1袋。点滴のままCTスキャン撮影で造影剤投与。点滴完了で退院可能。医師からの説明あり。次回の相談日決定。 

    ◆入院前の準備は?

    入院中は付き添い不要ですが、検査中は原則として付き添い待機が必須です。また、検査承諾書の必須、検査時の付き添い、検査後の説明、退院時の説明など身近に付き添いも必要な検査です。薬アレルギー、過去手術歴、造影剤経験、など詳細は医師に相談する。なお、内服薬ワーファリンを飲んでる人は原則として検査3日前から服用を中止しておく。は原則として検査3日前から服用を中止しておく。

    ◆その他の注意事項については?

    東京では駒沢の国立東京医療センター(旧・国立東京第二病院)か赤羽橋の共済会病院が有名です。特に、エイズ拠点病院でもあり患者さん全員のエイズ採血検査を施行します。緊急医療救命処置センターであるため救急車で搬送されてくる患者さんが優先され、検査の予定時間が遅れる場合もあります。通常、心臓カテーテル検査そのものは40分程度です。

    ◆右脚動脈を刺した検査直後の注意は?

    検査後3時間以上はベッドで絶対安静なため、小水は寝たままで取る。またトイレで力むと不正脈の発生やカテーテル刺し口から動脈出血の恐れがあります。その時は慌てずギュッと抑えて緊急ボタンを押す。2日間は正座禁止です。

    ◆右手動脈を射した検査直後の注意は?

    患者さんの負担は脚(太腿部)に較べると楽です。車椅子で帰室直後の1時間は安静ですが座っていてもいい。その後は歩いてトイレにも行けます。検査後4時間程で圧迫止血用のプラスチック帯を医師が外します。2日間は重いものを持たず、手を着いたりしないこと。

    ◆両方に共通することは?

    帰室後はベッドで安静にし、造影剤のお蔭で小水が大量に出るはずなので2時間経過しても出ない場合には強制的に小水を取り出します。遠慮することなくナースコールすること。決して力んだだり、力を入れないこと。我慢すすると血圧が低下する場合もあります。

    ◆検査退院後の注意は?

    針を刺した部位は2~3日間は引き攣れます。徐々に元の状態に戻ります。また皮膚が青くなってきますが3週間程度でとれます。入浴は検査後4日目に伴創膏を剥がして、カサブタできていたらお風呂に入れます。部位が痛む時は遠慮なく緊急外来を受診して下さい。

    退院後に注意する事は、動脈を刺した跡を誰にも触らせない様にして下さい。友人顔しても平気で手首など検査傷痕を握る馬鹿もいます。ひとの痛みが分からない人種なのでしょう。

    ◆カテーテル検査にかかる費用は?

    カテーテルだけの場合には平成14年3月時点で70歳以上(東京都なら65歳以上)と健康保険本人1割負担で約3万円、健康保険3割負担で約8万円です。なお、PTCA(カテーテルによる冠動脈形成手術)の場合には高くなり、健康保険本人1割負担で約10~20万円、健康保険3割負担で約30~60万円となります。高額医療費は確定申告などで還付返金して貰えます。

  • 第13節 狭心症について〔心臓の最初の注意病〕

    心臓は握りこぶしだいの大きさで心筋と呼ばれる筋肉からできており、この心筋が収縮と拡張を繰り返して全身に血液を送るポンプの役割を果たしています。この心筋が活動するために栄養を与えている血管を冠動脈といい、心筋専用の血管であり、大動脈から左と右に2本枝分かれして、心臓の表面を取り巻いています。

    狭心症とは、冠動脈の血管内腔が、動脈硬化や痙攣などにより狭くなり、心筋への血液補給が不足した状態の時におこり、冠動脈が詰まり血液補給が途絶えた状態では心筋梗塞を発生します。そして、これら冠動脈の病気を虚血性心疾患と呼びます。

    虚血性心疾患の原因の多くは冠動脈の動脈硬化であり、動脈硬化は加齢とともに進んでいきます。この他にも、高血圧・高脂血症・糖尿病・喫煙・ストレス・肥満・遺伝などが動脈硬化を進める原因(危険因子)となっています。

    狭心症の種類には、発作の現れかたにより「労作性狭心症」と「安静時狭心症」があり、症状により「安定狭心症」と「不安定狭心症」に分けることもあります。

    ●労作性狭心症
    冠動脈の内腔が動脈硬化などにより狭くなっている場合、階段を上がる、早く歩くなど運動や興奮などで心拍数が増加しても、心筋に十分な血液を送ることができずに発作が現れます。
    ●安静時狭心症
    安静時には血液の流れも円滑で十分にもかかわらず、冠動脈自体が痙攣して収縮し、心筋への血液が不足して発作が現れ場合があります(異型狭心症)。特に、深夜から明け方の睡眠中の一定時刻に発作を起こすことが多いようです。
    ●安定狭心症
    日常生活の中である一定以上の労作(運動)により発作が起こるというように、発作が現れる労作の量が一定している狭心症です
    ●不安定狭心症
    数ヶ月発作が無かったのに毎週発作が起きるとか、安定狭心症だったのが入浴などの軽い労作で発作が現れるなど、症状の現れ方が不規則な狭心症で、安定型に比べ、急性心筋梗塞や突然死につながる可能性が高く注意を要する狭心症です。

    【どんな症状】

    狭心症発作の典型的な症状は前胸部を中心とした、締め付けられるような圧迫感と不快感であり、人により感じ方が異なり、首や背中、左肩から腕にかけて圧迫感や痛みをともなう場合もあります。

    また、これと同時に、冷や汗、左腕のしびれ、咽喉がつまる、奥歯が疼く、などの場合もあり個人差があります。そして、これらの症状は安静にしていれば殆どが15分以内に消えます。激しい痛みが30分以上続く場合は、より重い心筋梗塞を疑う必要があります。

    【どんな診断・検査】

    ●問診
    受診する時は症状が消失している場合が殆どであり、医師は患者自身の訴えから、狭心症かそうでないか判定します。従って、痛みの性質、その部位、痛みが起きた状況、痛みの続いた時間など、正確に伝えることが重要となります。
    ●発作時心電図
    発作時には心電図上に特有な心筋虚血の変化(ST変化)を認め、これにより診断可能です。
    ●運動負荷試験
    労作性狭心症の疑いがあるときは、エルゴメーターと呼ばれる自転車をこいだり、トレッドミルと呼ばれるベルトコンベアーの上を歩いたりして心拍数を増やし、その前後の心電図の変化から、狭心症の診断や重症度、心臓の能力を判定します。
    ●ホルター型心電図
    安静時狭心症の疑いがあるときは、24時間心電図が記録できる「ホルター型心電計」を付けて普通の生活を送り心電図の連続監視を行う場合があります。
    ●心筋核医学検査
    放射性医薬品を静脈に注射して、シンチレーションカメラという装置に十数分間動かずにいるだけの検査で、心筋の虚血している部分がわかるほか、虚血部に到達しているおおよその血液量を知ることもできます。最近の医学の進歩から、これで心筋壊死の場合のダメージの領域やリスクの大きさが判明します。
    ●冠動脈造影検査
    冠動脈の狭窄の位置や程度を詳しく調べるための検査です。鼠径部や腕の動脈から、カテーテルと呼ばれる細いワイヤー管を冠動脈まで挿入し、造影剤という薬を流しながらX線撮影することにより、冠動脈の状態を詳しく知ることができ、この検査は、狭心症の状態を知る上でも、また、その後の治療方針を決める上でもなくてはならない検査です。

    【どんな治療法】

    治療方法は、大きく分けて、薬による内科的治療法と外科的治療法があります。治療法の選択に当たっては、冠動脈の状態がどうなっているか、年齢や他に病気が無いか等、いろいろな身体状況を考慮して決めることになります。

    ●薬物療法
    症状が安定しており、薬でコントロールできると判断された時には、危険因子を減らし、薬剤を用いる薬物療法が選択されます。使用する薬剤には、血管を拡張させ血液の流れを円滑にするニトログリセリンなどの硝酸薬、心拍数の上昇を抑え心筋が必要とする酸素量を少なくするβ遮断薬、血管の収縮を防ぎ冠動脈のれん縮を解消するカルシウム拮抗薬、血栓を防ぎ血液を固まり難くする抗血小板薬、などがあります。発作時にはニトログリセリンの舌下錠が著効 し普通2~3分で痛みは消失します。
    ●外科的治療法
    薬物療法で改善が得られない場合に選択され、冠動脈形成術(PTCA)と冠動脈バイパス手術(CABG)があります。既に、前述していますから説明を省きます。冠動脈形成術もバイパス手術も、それぞれ特徴を備えていますが、狭窄の程度・数・位置、患者さんの身体状況などを考慮して、最も適した治療法が選択されます。