第10章 『大腸』手術後の食事 

インデックス 第1節 食事の基本  | 第2節 バランスの良い食事とは  | 第3節 便通が変化したときの食事療法と生活習慣  | 第4節 食品について  | 第5節 大腸癌治療中に気をつけたい6つのポイント  | 第6節 調理方法にもひと工夫  | 第7節 大腸癌の予防  | 第8節 便通が変化したときの食事療法と生活習慣  | 第9節 免疫療法について  | まとめ
  • 第1節 食事の基本

    大腸や直腸の手術により、下記の症状が生じます。

    • 大腸からの水分の吸収が減少することにより、軟便や下痢になりやすくなります。
    • 大腸の蠕動運動(消化物を排泄するように送り出す運動)が障害されることで、便秘になることもあります。
    • 直腸の手術の場合は、便の貯留機能が減少あるいは失われるため、頻便傾向となります。
    • 小腸や大腸の癒着により、内容物の通過不良が生じ、腹部の膨満を感じたり、あるいは酷くなると腸閉塞となる場合があります。
    • 人工肛門の場合は、便の匂い、色、硬さなどに過敏になりやすいなどの症状が生じる可能性があります。

    これらの症状は、食事療法で完全に防ぐことができるわけではありませんが、生じにくくすることは可能です。原則的には、食事の種類に制限はありません。つまり、何を食べてもかまいませんが、食物繊維が多く含まれているものや消化しにくいものは、腸閉塞の原因となることがありますので、術後3ヵ月は控えたほうがよいでしょう。

    最も基本的なことは、おいしく、ゆっくり、楽しく、食べることです。次のことに留意して、バランスの良い食事を心がけましょう。

    ①一度にたくさん食べ過ぎないようにしましょう。
    食べ過ぎると、下痢や腸閉塞を起こす可能性があります。退院後1~2ヵ月は、段階的に量を増やし、1回の食事を腹7分目から8分目程度までにするとよいでしょう。
    ②ゆっくり良く噛んで食べましょう。
    早く食べることは下痢の原因となったり、頻便を助長する可能性があります。良く噛むことで消化吸収を助けます。
    ③規則正しく食事を摂りましょう。
    不規則な食事は、便通を不安定にし、下痢、便秘、頻便を起こしやすくします。
    ④食事はバランス良く、消化しやすいものを中心にとりましょう。
    消化の悪い食品を食べすぎると、下痢や腸閉塞の原因となることがあります。消化しにくい食品でも、少量であればかまいません。良く噛みくだいたり、細かくきざんだり、軟らかく煮込むなど食べ方や調理を工夫すれば、さらに多くの摂取が可能となります。
    ⑤アルコールはほどほどにしましょう。
    大腸の手術後、アルコールを飲んではいけない理由はありません。しかし、アルコールを飲んでいると、食べ過ぎる傾向にあります。また、食生活を乱しやすいので気をつけましょう。
  • 第2節 バランスの良い食事とは

    朝、昼、夕食ともに主食と主菜と副菜そして野菜料理を揃えて食べましょう。 

    ・主食とは?米飯、パン、麺類、芋類、トウモロコシなど
    糖質は脂質とともにエネルギー源です。
    ・主菜とは?魚、肉、卵、豆類、乳製品
    体をつくる良質のタンパク源です。
    ・副菜とは?野菜、海藻、果物
    体のリズムを整えるビタミン、ミネラルの宝庫です。
  • 第3節 便通が変化したときの食事療法と生活習慣

    ①便秘

    • 野菜や果物、豆類等食物繊維を多くとるようにしましょう。ただし、術後3ヵ月以内は腸閉塞の原因となることがありますので控えましょう。
    • 水分を多くとりましょう。特に、起床時の1杯の水や牛乳が有効です。
    • 食事時間は規則正しくしましょう。特に朝食が大事です。
    • 生活のリズムを整え、規則正しい排便の習慣をつけましょう。朝、必ずトイレに入るよう心がけましょう。
    • 適度な運動をしましょう。
    • 食事
    • 生活習慣に注意しても便秘が続く場合、下剤が必要となりますので、担当医に相談しましょう。

    ②下痢

    • 消化の良い食品をとりましょう。
    • 水分を制限せずに、むしろ補いましょう(ミネラルも一緒に補える、スポーツドリンクなどもよいでしょう)。
    • 少量ずつの食事を、回数を増やすことで、消化管の負担を軽くしましょう。

    ③頻便

    • 食事時間を規則正しくしましょう。特に朝が大事です。
    • 生活のリズムを整えましょう。過労は禁物です。

    ④腹部膨満感

    • 1回の食事量を控えるように心がけましょう。
    • それでも治らなければ、一度、食事をやめましょう。
    • 食事をやめても腹部膨満が続き、排ガスのない場合は腸閉塞が疑われます。担当医にすぐに相談しましょう。
  • 第4節 食品について

    ①消化の良い食品、悪い食品、食物繊維の多い食品、ガスを発生しやすい、便の匂い

    ・消化の良い食品
    粥、軟飯、うどん、豆腐、半熟卵、野菜のやわらか煮など
    ・消化の悪い食品
    わかめ、こんぶ、きのこ、こんにゃくなど
    ・食物繊維の多い食品
    いも類、豆類、野菜類、とうもろこし、玄米パン、胚芽入りパンなど
    ・ガスの発生しやすい食品
    ビール、炭酸飲料、いも類、豆類、玉ねぎ、きのこなど
    ・便のにおいを強くする食品
    玉ねぎ、長ねぎ、にんにく、豆類、アルコール、肉類、チーズなど

    ②お勧めの食べ物、控えたほうがよい食べ物

    1.お勧めの食べ物
    <タンパク質>
    皮なし鶏肉、ささみ、脂肪の少ない牛・豚肉、レバーなど
    あじ、かれい、すずき、さけ、たら、ひらめ、かき、はんぺんなど
    鶏卵、うずら卵など
    豆腐、やわらかい煮豆、ひきわり納豆、きなこなど
    牛乳、ヨーグルト、乳酸飲料、チーズなど
    <糖質>
    穀類粥、軟飯、うどん、パン、マカロニなど
    じゃがいも、さといも、長いも、大和いもなど
    果物缶詰、りんご、熟したバナナ、桃、洋梨など
    菓子ビスケット、カステラ、ゼリーなど
    <脂質>
    油脂植物油、バター、マーガリン、生クリームなど
    <ビタミンやミネラル>
    野菜やわらかく煮た野菜(かぶ、かぼちゃ、カリフラワー、キャベツ、大根、トマト、なす、白菜、ブロッコリーなど)、梅干しなど
    <その他>
    飲み物番茶、麦茶、ジュース、薄いお茶、薄い紅茶、薄いコーヒーなど
    <調理法>
    煮る、蒸す、焼く、細かくきざむ
    2.控えたほうがよい食べ物
    <タンパク質>
    油の多い料理(カツ、ビーフステーキなど)
    脂肪の多い肉(バラ肉、ハム、ベーコンなど)
    魚介貝類、いか、たこ、すじこ、かまぼこ、干物、佃煮、塩辛など
    大豆、枝豆など
    (大豆は加熱により消化率は向上しますが、炒り大豆は60%、煮豆でも70%です。
    一方、豆腐は95%、納豆は80%強と消化率が高くなります。)
    <糖質>
    穀類玄米、赤飯、玄米パン、胚芽入りパンなど
    油を多く使用した料理(ラーメン、チャーハン、焼きそばなど)
    繊維の多いさつまいも、こんにゃく、しらたきなど
    果物繊維が多く酸味の強い果物(パイナップル、柑橘類など)、干し果物など
    菓子揚げ菓子、辛いせんべい、豆菓子など
    <脂質>
    油脂ラード、ヘッド
    油を多く使う料理(天ぷら、フライなど)
    <ビタミンやミネラル>
    野菜繊維の多い野菜(ごぼう、たけのこ、ねぎ、れんこん、ふき、ぜんまい、わらび、きのこなど)
    香りの強い野菜(うど、にら、にんにく、みょうがなど)
    かたい漬け物(たくあん、つぼ漬けなど)
    海藻こんぶ、のり、ひじき、わかめなど
    <その他>
    調味料辛子、カレー粉、わさびなどの香辛料
    飲み物炭酸飲料、アルコール、濃いお茶、濃いコーヒーなど

    ③間食として、とりやすい食品

    乳製品ヨーグルト、牛乳、乳酸飲料、カスタードプリン、アイスクリーム、チーズなど
    果物缶詰、バナナ、りんご、ジュースなど
    パンバターロール、クリームパン、やわらかいパン、ホットケーキなど
    菓子ビスケット、ウエハース、卵ボーロ、カステラなど

    退院後すぐには、多くは食べられません。いろいろ試してみて、ご自分に合った食べやすい食物や食べ方をみつけていきましょう。はじめは、1000~1200kcalはとりたいものです。

  • 第5節 大腸癌治療中に気をつけたい6つのポイント

    大腸癌治療中の食事の気をつけたい6つのポイントがありますのでご紹介いたします。

    ①腹6分目で分量を控えましょう
    手術後の食事は「腹6分目」で大丈夫です。少なくても心配する必要はありません。3ヶ月ほど経って次第にもとの食事の量に戻していきましょう。
    ②ゆっくりとよく噛んで食べる
    よく噛むことで消化を助けることになります。大腸粘膜への刺激を減らすことができるだけではなく、腸閉塞や下痢、お腹の張りなど、排便トラブルの予防にもなります。
    ③食物繊維と冷たい飲み物は控えめに
    手術後1~2ヶ月は、硬くて食物繊維が豊富な食品や冷たい飲み物は控えてください。未だ、からだの受け入れ態勢が整っていませんので、体調を見ながら少しずつ慣らしていきましょう。焦る必要はありません。ゆっくりゆっくり慣れていきましょう。
  • 第6節 調理方法にもひと工夫

    しばらくのあいだは、手術後に好ましい食品を選んで、ポタージュスープやペーストなど、消化しやすい調理方法の料理を食べるようにします。

    ①腸内の有用菌を増やす
    ヨーグルトなどの乳酸菌飲料を献立メニューにとり入れてください。腸の働きを助けてもらいます。ただし、食べ過ぎには要注意です。ほどほどにバランス良く摂取します。からだの調子を見て調整していきましょう。
    ②リラックスして食事を楽しむ
    食事の時間はなるべく楽しめるように工夫すると良いです。例えば、器やランチョンマットなどを好みのものにしてみたりして楽しみましょう。食事の時間に好きな音楽をかける   のも良いですね。
  • 第7節 大腸癌の予防

    大腸癌を予防する方法は、さまざまな研究がされていますが、完全に予防する方法はありません。しかし、大腸癌になりにくくする方法はあります。大腸癌が発生する危険性を下げることとして考えられているものをご紹介いたします。

    最も信頼性が高いことは、適度な運動と肥満の予防です。 身体を動かすことの好きな方は、まったく運動をしない方の半分程度しか大腸癌にならないという研究結果もあります。適度に日にあたって、ビタミンDが多く体内で合成されることも有利に働くと考えられます。

    食事に関しては、緑黄色野菜や魚を中心に食物繊維、カルシウム、そしてビタミンDの多い食事をして適度に日に当たることが、大腸癌予防に有効とされています。野菜を十分食べている方は、まったく食べない方の半分しか大腸癌になりません。できるだけサプリメントに頼らず食事のなかから食物繊維をとることが重要です。

    ①大腸癌の予防に良い食べ物
    食事は、野菜と魚をきちんと食べることが重要です。食物繊維の多い食品、にんにく、牛乳、ヨーグルト、カルシウムの多い食事が、大腸癌のリスクを下げることがほぼ確実とされています。野菜を小鉢で5皿、果物1皿、牛乳コップ1杯またはヨーグルトを1個くらいは毎日とれれば非常に良いですね。
    ②運動は大腸癌の予防に一番
    運動は大腸癌の予防になります。目安としては、毎日1時間程度歩き、週に1度は汗が少し出るくらいの運動をすることが良いです。さまざまな研究がありますが、座って仕事をしている方よりも、からだを使う仕事をしている方のほうが、大腸癌の発生が少ないという事実があります。
    また、適度な運動は、免疫力をあげることがわかっていて、免疫力が高まると癌の発生も予防できます。
    ③癌の芽は早く摘むことが大切
    癌は、細胞の中にある遺伝子の異常が蓄積して発生して、さらに遺伝子の異常が積み重なることで進展して、次第に進行していくとされています。大腸癌になった後にも遺伝子の異常が積み重なって、癌は転移を起こしてしまいます。転移が悪化すれば生命を脅かすことになります。
    したがって、大腸癌の前の段階である腺腫性ポリープで治療することによって大腸癌を予防することが大切です。最近、アメリカの研究グループが、腺腫性ポリープの切除を受けた2602人を対象にして23年間経過観察したところ、通常の大腸癌の死亡率の半分以下になったとの報告をしています。
    たとえ、癌になっていても早期にみつけることができれば根治する癌でもあります。粘膜内に癌がとどまっている場合は、転移は全くと言ってもいいほど起こっていないので、その部分だけを切除すれば完治することができます。癌の芽は早く摘むことが大切というわけです。
  • 第8節 便通が変化したときの食事療法と生活習慣

    便通が以下の4つのように変化しないか注意しましょう。

    • 便秘:水分を多くとり、適度な運動をしましょう
    • 下痢:消化の良い食品を摂り、水分を補いましょう
    • 瀕便:食事時間を規則正しくとるようにしましょう
    • 腹部膨満感:1回の食事量を控えるようにしましょう
  • 第9節 免疫療法について

    最近、「第4の癌治療」として注目されているのが免疫療法です。免疫とは、からだのなかに侵入した異物を排除するために、誰もが生まれながらに備えている能力です。この能力を高め、癌の治療を目的とした免疫療法を特に「癌免疫療法」といいます。

    癌に対する免疫力を高める免疫療法は、具体的には以下のような種類の療法があります。

    • 免疫細胞療法
    • ワクチン療法
    • サイトカイン療法
    • BRM療法
    • 抗体療法

    3大癌治療方法(手術と化学療法と放射線治療)が外部からの力を借りて癌を治療するのに対して、免疫療法は主として本来からだが持っている免疫力を活かして癌と闘います。免疫療法は他の治療ほど即効性はない場合もありますが、効果が長期間持続することが特徴としてあげられます。これが免疫療法の最大の良い点です。免疫療法は、自分自身の持つ免疫力を使った治療なので、体力があって免疫の働きも衰えていない病気の初期段階で活用すると、より高い効果をあげることも知られています。

  • まとめ

    大腸癌の手術後の食事方法について解説いたしました。好ましい食品と控えたほうがよい食品があります。

    <好ましい食品は>
    ・皮なし鶏肉
    ・粥
    ・やわらかく煮た野菜
    <控えたほうが良い食品は>
    ・油の多い料理
    ・揚げ菓子
    ・繊維の多い野菜

    手術後は、食事の摂り方について気をつけましょう。しかし、あまりにも神経質になりすぎて はいけません。音楽をかけてみたり、器を色とりどりにしてみたり、工夫して食事を楽しみまし ょう。

    また「第4の癌治療」として注目されているのが免疫療法についてもご紹介しました。免疫とは、からだのなかに侵入した異物を排除するために、誰もが生まれながらに備えている能力で、この能力を高めて癌の治療を目的とした免疫療法を特に「癌免疫療法」と言いましたね。

    免疫療法は、自分自身の持つ免疫力を使った治療なので、体力があって免疫の働きも衰えていない病気の初期段階で活用すると、より高い効果をあげることも知られており、今後の研究にも期待ができます。

    大腸癌手術の後の食事では、きっと家族のサポートが必要になります。家族みんなで支え合って患者さんをサポートして乗り越えましょう。