第4章 癌の痛み 

インデックス 第1節 癌と診断されたら  | 第2節 癌のつらさとは  | 第3節 家族が癌と診断されたら  | 第4節 癌の生存率  | 第5節 癌の痛み
  • 第1節 癌と診断されたら

    癌と診断されてショックを受けない人はあまりいないでしょう。「癌は治る時代」と言われるようになってきましたが、未だに「不治の病」というイメージを持っている方が多いもの。昨今では、癌の治療は選択肢が増え、どのような治療法を選ぶかは、患者さん自身が選択することもあります。納得のいく治療をするためには、患者さん自身が自分の病状をよく理解し、 医療者に自分の意思を伝えることが大切です。

    癌の治療には、様々な治療方法があります。どんな治療法に対してもメリットとデメリットがあります。自分が普段送っている生活を考慮したうえで、優先順位を決め、最も適切だと思う治療法を選びましょう。どんな治療が自分に適しているか分からない場合は、医師にきちんと伝えて、相談することが大切です。

  • 第2節 癌のつらさとは

    癌に伴って生じるさまざまな「つらさ」はお互いに影響しあって、その人の総体的なつらさとなって現れます。癌は、患者さん本人にとっても、ご家族にとっても、それまでの生活を一変してしまう大きなできごとです。病気による痛みや不快さなど、身体的なつらさだけでなく精神的なつらさなど、さまざまな「つらさ」があります。

    ◆身体的なつらさ

    癌による痛みや、痛み以外の不快な症状、癌治療による副作用など、さまざまなつらさが、患者さんの日常生活の支障となります。また、痛みや吐き気などといった症状に対する適切な治療を受けず、苦痛が長く続いていると、「病気が悪化しているのではないか」といった不安につながり、「精神的なつらさ」が増すこともあります。

    ◆精神的なつらさ

    重大な病気を前にすれば、誰しも感情はゆさぶられます。

    • 癌の診断を受け「自分はこれからどうなるだろう」「治療の副作用が大きいのではないか」「手術によって外見が変わってしまうかもしれない」という不安
    • 治療後には「いつか再発するのではないか」という不安
    • 「なぜ自分がこんな病気に」という怒りや、不快な症状が続き、治療がなかなか進まないことへのいらだちや不安
    • 家族や医療者に病気のことをたずねても、あいまいな答えしか返ってこない、周囲の人たちにもっと普通に接してほしい、誰も自分の気持ちをわかってくれない、といった孤独感

    癌と診断された直後から、さまざまな感情が患者さんを苦しめます。ときには、つらさのあまり、うつ状態となり、治療に前向きな気持ちになれないこともあります。また、精神的なつらさは患者さんだけでなく、ご家族にも起こります。大切な人が病気になってしまったことへの不安や心の痛み、「本人とどう接していいかわからない」など、さまざまな精神的苦悩があります。

    ◆経済的なつらさ

    癌と限らず病気になって初めて、巨額な医療費(手術費、入院費、介護費、など)に関して生活上の負担が気掛かりになってきます。

    • 癌保険
    • 入院給付金
    • 手術給付金
    • 癌一時金

    これらの保険(癌保険や入院給付金)に加入しておかなかった事への後悔ばかりです。契約加入していたら、給付金支給の請求手続きを面倒臭がらずにやるべきです。

    また、健康保険加入(社会保険や国民健康保険など)機関へ高額医療費を申告すれば、給付が支給されるので調べましょう。一般的に、差額ベッドで無くても1日当たり12000円程です。

    ◆社会的なつらさ

    癌の診断や治療によってもたらされた生活の変化や、日常生活への影響から感じるつらさもあります。

    • それまで果たしていた職場や家庭、地域での役割を中断や中止
    • 職場の中で望まない異動や、ときには職を失うなどの社会的差別
    • 治療費や休職による経済的な負担
    • 「家族に迷惑をかけてしまう」という罪悪感
    • 周囲の「癌患者さん」という偏見や過剰反応

    ◆人生や死を考えるつらさ

    癌という大きな病気に直面すれば、現実的な治療や病気に対する不安だけでなく、時には死の恐怖に向き合ったり、それまでの人生観が揺らぐこともあります。

    • 自分の人生は何だったんだろう?
    • 生きる土台や、よりどころが失われたと感じる
    • 過去の出来事や人間関係への後悔の気持ちにさいなまれる今、生きていることが無意味に思えてしまう
  • 第3節 家族が癌と診断されたら

    ご家族が癌と診断されたら、患者さん本人はもちろん、ご家族もつらい気持ちになるでしょう。どのような治療ができるのか、どれくらい入院するのか、痛みはでるのか、薬の副作用はなど、考えはじめたらきりがないくらい、長い時間心配する方もいるかもしれません。

    ◆患者さんへの接しかた

    癌と診断されてショックを受けている患者さんに、どう接すればよいかわからなくなることもあると思います。しかし、患者さんのことを常に心配して暗い表情をしていては、患者さんもご家族も疲れてしまいます。出来る範囲で一緒に過ごす時間をつくり、患者さんがリラックスできる環境を作るように心がけることが大切です。

    無理をしては、患者さんもご家族も疲れてしまうので、お互い頑張り過ぎないようにするとよいでしょう。患者さんは、つらい症状や治療でふさぎこんだり、普段以上にわがままになったり、ひどい場合はうつ状態になることもあるかもしれません。ご家族も長い時間患者さんを支えることに少し疲れてしまうときもあるでしょう。そんなときは、治療を少しだけお休みし、好きなことに時間を費やすのもよいかもしれません。

    患者さんも、ご家族も、気持ちがつらくなってしまったときは、医療者につたえましょう。一緒に対処方法を考えてくれるはずです。

    ◆治療について考える

    癌には様々な治療法があります。患者さんと一緒に医師の話を聞き、病状を知り、必要であれば患者さんもご家族も納得できるよう、癌の情報を集めるとよいでしょう。治療について気になることや心配なことがある場合は、遠慮せず医療者に相談し、つらい症状がある場合は、つらいと伝えることが治療の第一歩です。伝えないと、医療者は対処することができません。患者さんが伝えるのをためらっていたら、ご家族の方が伝えてもよいでしょう。

    また、患者さんが大切にしたいことで、治療方法が変わってくることもあるかもしれません。治療に専念するのか、仕事と治療を両立したいのか、など患者さんの思いを聞いてみましょう。患者さんの思いが叶うように一緒に考えることも大切です。

    入院になると費用が心配になる方もいると思います。その場合は、医療ソーシャルワーカーに相談することもできます。また、治療費については、公的機関の制度を利用することもできるので調べてみるとよいでしょう。ご家族のサポートで、患者さんは安心して治療に専念することができます。

    身体や心のつらさが強いときには、癌に向き合っていく力も湧いてこなくなってしまいます。癌の治療中も、これらのつらさをやわらげる対処をすることは、治療を続けていくためにも大切なことです。医療者は、癌治療とつらさをやわらげる支援の両方を行います。

    治療の主役は、患者さんご自身です。つらさや痛みをはじめとする身体と心の状態を、まず、ご自身で把握することが大切です。医療者が、そのつらさをやわらげ、患者さんの意向に沿った療養生活を送れるよう、最大限の支援を行います。

    つらさにもさまざまなものがありますので、「いつから」「どこが」「どのようなときに」「どのくらい」「どのような状態なのか」を、医療者に具体的につたえましょう。病院に緩和ケアチームがある場合、担当医とは別に、緩和ケア専門の医師や看護師、薬剤師や相談員と話をすることもできます。また、直接医師に質問したいことがあった場合には、その調整もしていただくことができます。どんなに細かいことでも相談すれば、良い方法が見つかるように支援されます。

  • 第4節 癌の生存率

    今では5年生存率は60%を超えています。癌は確かに怖い病気です。しかし、全癌の5年相対生存率は64.3%と公表されており、今や癌は治る時代といわれています。にもかかわらず現在でも癌が怖い病気と思われている理由の一つが、一日中続く激しい痛みです。しかし、日本では「癌そのものに対する治療」に比べ、「癌の痛みに対する治療」はそれほど注目されていませんでした。(ペインクリニック)

    ◆癌の5年相対生存率

    2節図3
    ※相対生存率とは:癌と診断された場合に、治療でどれぐらい生命を救えるかの指数。

    ◆癌検診の受診率

    2節図3
    日本とアメリカの癌検診受診率の違い

    日本では、癌が原因で亡くなられる方が増加傾向にある一方で、じつは現在、アメリカなどでは、癌によって亡くなる人の数が横ばい、あるいは減少傾向にあります。(特にアメリカでは、国を挙げての取り組みにより、90年代から減少の一途を辿っています)

    この違いは、いったいどこから来ているのでしょうか?その大きな違いのひとつは「癌検診の受診率」にあると言われています。

    いまや、男性の2人に1人、女性の3人に1人が、癌にかかると言われています。つまり、癌は、あなたにとって身近な病気です。だからこそ、正しい知識をもち、そして、それを行動に移すことこそ、本当に大切なことなのです。

    ◆早期発見にためにも癌検診を受けましょう

    マンモグラフィー検査(乳癌)
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    胃カメラ検査(胃癌)
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    便潜血検査(大腸癌)
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  • 第5節 癌の痛み

    あなたの癌の痛みをチェックして医療者につたえましょう。

    ◆癌の痛み伝達シート

    痛みは血液検査のように、医療スタッフが目で見て確認できないもの。患者さんにしかわからないものなのです。ささいな痛みでも結構ですので、医師や看護師、薬剤師に遠慮なく伝えて下さい。そして、一緒に不快な痛みを和らげましょう。

    早期癌患者さんの20~50%が痛みを自覚し、進行癌患者さんでは4人に3人が中等度から重度の痛みを経験します。残念ながら、どんな名医でも患者さんの痛みの強さは分かりません。だから、我慢しないで、痛みが消えるまで医師や看護師、薬剤師につたえましょう。

    ここでは、癌に伴う色々な『痛み』について説明しましょう。

    ◆大切なのは痛みを忘れて安心して過ごせること

    2節図3 2節図3

    もっとも大切なのは、患者さんが痛みを忘れて安心して過ごせるということです。

    たとえ治療中でも、旅行や外出など、今までどおりの生活を送ることができます。

    前向きに「癌そのものの治療」に取り組むことで、自分らしさを取り戻すことができます。


    2節図3

    補足:WHO方式癌疼痛治療とは

    1986年に発表された「WHO方式癌疼痛治療法」は、「癌の痛み治療」として世界中で実践されていて、多くの癌患者さんを痛みから解放することに貢献しています。

    ◆癌患者さんに対する痛み治療のあり方

    この治療法が提唱される以前の考え方は、癌そのものの治療が効果を上げなくなった末期に「痛みの治療」を行うというものでした。(図1)そしてWHOでは、癌と診断されたその時から、癌そのものの治療と並行して必要に応じた痛みの治療を行うよう提唱します。(図2)

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    ◆WHO方式癌疼痛治療法の有効性

    2節図3

    ◆具体的な治療法について-WHO方式癌疼痛治療法-段階的に進める痛みの治療

    ①第一目標
    痛みで眠りを邪魔されない
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    ②第二目標
    安静にしていれば痛まない
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    ③第三目標
    体を動かしても痛みが強くならない
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    ◆鎮痛薬の使い方:鎮痛薬の使い方は5つの基本原則があります

    日本でもWHO方式癌疼痛治療法の有効性が確認されています。90%以上の癌患者さんの痛みが消え(完全な除痛+ほぼ完全な除痛)、残りの患者さんの痛みも軽くできたという結果が出ています。

    1.できる限り飲み薬で治療する

    他人の手を借りずに患者さん自身で服用できることから、可能な限り飲み薬で治療します。飲み薬を飲むことができなくなった場合には、坐剤や注射剤、あるいは貼付剤を使います。

    2.痛みの強さに応じた効力の薬を使う

    鎮痛薬の種類は病状の進み具合や末期か否かによって決めるものではありません。痛みの強さに応じて、どの鎮痛薬を使うのかを決めます。

    この選択基準は、「WHO三段階除痛ラダー」と呼ばれる階段図で、世界共通のものです。

    第一段階(痛みが軽いとき)
    非オピオイド鎮痛薬*
    アスピリンやアセトアミノフェンが代表的なお薬です。
    第二段階(痛みが中くらいのとき)
    弱オピオイド鎮痛薬*
    ±非オピオイド鎮痛薬*
    コデインが代表的なお薬です。
    第三段階(痛みが強いとき)
    強オピオイド鎮痛薬*
    ±非オピオイド鎮痛薬*
    モルヒネが代表的なお薬です。

    *「オピオイド鎮痛薬」とは,神経の中に分布しているオピオイド受容体と結合して、痛みを緩和する作用を持ったお薬です。

    尚、「癌の痛み治療」は痛みの強さに応じて①~③のどの段階から始めてもよい。

    2節図3
    WHOの三段階除痛ラダー(階段図)

    3.痛みが消える量へと増やして使う

    痛みが消えるまで、医療用麻薬の量を増やしていきます。アルコールに対して強い人、弱い人がいるように、鎮痛のための医療用麻薬の十分量にも個人差があります。痛みが消えるその量が、その人の十分量なのです。「WHO方式癌疼痛治療法」の最も大切なことの一つです。

    4.時刻を決めて規則正しく使う

    痛みが出たときに鎮痛薬を使用するという方法では、いつまで経っても痛みから解放されることはできません。鎮痛薬の効果が切れる1時間前に次回分を服用するという「時刻を決めた規則正しい服用」が大切です。

    他の薬と一緒に、服用時刻が日によってバラバラな食後に服用してはいけません。必ず毎日決められた時間に服用しましょう。これも「WHO方式癌疼痛治療法」の最も大切なこと。

    5.上記の1.から4.をふまえたうえで、細かな点に配慮する

    どの鎮痛薬にも少なからず副作用が発現します。でも心配しないで下さい。あらかじめ副作用を打ち消すためのお薬を併用します。また、患者さんの悩みもそれぞれ違いますので、悩んでいることを医師や看護師、薬剤師につたえましょう。患者さんの介護にあたるご家族の方が患者さんの悩みを積極的に聞いてみることも大切です。

    ◆癌は時には痛みを伴います

    癌はときに痛みを伴います。でも心配しないでください。癌の痛みを取る治療法があります。まずは、癌には痛みが出ることを知りましょう。

    ・「癌の痛み」の出現頻度
    早期の癌でも、「癌そのものの治療」を受けている方の3人に1人に痛みが出てきます。
    終末期癌では6割以上の患者さんに痛みが出現します。
    ・癌の痛みと日常生活での痛みの違い
    癌の痛みのほとんどが、一日中続く持続性の痛みです。
    50%は強い痛みで、30%は耐え難いほどの痛みです。

    ※調査会社に登録されているモニターとしての癌疼痛治療を受けている外来患者へのインターネット調査であり、有効回答数は300名(男性43.3%、女性56.7%) 小川節郎:癌疼痛治療患者調査レポートVol.1,p.2

    ◆癌の痛みが出ても、我慢しないでください

    下記の調査結果が示す通り、今でも多くの人が「癌の痛み」を我慢しています。

    2節図3
    基本的に癌の痛みは我慢するものと思いますか?
    2節図3
    あまり痛みを訴えると、そのことが癌の治療の妨げになるのでは?と心配に思いますか?

    ◆癌の痛みは治療できるのです

    日本では「癌そのものに対する治療」に比べ、「癌の痛みに対する治療」はそれほど注目されていませんでした。

    癌そのものの治療(手術・抗癌剤・放射線治療など)
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     癌の痛みに対する治療(鎮痛剤の内服など)
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    ◆癌の痛み治療について

    もし、あなたやあなたの大切な人が、癌にかかった場合に知っておいて欲しいこと。そのひとつが、この「癌の痛み治療」なのです。命を脅かすだけでなく、耐えられない痛みや苦痛などをもたらす「癌」なのです。

    しかし、この治療法の存在を知っているだけで、癌になってしまったときでも「癌そのものの治療」に加え、「痛み治療」についても調べるという発想が生まれます。癌克服のために、「早く見つけて、痛みを取って、早く治す」。

    それが、痛みを取って日常に近い生活を送る第一歩になるのです。

    早く痛みを取って癌そのものと闘う。痛みを取って日常に近い生活を送る。
    2節図3 2節図3
    激しい痛みを我慢しながら癌そのものを治療しなければならない
    2節図3
    あなたはどちらを選択しますか?
    2節図3